思いつき
イノシシの死体は、左後ろ足の肉を食用にしてあとは埋めることにした。
皮は売れば金になりそうだというのは、埋めた後で気が付いた。
これも今後の教訓だな。
☆ ★ ☆ ★ ☆
というわけで、異世界生活……あれ? 何日目だっけ?
なんかもう数えるの面倒になっちゃってさ、40日以上経ってるのは間違いないけど。
最近はタッキを街で連れ歩いていたりする。
門でチェックされるのは俺だけだ。
戦争しているってのに、警備ザル過ぎないか?
もちろん首には壊れた奴隷の首輪を着けてある、絶対外すなよタッキ。
あと、奴隷の首輪を着けると会話ができなくなるんだから、喋るのも駄目だからな。
……だから! スキップもするんじゃねーよ!
…………
「おっ! スイカ……だよな」
露店の八百屋にスイカと思しきものが売っているのだが、ソフトボールよりちょっと大きいサイズで、しかもなんか形がいびつである。
普通に育てれば自然に丸くなるはずなのだが? いびつな形になる理由が解らん。
でも、表面の模様はちゃんとスイカなんだよなー。
「らっしゃい。スイカかい? 採れたてで瑞々しいよー。水筒代わりに1つどうだい?」
やっぱりこれスイカなんだ。
なんか横でタッキが『スイカ買うの?』みたいな疑問形の顔をしているな。
いいじゃんスイカ、今日はそこそこ暑いし。
「ひとつ下さい」
「あいよ。20ギニスね」
けっこう安いな、まぁこの大きさだし形も微妙だからな。
金を払って良さげなスイカを、タッキの背負い袋に仕舞う。
背負い袋とかスイカを気兼ねなく買えるようになったとは、感慨深いものがあるよなー。
小さくてもそこそこの重さのあるスイカだったが、品質向上でパワーアップしているタッキにとっては軽いものだ。
スイカは昼飯の時に食べるのだ!
楽しみだなー。
…………
ゴブリンと蟻は世代交代していた。
一斉に土に返られてしまうと都合が悪いので、少しずつローテを組んで栽培するようにしている。
量産型タッキも昨日土に返ってしまったので、周りにいるのはゴブリンと蟻と新たに仲間に加わったイノシシである。
タッキの種は、一人に付き6粒だった。
1株に生る実の数と1個体に入っている種の数は、どうやら同じらしい。
量産型タッキが土に返ったのがたぶん収穫してから40日後だから、収穫物が存在できるのは収穫にかかる日数×10と考えて良いだろう。
ちなみに魂を入れたタッキは量産型とは違うらしく、土に返る気配は全くない。
検証しているうちに、いろいろ解ってきたぞ。
そんなわけで、今回もまた検証。
今回のテーマはズバリ『畑で獲れたイノシシの肉は、食べても問題無いのか?』である。
普通に買って来たイモを種イモとして栽培したイモや、食べた後に残った種から育てたトマトなどは、土には返らない。
普通に腐るだけだったので、食べるのには問題無いだろう。
問題は土に返ってしまうイノシシである。
土に返ってしまう前のイノシシを食べて、消化吸収して肉体の一部になってから土に返る時間になってしまっても、取り込んだ肉体への影響は無いのかどうか……という検証である。
一応動物実験はしてみた。
ネズミを何匹か捕まえてきて、イノシシを食べさせてみたのだ。
見た目とりあえず何ともなかったので、今度は人体実験である。
タッキで。
いやほら、タッキなら死んでも魂を量産型に入れ替えれば済むしさ。
自分でやるよりお手軽かなー、と……。
いいよね?
そんなわけで、タッキにはイノシシのもも肉を試食してもらおう。
「ほーら、焼けたぞー。よし、持ってけ」
「ゴブ」
こんがりと焼けたイノシシのもも肉が、銅の皿に乗せられてタッキに運ばれていく。
運んでいるのは量産型ゴブリンだ。
「おぉー! いいんですコンか?リョーキチさん! これぜんぶタッキが食べてもいいコン?」
「おう、いいぞ。今日は特別だ」
完食してもいいぞー……いや待てよ、食べ残しがどうなるかもちょっと気になるな。
まぁ、骨付き肉だから骨は残るし、いいか……。
…………
「なぁ、獣人って骨まで食うのか?」
さっきまでイノシシの骨付きもも肉が乗っていた銅の皿には、今は何も乗っていない。
「初めて食べたけど、骨って意外と美味しいんだコン! リョーキチさんはお料理が上手なんだコン!」
文脈を読み解くと、たぶん普通は骨は食べないんだな……。
てか、骨まで食ってんじゃねーよ!
まぁ当初の実験の目的は果たしたから、とりあえず良しとするか。
「ということで、デザートにスイカを食べよう」
「なにが『ということ』なんだコン?」
「気にするな。諸々の話を終わったことにして、別な展開にしようというセリフだ」
「そうなんだコン」
会話をしながらスイカをザクザクと切り分ける。
おぉー! ちゃんと中身が……白っぽいな。
ほんのり赤くはなっているのだけれど、かなり白っぽい。
なんかスイカっぽくない。
「スイカちょーだいコン! お肉食べた後だから、お口をさっぱりしたいコン!」
「ほれ」
「スイカ♪ スイカ♪ はむはむ……お汁がさっぱりだコン」
ふむ、毒は無いようだ。
俺も食べてみよう。
シャリっとした食感と溢れる果汁……全然甘くないな。
何と言うか水っぽい。
ちょっと青臭くて、ほんのりとした甘みがある。
確かに口はさっぱりするのだけれど。
「なんか納得いかん……」
「なにがだコン? ふつうに美味しいスイカだコン」
「俺のイメージするスイカじゃ無かった」
こんなのスイカじゃねーし!……この味は例えて言うと何というか、キュウリ&スイカ水?
「リョーキチさんのイメージのスイカって、どんなんコン?」
「もっと中身が赤くて、味が甘いんだよ。正直言って、これは許せん」
「そうなのコン?」
「よし! 決めた! この俺が品種改良して、俺のイメージ通りのスイカを育ててやる!」
「おぉー! だコン!」
俺の異世界での当面の目的は決まった!
俺たちのスローライフはこれからだ!
☆ ★ ☆ ★ ☆
いや、終わんないから。
まだ序盤だから。
とりあえずあれから3日ほど経過して、もも肉を美味しく頂いたイノシシも土に返ったのだが、タッキの体には別段異常はない。
俺が畑で育てたイノシシは、食べても問題が無さそうだ。
よし、これで食料事情が大幅に改善するぞ!
…………
検証が終わったので、あとは読書の時間。
「また魔法の本だコン?」
「まぁねー。あと水系上位の魔法の本があればコンプできるんだけどなー、古本屋に無いんだよなー」
「普通の本屋さんは駄目なんだコン?」
「高くて手が出せない」
俺は古本屋で手に入れた魔法の本で魔法を勉強していた。
だって使ってみたいじゃん、魔法。
使えるようになったのは、お肉を焼いた時のような火の魔法などなど。
下位だとライターみたいな着火に使える火、上位だとコンロみたいに使える炎が使えたりする。
風の魔法は下位だと風鈴を鳴らす程度、上位だと扇風機の強並の風を起こせる。
地の魔法は下位だとスプーン、上位だとスコップで穴を掘る程度の魔法だ。
ちなみに光の魔法は灯りに使え、闇魔法はサングラスやUVカットに使用される。
ぶっちゃけショボい。
確かに神様はこの世界の魔法には派手なのは無いとは言っていたが、ここまでショボいとは……。
使えねー……いや、どっちかというと便利に使えるのだけれど、戦闘とかにはほぼ意味が無い。
上位の水魔法よりもたぶん、農業用水のほうが使えるんだろうなー。
畑でも耕すか……。
…………
だんだんと畑の面積が多くなってきているので、今は全ての畑を地下に作ってある。
地下とかどう考えても普通に育たないはずなのだが、何の問題も無く育つし収穫もできる。
白いゴブリンとか収穫できるかなと、密かに期待していたんだけどなー。
光合成とか、どこ行ったのだろう?
とりあえずさっき食べたスイカの品質でも上げようかと、乾燥させた種を蒔くべく畑を拡張していたら、2種類の花が目に入った。
ゴブリンの花とイノシシの花だ。
どちらも葉や花の形は同じだ、違うのは花の色や大きさくらいである。
植物としては少なくとも同じ科に属するのは間違いないだろう。
その時に、つい思い付きで実験してみたくなってしまった。
ゴブリンの花とイノシシの花、この2種って交配できたりするのだろうか?
思いついてしまったものは仕方がない、やってみることにしよう。
…………
この時、俺は気付いていなかった。
この思い付きが、俺の異世界での人生を大きく変えてしまうことに……。
展開遅くてすんません。
悪の秘密結社まで、あと3話ほどお待ちください。




