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1-14.友達と魔法の可能性を探しましょう(8)



1-14.友達と魔法の可能性を探しましょう(8)



村に着いたリュウゼン、ハヤト、ナイト、アンナの四人は、子供たちの案内のもと目的地に向かっていた。

 夕陽と月明かりが夜道を照らしている中、リュウゼンたちは神堂と思われる明かりを見つけ、息を飲んだ。

 近日中には完成するとは聞いていたが、オレンジ色に染まった白い壁は、街で作られるぐらい大きい建物がそこにはあった。

 辺り一面には、風の国を象徴である淡い緑色の花が咲いている幻をみるほど、神秘的に感じていた。


 建物の中に入ると、長椅子と五つの女神像が並べられている。

 女神像の前の教壇では、ノークスが涙を流しながら、何かを読む。自分の教会を持つのが夢だったのは、村人たちの周知の事実だ。

その彼が、自分が管理することになった神堂で、初めての教本を読むということで、村人たちが長椅子に座って各々好きなように聞いている。

 その様子をどこか遠いところをみながら、アンナは微笑むと、ナイトも村人たちに同調するかのように手を合わせ、軽くお祈りをささげる。


「素晴らしい神堂ですね。町にある神殿より、神々しさも感じます」

「今日も我らを守っていただきありがとうございます」

「すごいっす。どこかで見たことがあるようなないような。でもやっぱりすごいっす!」


 大人たちがお祈りを捧げている間に、タクトは今来た人たちに説明する。


「ここは一階に当たります。他には二階、地下があって、地下は隠し部屋がいくつかあります。一階の女神像が

全体の女神の円卓を作った物ですね。二階には女神像ごとの部屋がありますので、よりお祈りをささげたい場合は二階の部屋でお願いします。ノークスさんが今読んでいるのは、各女神様の一番言いたいことですね」


――風の女神:(つがい)となる人を一生愛しなさい。


――火の女神:何児より強い男を求めなさい、男は好きになった人より強くあるべし。


――水の女神:他人にされて嬉しい行動をとりなさい。さすればあなたに救いの手が差し伸べられるでしょう。


――雷の女神:ロリ巨乳最高!あちょっま。


――土の女神:貧乳はステータスよ、え?これと。




 幸か不幸か。

 この言葉が本当に言いたいことなのかどうかを、知っている人いない。

 リュウゼンもナイトも、女神の言葉と信じている。

 雷の女神を信仰している人が巨乳好きだったり、土の女神を信仰している男性の妻は貧乳が多かったりするのは、きっと偶然だろう。

 ただそれだけ、女神に対する信仰心が強い人に影響を与えるのは事実だった。


「それでは二階を案内し、そのまま地下も案内します。また再度、案内する時間を作りますので、お祈りをささげたい場合は、後ほど案内いたします」

「タクトが別人のようだ」

「黙れや、くそ親父」


 腕を組みながら頷くガメッシュに、タクトが言いあいながら建物を案内していく。

 階段を昇れば五つの入り口と、突き当りには下る階段が見える。

 二階は扉のない構造になっており、通路からは、月明かりに照らされる女神像が神秘的に映っていた。


「窓のガラスを女神様の色にするのが大変だったそうです」


 タクトの説明の通り、錬金術で色付きのガラス窓が生成されていた。

 太陽の光も、月の光も、ガラスの色になっている。


「錬金術はそんなこともできるっすか!」

「ふふっ」

「そういえばハヤトは町の教会を見たことがないんだったな。女神像が一つだけの部屋は、色が決まっているんだ。壁の色も丁寧に塗ってあるし、細かいところまでよくできてやがる」


 町の教会に入ったことのないハヤトの浮かれるようすを微笑ましくみる。

 ナイトは、すかさず町の教会の様子を説明し、ふと壁を見れば、あまりのできに驚きが隠せないでいた。


「皆様が入ってきた入り口は、今は開いたままですけど、自動で開閉する扉なんですよ」

「「何?」」

「本当っすか!」

「うそっ」

「魔道具なので普段は魔石に魔力を補充しないことにしています。そのため手動です」


 壁を指で撫でていたハヤトたちは、更に驚いた。

 そのまま魔道具の説明を求められたタクトは、カイを連れてきて、説明が行われる。

 町の教会にも自動で動く扉はあっても、入りたいときに自動で開閉する扉はなかったのだ。


アンナは頬を上げ、内心で燃えていた。

魔法を生活に便利に発展させていく姿は、まさしくかつて思い描いた、憧れそのままだった。

 私も新しい魔法を作る!

 地下に行けば、新しい発見があるのかしら……


「地下も気になるわ!隠し部屋にはどんな仕掛けがあるのかしら!」

「おいアンナ。カイを困らすなよ」

「困らせてないわ、ねえカイくん?」

「はい!そうですね!僕のロマンが分かってくれる人は少ないですから!」


 カイとアンナは、揃ってタクトを見る。二人の楽しそうな顔を見て、タクトは理解した。

 あ、これは研究者の目だ、研究以外の関係性は生まれないなと。

 周囲の気を配っていたリュウゼンは、先程から姿が見当たらないわが娘がどこにいるのかが気になってきていた。

 完成した日のため、村の全員が集まっているのにはずなのに。

 説明の区切りがついたと判断したリュウゼンは、地下に目線を向けながら、リーンの居場所を聞く。


「そういえば、リンはどこにいるんだ?ソフィアとスーは一階にいたのを見たんだが……」


 タクトは苦笑いを浮かべながら下を指さし。


――きっと、地下の女神像の前で、お祈りを捧げていますよ。


 隠し部屋の中の一つに、以前あった風の女神像を置いていることを補足した。




 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




 メイド喫茶というお店をご存知だろうか?



 ……うん。まあ知っている人が大半だろう。


 知らない人のために簡単に説明すると、可愛い服を着た女の子が、役になりきって営業するお店のことだ。

 オタクの聖地と言う人もいるが、()は違う。

 両親が他界し、死んだように生活していた自分を、オタクの友達が連れていって先のお店が、メイド喫茶だった。

 自分の殻に閉じこもっていたのを、現実を見させてくれた神風さんがいるから、()は生きがいを見つけたんだ。


「そんな照れくさいことを真顔で言わないでもらいたいところです。ようこそ信仰心の間へ。私はあなたの信仰心が強すぎるため、専用の間の使用が許されました。今後は女神像の前で信仰すれば、ここに来ることができるようになりますよ」

「絶対来ます!」


 周りには何もない空間に、私は膝をついている。私の大きな声は反響することなく、自然と消えていく。

 そのため、個々が壁のない果てのない場所だということがわかる。そして、目の前には七年もの間、見られなかった存在、大好きで会いたいと思っていた女神がいる。

 なぜ彼女のもとに来ることができたのか。死んだわけではない。

MPをお祈りとしてささげたのだ。捧げる量が多いほど天との繋がりが強くなると聞いたため、試したかいがあったというものだ。


 拳一個分――約1時間。太陽が傾くあたりのMPの回復量は250前後だった。

 MP最大値が変化するごとにMPの回復量も変化しているが、今の私のMP回復量は250前後。

 217のMPを一気に使わずに少しずつ使えば、SPが尽きるまで実質使い続けることができる。

 そして、あの日、お祈りを捧げた風の日に()が聞こえた。


――その努力を別のことにもしてほしいものです


 当時は幻聴と思ったが、どうしても幻聴だと思えなかった。

 幻聴とは聞きなれた音が聞こえるという、脳へのインプットが再生されるもの。前世の記憶は思い出そうとすれば、どうにか思い出せる程度のものなのだ。いくら大好きだからといっても七年間聞こえなかったものが突然聞こえるのだろうか。

 それに、タイミングがあまりにもよすぎた。


「はい。私はいつもあなたを見ていましたよ。そのために加護を授けたのですから。加護を持つあなたが、私にお祈りを捧げれば、繋がりはより強固なものとなります。その手段としてMPを捧げるのは間違ってはいません。ですが!一日に2000もお祈りに捧げる人は、普通いないんですよ。たった一人の信者に、そこまで信仰されるこっちの身にもなってください。からかわれたんですからね」


 膝をつき待機している私の周りを、ゆっくりとウェンディは歩く。

 そして、背中から包み込むように耳元で囁いた。

 その瞬間、わたしは自身の顔が熱くなるのを実感した。


「……もしかしてですけど、あの時、喫茶に来ていた四人の女性って……」

「……せっかくの再開に、他の女神のことを言うと嫉妬してしまいますよ」

「やっぱりそうだったんですか」




 日本にて。

 メイド喫茶に通っていたある日。俺は、知らない女性と同席することになっていた。

 その時は既に社会人で、お酒も飲めたため、飲酒をしていたが、普段飲んだことのない美味しいお酒を飲み、抑制が効かなかったことを覚えている。


『神風店長と一緒にいたいな』

『……私より(つがい)となる人を一生愛しなさい』

『あら、風ちゃん、顔赤いわよ。そこの坊や、何児より強い男を求めなさい、男は好きになった人より強くあるべしってね』

『俺は男ですよ。強い男を求めてどうするんですか。それに強くなるってどういうことですか?』

『あらこの子、もう酔っぱらっているわ』

『そうね。他人にされて嬉しい行動をとりなさい。さすればあなたに救いの手が差し伸べられるでしょう。差し伸べられる手が多いほど、あなたは強いということですよ』

『強いのは、我みたいなロリ巨乳である。ロリ巨乳最高!あちょっまて貴様!我の胸をもむではないわ!』

これ(巨乳)これ(貧乳)てどっちが強いんですか?そもそも男性は胸の大きさで勝負してもただの胸筋なのではないですか?』

『あなたさっきから真顔で胸を触らないでくれない?貧乳はステータスよ、え?これ(巨乳)と比べても強いかって?当然じゃない。運動するのに邪魔でしょうがないわ』


「という会話をしていたのを思い出したんですが……」

「……ふっふ。そんなこともありましたね。ええ考えている通りだと思いますよ。でも教本の方が先にできていたんですよ。言っても説得力はないかもしれませんが」

「教本は1000年前からあったと聞きます。喫茶でのことの方が後なんでしょう」

「……ええ」


 ウェンディの横顔に、私は答えた。

 もっと話したい。離れたくない。このままウェンディと一緒にいたい。でもここに長く滞在できるわけではないということは何となくわかる。

 捧げたMPを使用して、私の精神体を維持しているからだ。

 神の世界に、人である自分はいられない。


「私は今まで、あなたを目標として過ごしてきました。これからも変わることはないと思います」

「ええ」

「なんで女性として生まれたのか、なんで元の日本でなかったのか、私にはわからないことばかりです」

「ええ」

「いつも真実をはぐらかすところは嬉しくないです」

「知っていますよ」

「でも、この人生は、あなたを目標としていいですか」

「はい」

「困った時は助けを求めていいですか」

「女神だから当然です。でもその前に、周りの人達に声をかけなさい。今のあなたには、周りに人がいることが分かるでしょう」

「……っ……」


 何を言ったらいいのか。せっかく伝えたいことを考えていたのに思い出せない。

いざ会ってみると、言いたいことが山ほどあり、口から出てくるのはどうでもいいことばかりだった。

 でも口から出てくる言葉を否定することができない自分がいる。

 前世で止まっていた時間。動かしたくても、どう動かせばいいのかわからなかった。

 されるがままに覚え、自分の未来など分からなかった頃。

 もしかしたら、素晴らしい出会いがあったかもしれない。もしかしたら、すごいことをしていたのかもしれない。

 けれど、無意識にて行っていたことを、自身で認識していなかった。

 前世では、好きだった人がしていたから憧れた。絶対になれないからこそ憧れが強くなった。

 自分が歩むべき道を見失っていたのが、今なら分かる。


 私は頬の水をふき取り、意気込む。


「私はメイドになります。そして一生涯をあなたに仕えます」

「……本当に、あなたは、いつまでも真っ直ぐなんですね」

「え!?どうしました!?私が何かしましたか!?」


 私は、なりたい自分がいる。

 メイドを本気で目指してみたい。

 一流のメイドになるために必要なことはまだまだ未熟で、備えていないものの方が多い。

 今もウェンディに振り回させる。

 どうしたらいいのかわからない。

 でも、これを楽しんでいる私がいる。


 彼女の笑顔と、その後に覗くあどけない仕草。最後まで見ることはできなかった。けれど、これから毎日会えるその事実が、とても嬉しかった。








「リンまだいたのか」

「はい!」

「すごい空間ね。神聖化しているのかしら?」


 私が目を開ければ、タクトたちが部屋に入って来る時だった。

 部屋中に私の魔力の残骸が漂っている。

 魔力ではない。どちらかというと神々しい何か。お祈りを捧げ漏れでたものだろう。私は換気をするために、扉を開けたままにし、みんなで階段を上る。

 一階には村人たち全員が一箇所に集まりだしていた。


「サンニュ!頼んだぞ!」

「分かってます!ガメッシュさん!もっと中央によってください!そのいかつい顔をもっと柔らかくして!?ひいいー!!おほん!それでは行きますよ!……あ!?これだと自分が映らない!?」




 神堂には、一枚の写真が飾られている。

 村人たちが集まった総勢152名。

 一人一人の顔は小さく見えにくものだけど、はっきりと誰が誰だかわかるものだ。

子供たちはアンナに配られた小さな魔石を見せびらかせ、大人たちは各々好きなポーズを決めている。


私の居場所はここであり、決して魔法だけで掴んだものではない。

魔法を通して一緒に活動をしたことで、より絆が深まった。

 魔法で掴めるものではない。けれど目では見えないものを確かに掴んでいた。






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