1-7. 友達と魔法の可能性を探しましょう
メリーさんがやってきました。
曜日設定を変更しました。
1-7. 友達と魔法の可能性を探しましょう
翌朝。
秘密基地は跡形もなく吹き飛び、そこは焼け焦げた草木と開けた広場になっている。
私たちは、アンナにこってりと絞られた後、エルザとその場所に来ていた。
「エルザは何ともありませんか」
「私は何ともありませんよ」
「2人とも何ともないわけないでしょ」
「「そ、そうなんですか?」」
切り株の上に座っていたアンナが、頬杖をつきながら、気だるそうにいう。
昨日の後始末、特に原因を追求するのに時間がかかってしまったようだ。目の下にはクマができ、肌も少し荒れている。
そんなアンナは、寝不足の中、可愛い弟子たちの様子を見に来ていた
「いつものあなたたちなら、私がいたことに気がついていたわ。」
確かに普段なら気がついただろう。
私たちは気まずくなり、視線をそらす。
「攻めているつもりはないわ。ただ、2人とも無茶をし過ぎ。大人たちがそんなに頼りない?」
私は口から言葉か出ず、エルザは少し苦笑いしていた。
アンナは私の鞄から魔石を全部出すように言い、私はとりあえず全ての魔石を出した。
「あの時、エルザが握っていた魔石は、普通の火属性が込められていた魔石だったわ。」
アンナは、色事に魔石を分け、その中でも大きな魔石を7つ並べ 地面に何やら、絵を描いき始めた。
「人にも魔物にも向き不向きがあるのは分かるわよね。魔法だって例外ではない。」
通常、魔法を使うと魔法攻撃力が発生する。人だと魔法防御力が、物だと魔法抵抗力が、魔法攻撃力に抵抗でき、抵抗力が高いほど魔法を受けにくくなる。
得意の魔法だと、通常より魔法攻撃力は強くなり、魔法防御力も強くなる。
不得意の魔法だと、通常より、弱くなる。
ただ、得意不得意といっても一定して強弱するわけではないらしく、個人差によるものが大きいらしい。
「そうね。この魔石を持って、あっちに向かってウィンドを使ってくれるかしら?」
アンナは私に風属性の魔石を渡すと、エルザを連れて少し離れる。
「それでは、いきます。『ウィンド』――!」
ズゴッーーン!!!
私の手から放たれた魔法は、木々をなぎ倒し消えていった。
…
……
………
「「は?」」
「で、これがその強さというわけ。あ、もう魔石から手を離して大丈夫よ」
私の先には、根元からなぎ倒された木々が転がっていた。
私は左手を突き出したまま固まり、エルザも目を白黒させている。
明らかにウィンドのレベルではない。この前のウィンドベールより威力だけで比べればこちらの方が強いだろう。だからと言って初級風魔法のウィンドが出していい威力ではないはずだ。
私は、恐る恐る魔石を返すものの、手の震えが止まらない
教える前に、魔法の可能性について探究し続けなければ、自分の変化にも周りの変化にも適応できないだろう。そのことを私は、肌で感じていた。
――基本的なことを知らないままで、何が魔法を教えますですか!
わなわな震えていた私は、アンナに額を弾かれて我に返る。
「魔石は色でどの属性かが分かるのは知っているわよね」
「「はい。赤なら火、青なら水、茶なら地、緑なら風、黄色なら雷ですよね」」
私は、額をさすりながら、エルザと一緒に返答すると、今度はエルザが緑色の魔石を受け取った。
「□□▼『ウィンド』!」
無詠唱ではなく完全詠唱したエルザは、身を引きながら魔石を突出すと、そよ風が私たちに襲う。
「と、この通り、得意でない人が使うと普通のウィンドになるわけね。それにリンの場合だと綺麗に前に放てたけど、エルザの場合は自身の方に返ってきた。いきなり自分に向けるのはどうかと思うわよ。」
「いえ、思っていた方に動かせなくて。うまく動かせないです。」
「そうね。つい昨日魔法を使えるようになったばかりなのだから、うまく動かせないのが当たり前よ。リンが当たり前でないだけだから、練習していけば、うまく扱えるようになるわ。」
エルザが魔法を放つ前に、アンナは私を抱えており、強く抱きしめる。
私は、そよ風と背中から伝わる桃源郷を肌で感じつつ、魔法について考えていた。
(確かに私の得意魔法は風属性ですから、魔法を使えば威力が高くなります。でも、昨日エルザの炎は、本当に魔法だったのでしょうか。アンナさんが、昨日のことは初めて魔法を使った暴走ということで、村のみんなは納得していましたが、どうしても私はMP以外のエネルギーが使われていたような気もするのですよね)
やがてアンナは抱えていた私を下すと、エルザの頬を引っ張った。
「2人ともすべすべで羨ましいわ。それにしても、エルザちゃんの身体はあったかいわね。よし!私は家にいるから、何かあったら家に来てね。」
気合を入れたように言い捨てて、アンナは広場から離れていった。
「あ、エルザは火属性の魔法は当分禁止ね。もちろんリンも分かっているわよね。」
「「はーい。」」
「伸ばさない」
「「はい!」」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
それからの日々は、大きく変わることはなかった。
朝は父さんと剣使った戦闘訓練。
日中は、タクトたち村の子供たちと一緒にお勉強または、遊び。いや、遊びの範囲を当の昔に超えていますが……
夕方は、エルザと一緒に魔法の特訓。
夜は、専門化による魔法訓練。
寝る前は、母さんと一緒に風魔法の勉強。
アンナによる指導により、私の魔法コントロールはメキメキ伸び、エルザも初級魔法を使うことができるようになっていた。
私たちが急成長したのは、競い合う友達がいたこと、アンナの指導方法がよかったこと、魔法を使っても大丈夫な環境があったことだろう。それに加えて魔法への探求心があったことも関係あるのかもしれない。
夜尋ねた時に、あったことを話し、疑問に思ったことを聞く。
その場で修正できるものは、その場で教そわり、どちらかができていることは、教え合った。
まあ。そういうわけで
「秘密基地を再建しましょう!」
「何がそういうわけなの?」
エルザは、私が簡易的に作った木の板の上で、体育座りしながら炎の玉を動かしている。
エルザは朝からずっと火を出し続けることができるようになり、魔法のコントロールもできるようになったので、私は予てから計画していた魔法を使って秘密基地を作りに取り組みたくなったのだ。
「秘密基地を吹き飛ばしてから、もうすぐ1ヶ月が経つわけですが、未だに広場のままです。」
「そうだね。今だったら吹き飛ばさない自信はあるよ!」
「そこで魔法を使って、この下に秘密基地を作ろうと思うのです!」
私は地面を指さしながら、高らかと言う。
最近、やたらと視線が増えたことも早急に取り組みたい要因だ。今もサンニュやガルヴィーがこちらに魔導映写機を向けている。
メイドとして人前で休むことは許されない。あってはならない!
けどまあ、ゆっくりする時間も欲しいわけで……
いい加減、自分だけの空間を確保したいのだ。家で休めって?家はあれだ。メイド服やポーション等を作っていたら、寝るスペースしかなくなってしまったのだ。
秘密基地を作れば、作ったものを置いとく事もできるし、一石二鳥でしょう。
以前タクトに頼んだネジや加工済みの木は、広場に揃った。山のように積み立てられている。
普通に作るのはもうできるのだ。今度は、魔法で強化すれば、地下に秘密基地を広げていくこともできるのではないだろうか。
やはり私は天才です。
「……魔法が使えるようになってから、リンちゃんがビックリするほど、ぶっ飛んでいる件について」
おっと、そんな目を私に向けないでほしいものです。
だが、今の私はそんな言葉で心に傷を付けることはできません。ええ、できませんとも(涙)。
初級魔法でも土の壁を作れば頑丈にできるのだ。地下の秘密基地はロマンがあるではないか。
「そのような言葉を教えた記憶はございません!」
「え?いつもリンちゃんがボソッと言ってるよ?」
エルザの言葉に、私は幻聴が聞こえるほど、言葉が何かに突き刺さる音が聞こえた。
そして、ふらふらとエルザに近づき、肩を掴むと魔力を放った。
「さぁ、今すぐ取り組みましょう!」
「ふはは!私に魔法は効かないのだ!」
そう、エルザの魔法防御力に関しては、ステータス以上に異様に高いのだ。いくら魔力で威圧しようにも全く臆さない。アンナさんの初級魔法を浴びてもケロッとしていた。
それは、ここ最近で急成長したことに加え、剣の訓練を始めたことで、ステータスも心も成長していたから。それだけでは済まないだろう。
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ステータス
名前:エルザ
レベル:26
HP:454/454
MP:51/51
SP:35/35
物攻:22
物防:9
魔攻:19
魔防:15 ←
素早さ:34
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♢ ♢ ♢ ♢ ♢
次の日。
タクトのありがたい講義の後、いったん家に帰り、メイド服に着替えた私は、いつもの場所に来ていた。
私たちの秘密基地があった場所には、エルザ以外に、村の子供たちがいた。子供たちのまとめ役であるタクトが指示を飛ばし、みんなが和気藹々と秘密基地を作っている。
あちらこちらに見慣れた顔があり、私と目が合うと気まずそうに目線をそらす。
私は近くにいたタクトの腕をひき、眼を飛ばす。
「――なぜみんながいるのですか?いつもと様子が違うようですが、説明を求めます」
「無茶する子の見張りだとよ。それに、この場所はもともと、リュウゼンさんが譲った場所で、女神像が奉られていた場所だ。いい加減、直そうと思っていたんだ。様子が違うのは、あれだ。まず自分の服を見てみような」
私の睨みなど意に介さないタクトは、指示を飛ばしつつ、私の目線に合わせて答えた。
みんながいる理由はまあ、分からなくもないが、それでも、目線を合わせない人達までもが手伝う理由が分からない。
上手にできているでしょう。このメイド服。
私は、メイド服の襟元や袖を掴み確認する。
「それに、見てみろよ。」
「え?」
言われるがままに、タクトが顎で示した場所を見てみれば、エルザが楽しそうに魔法を披露していた。
村の子供たちは魔法センスの塊なのだろうか。私が魔法である鑑定を使えるようになるのに3ヶ月はかかったのだが。
エルザに続いて年長者たちは、そろって同じ魔法を披露している。
「『ファイヤボルト』――!それもう『いっかい』!」
エルザは、簡略詠唱で炎の玉を二つ出し、器用に動かしている。
年長者の人も炎の大きさは負けるものの、器用に水の玉や土の玉を生み出し、動かしている。
「魔法は使われてから始まりだ。魔法の塊を制御できるようになって初めて魔法が使えると言っていい。そしてそれは、みんな、リンたちを見て思ったことだ。」
「は?」
いきなり言われてもさっぱり分からない。
私の思っていたことが顔に出ていたのだろう。タクトは苦笑いしながらも続けた。
「あの時、エルザが初めて魔力を感じたにしては、でかすぎる炎だった。暴走にしても安定していたし、エルザは火属性の女神フレイルに愛されているのだろう。もしかしたらリンと同じで、ご先祖様が契約していたのかもな」
「……そうかもしれませんがーー」
「と言うのは建前でな。リン」
「改まって何ですか。先程から様子がおかしいですよ」
タクトは、ある方向に指さした。
私は、指が示している方を見ると、昨日と同じく木の山になっているものがある。
タクトは大きく息を吸うと一度吐き、上の空を向いたまま口を開いた。
「お前、写真撮られていたぞ」
「え?ええ。最近撮りはじめましたよね」
「ガルヴィーとサンニュにお説教はしたが、どうやら最近ではなかったらしくてな。4歳からの3年間で10冊の本になるぐらい撮っていたよ。目線を合わせなかった者は、リンの服というのもあるだろうが、それ以前に写真が収められた本を見ていたらしい。それに、もう町の方に、かなりの部数が売れていたみたいだぞ」
「ええ!?ちょ、ちょっ!?どどどど、ど、どういうことですか!!!」
「そこの隅っこにある10冊が、そうらしい。」
私はタクトの襟元を掴み力強く揺すった。確かに、置いてあるように見える。
私の視界の隅にはエルザが何かを言っているが聞き取りなくない。あ、メイド服褒めてくれたありがとうございます。
え?どゆこと?
「リンちゃん。可愛く撮れていたよ?」
「そういう問題ではないので『すうぅぅぅぅぅぅ』――!!!」
エルザが中身を見せてくれたが、今の私は、可愛く撮れていたどうこうの問題ではない。
まあ、確かにエルザと一緒にいることが多かったから、エルザも映っているし、可愛くも撮れてはいるが。
メイドとして振る舞う以前のものや、だらけきっているもの、つまりは家の中以外でのあられもない姿が撮られていたのだ。
嫌な気持ちが膨れ上がってくる。でもそれ以上に羞恥心で頭が破裂しそうだ。
「いくらエルザと私が可愛いからといいて、すべてを許すと思わないでください!」
法律など罰するような施設がない村ではどうしようもない。
この怒りはどこに収めましょうか。ええ。
~ステータス~
名前:リーン
レベル:35
HP:601/601
MP:217/217
SP:53/53
物攻:31
物防:18
魔攻:36
魔防:22
素早さ:49
魔法:<鑑定><魔力操作><隠密行動><魔力解放><ウィンドベール>
加護:<ウェンディの祝盃>