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1-3. 友達に魔法を教えましょう(2)



1-3. 友達に魔法を教えましょう(2)




 村長宅前広場。

 ここは、村の子供たちが集まるには十分すぎるほど広さがあり、日中は大抵ここにいる子供が多い。安全のために、4歳以上の子供はここに集められている。しかし、基本的に親たちが介入することはなく、介入は村長がお昼を用意するぐらいだ。


――建前は、分かりますが、本当の理由は何なんでしょうね。


 本当の理由は、何なのかは知らないし、リーンも4歳の時に連れてこられたきりで、ここにいることが多い。それに、ここに来てから教えている人は3年間ずっと同じ人だ。リーンたちの村は、子供の中で一番の年長者が中心となって他の子供たちに物事を教えることになっているからだと言われたが、彼以外にこの村で教えることができる人はいるのだろうか。


(そう思わせるほど、彼の教え方は独特で覚えやすいんですよね)


 分からないことはあまりやる気がでてこない。

 人だったら誰しもが思うことだろう。

 しかし彼は、気づかせる。


 例えば、戦闘訓練。この場合、鬼役と逃げる役に分かれた鬼ごっこが多い。ルールは、鬼の前で膝をついたら負け、暴力禁止。単純な遊びなので。初めはただの鬼ごっこだった。しかし、彼は鬼役にアドバイスする。


「二手に分かれて、左右から追い込んでみたらどうだ」

「身を隠して、出てきたところがばっと捕まえるとかどうよ」

「草で作った罠をしかけてみようぜ」

「ここの草木を少し踏み固めてみよう」


 最初の鬼以外には一切アドバイスをしないで、役を入れ替えて何回も行う。そうすると、知らない子達の方が不利なわけで……


 教えた方に、獣の捕まえ方や逃げ方を学ばせ。それに加えて、知らないことを聞きにいくことを自然とさせている。

 そして入れ替わることで、教えられたことを直ぐに活かせるようにしている。


 他のことでも同様で、読み書き、計算、野営等々、彼はいつの間にか学ばせている。

 そんな彼――タクトは、今日もいつもと変わらず、気だるけに教えていた。

 本来のタクトは、他の子供に積極的に教えるような人ではないのと思う。ただ、遊びの中で生き残る術を学ばせる技量がすごく、座学を面倒がる癖のある人という印象をリーンは抱いていた。なぜなら、タクトが計算や文字を教える時に限って大抵早く終わることが多いからだ。


「つまりだ、物事をすすめるには、順序立てが必要ってわけだ。そのためにも、騙されないように、文字を読むことと計算ができることは重要なんだ。だから、できるようになれよ!……それじゃあ……今日はここまでだ!できなかったものは誰かに聞けよ!じゃ、そういうことで」

「ありがとうございました」


 座学なんて必要ないねという子に対して、説明するタクトは、首の後ろに手を当て、一息つく。熱く語っているかと思えば、そそくさとどこかに行こうとする。そんな彼に、リーンはお礼を言うが、


「「「タク兄――ッ!教えて――!!!」」」


 直ぐにタクトは他の子供たちに取り囲まれ、困惑顔を浮かべていた。

 リーンはタクトの様子を視界に片隅に追いやると、エルザに声をかける。


「この後、どうしますか?」

「リンちゃん、今日こそ感じて見せるわ!」


「ぶふっ」

「タク兄どうしたの?」

「いや、何でもねえ」


 エルザはリーンに駆け寄よるとと、昨日の続きを早くしようと急かしてくる。

 エルザの声を聞いたタクトは息を詰まらせ、ぎょっとした目でエルザを見た。

 リーンを含め、年少者の女の子はタクトの奇妙な仕草に首を傾ける。。


 ――タク兄と呼ばれる人の様子がちょっとおかしいけど、勘違いでしょう。私たちにやましいことなんて、ないのだから!


 リーンはない胸を張って、ふんすと鼻から息をはいた。


 前世で神風店長だけを見て、たまにYesロリータNoタッチしていたリーンでも、今はエルザと一緒に何かしている方が楽しいぐらいだ。

 リーン自身も信じられないぐらいごく普通に、エルザの手を握る。


「早く行こう!」

「うん!」


 リーンとエルザは家から持ってきた魔法の書を握りしめ、いつも使っている広場に向かった。

 広場は村のあちこちにあるのだ。

 村長宅前の広場と違い、リーンたちがほっそり使っている広場は整備などする人がいるはずもなく、秘密基地みたいに使っているようなもの。


「今日は母さんから、魔法の書を借りてきました!」


 秘密基地に着くと、リーンは今日教えてもらったことなどすっかり片隅に置き、これからすることにワクワクする。


(異世界に来てからというものの、自己鍛錬ばかりしてきたけれど、自己鍛錬以外の方がメイドのスキルが磨かれている気がします。新しい発見、未知への挑戦、ワクワクが止まりません!ぐへへっ)


 そんなリーンより、目を輝かせているのはエルザだ。


 エルザは魔法を教え始めて数日では魔力を感じることができないままだったが、一向に諦める様子はなく、何か掴みかえたら嬉しそうに笑い、できなくても試行錯誤しながら必死になっている。言い初めの自分が諦めるわけにもいかず、新しい方法を一緒になって探している。

 なぜ頑張れるのか。

 それは、エルザも魔法が使いたいからだった。


 どうすれば魔力が感じられ、魔法が使えるようになるのか。


『リンは初めから魔力を自由自在に使えていたかもしれないが、父さんが初めて魔法を使えるようになったのは15ぐらいの時だったな。何となくこうすれば何が起こるのかが分かってだな、こう動かそうとすると、自然と口から声が出て、魔法が使えていたんだ。』


 リーンはお風呂で言われたこの言葉どおり、人には魔力を感じやすい時があることを実感していた。



 本来であれば魔法を自由自在に操れるのは一握りの魔法使いだけであり、リーンみたいに魔力で遊ぶことなどまず難しい。それができたのは、リーンがは魔法がない時を知っていたからであったためだ。そしてリーンは知らないことであるが、女神と対話した場所が魔力に富んでおり、魔力との親和性が高くなっていたことも関係している。

 この世界の人達は、生まれた時から少なからず魔力があるわけであっても、普通は魔力を感じられるようになるにはある程度の成長をしてからなのだ。魔力を感じ、魔法を使えるようになってから、魔法コントロールを始めると、それ相応の時間を有する。



 そのため、始めて魔法を教えた時のように木刀に魔力を付与することは、始めにするようなことではなかった。


――私の方法が誰しもにできるわけではないということでしょうね。


 エルザには、まず魔力がどういうものなのか感じ取る必要があるだろう。


「まずは、本の内容を読んでみましょう!」





――夕方。

 この数日で急激に変わることのないため、リーンとエルザは諦めずに、いくつもの方法を探し試していた。


「ねえ、手を添えるだけで魔力を吸い取って、魔法が使えるようになるものってないの?あ、ここの文字読めない。」


 リーンの向かいでは、眠そうな顔のエルザが本とにらめっこする。


「そんな都合のいいものがあったら、私も使いたいよ。ここは――」


 成長以外の方法で魔力を感じるのに試行錯誤したため疲れていたエルザは、考えが鈍くなってきていた。

 ああ。私も魔法が使いたい。

 そんなことを思っているエルザの目を覚ますには十分なほどの声量が聞こえてきた。

 

「帰ってきたっす――――!!!」


 おそらく村中に響いたであろう。

 村の防衛に行っている筈のハヤトの声が木霊した。


「ええ!?もうこんな時間!?」


 リュウゼンたち4人が帰ってきたのだ。

 彼らは、見通しが悪くなる前に帰って来る。けれど、できる時間まで周辺の魔物討伐をしている。つまり、日の入りが近いのだ。

 エルザは影の長さを確認して、あわてて本をリーンに返した。


「この後どうする?私、父さんが帰って来る前に家でお出迎えしたいんだけど……」


 不用意に返された本に傷をつけないように閉じたリーンは、エルザのそわそわした動きをみて、おしりについた砂を払った。


「もうちょっとしたかったけど、暗い所で本を読むのは目を悪くするっていうし……うーん。今日はここまでかな?」

「「それじゃ、片づけよっか」」


 魔法の本に書かれていた物を使ったまま、放置していたため、暗くなる前に、片づける。

 放置していてもよいが、明日もここを使うであろうことから、使えるものと使えないものを分けつつ一箇所にまとめておく。以前のように片付けから始めると、やる気が削がれるのだ。


(メイドとして、素早く正確に!ぐへへっ)


 リーンは、理想のメイドを想像しながらとこれは使える、これは使えない、と片付けていく。

 半ば作業と化していた時、視界の片隅に雑草が目に入った。


――今日もうまくいきませんでしたし、また別の方法を探さなくては。むむ、……陽が沈むまでもう少しありますし、少し整備でもしますか。


 片づけが終われば、少しの間雑草除去でもしよう。

 そうおもっていたリーンは、手が止まっているエルザに気づき、手を伸ばして途中で止めた。


「むむ?ちょっと待って?」


 エルザは、魔法のことを考えていたのだ。

 どうしてリンちゃんばかり。

 エルザは、手についた土を払いて魔法の本を掴み、リーンのことを睨む。


「何ですか?もう日も暮れますし、また明日でも」

「私は魔法が使いたい。」

「……そうですね。だから、魔法の本を読んでいたのではないですか」

「始めは魔力を動かすとか言っていたよね」

「私はそうして魔力の最大値が伸びていますから」

「何で私は魔力のまの字も体感しないまま、本を読んでいるの?ねえ何で!」

「そ、それは、母さんが、魔法を扱うにはまずこれだって言っていたからですよ」


「「…………………………………………………………………」」


 お互いに、長い間沈黙する。

 エルザがまっすぐリーンの目を見続けていると、リーンは目を反らした。


「沈黙していても日が暮れますし、帰りましょう」

「魔法使いたい!使いたい!使いた――い!!!」

「ちょっ!それは借り物なのですから、破こうとしないで、くだざい!」


 エルザは魔法の本を破こうとしながら、地団太を踏んだ。

 そんなエルザに対してリーンは、


――今までの行動から検証。過去での対応なし。

……

……ふぁっ!?……こんな時、神風さんなら!!!


「そうだ!父さんたちに聞きに行きましょう。アンナさんは魔法使いですし、何か知って――」

「すぐ行こう!」


 エルザの駄々っ子に騙され邸宅。

 両手で魔法の本を丁寧に手渡すエルザがにんまりと笑い、少ししてリーンは改めて今の状況に気が付いた。


 子供だけでうまくいかないのだから、より知っている人に聞きにいこう。7歳にしては賢明なエルザのことだ。そう考えて、行きたくなったのだろう。


「ほら、もう日も暮れますし、早くいきましょう!リーン!」


 リーンの内心を見透かしたかのように、エルザは口調を真似て、駆け出す。


「嵌められたあああぁぁ!」


 リーンは心の中で白目を向けながら思う。

 ハヤトの声が響いてからそれ程時間も経っていないことから、今から急いで向かえば、会えるはずだ。だけど、エルザに負けた気がして悔しい。


 リーンいつまでも動く気配のないのが伝わったのだろう。

 エルザは、動かないリーンの手を強引に引っ張って駆け出した。

 草木をかき分け、走る。

 走る。

 こっちの方が近いからと、道ではない道を走り抜けると見慣れた道に出た。そのまま村の出入り口に向かうと、あっという間に防衛にあたっている四人のうちの剣士の姿が目に飛び込んできた。


「リュウゼンさ――――ん!!!」


 エルザはリーンの手を離すと、リュウゼンに飛びついた。ついこの前、実の娘の裸体で興奮していた男のことだ。大事な親友にも魔の手がかかるかもしれない。

 リーンはエルザを守るために、エルザから反対側に飛び付いた。


「父さん!」


 実の娘に下半身が反応してしまうだらしない父親から、友達を守るために軽くにらみながら、エルザとは反対の手を引っ張り、威嚇する。


「おう!今日も元気だな!」


 軽々と二人を持ち上げたリュウゼンは、いつもと変わらない。

 そんな父親の姿に毒気を抜かれたリーンは、


「アンナさんに魔法について聞きに来ました!」


 キョロキョロと、魔法使いの姿を探した。


「そういえば、ガメッシュと話していたらいつの間にかいなかったな。」

「アンナさんなら、結界の綻びがないか見てくるって言ってたっす!」

「「あ!ハヤトさん!今晩は」」

「自分も居たっすよ!」


 さも今気づきましたみたいな二人の態度に、ハヤトは驚いたようにその場で四つん這いになり、地面を叩く。

 ハヤトの顔は涙目になっている。


「言っていいことと、悪いことがあるっすよ!よくもやったっすね。そっちがそういうことをするなら、こっちにだって考えがあるっす!


 そんな顔をあげたハヤトは、わしゃわしゃと手足を動かし、蜘蛛のような動きで近づいてきた。


「「あはは!ごめんなさ――い!」」


 真似できない。

 あまりにも奇想天外な動きに、二人は思わず、逃走をとる。


「キシャーッ!!」


 思わず逃げまわる子羊を、ハヤトは追いかけ回した。

 そんな光景を目の前で見ていたリュウゼンは、娘の子供らしい笑顔に安心し、ハヤトの頭を掴んだ。


「……まったく……。結界の見回りなら、そんなに時間がかからないだろう。もう日も沈むし、夕食の後にアンナの家でも訪ねてみるか?」

「「うん!」」

「それじゃあ、ハヤトが迎えに行くからまずはお家に帰ろうか。」


 止まっているハヤトの上にエルザは飛び乗ると、ハヤトの肩をポンッと叩いた。


「またあとでね!リンちゃん!ハヤトさんもよろしくお願いします!」


 エルザは、背中の上で肩を揺らし、固まっていたハヤトを起こした。

 そうして起こしたハヤトの首にぶら下がっていたが、足を回すと、リーンに手を振る。

 リーン器用なエルザに感心しつつ、手を振り返した。


「また後で!」


 リーンの反対の手は大きな手に握られ、そのまま暗くもはっきりとした道を歩いて帰途についた。









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