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1-13.友達と魔法の可能性を探しましょう(7)



1-13.友達と魔法の可能性を探しましょう(7)




「行くわよ!『ライジングボルト』!!」


 アンナの声が鬱蒼とした森に響く。その声の後にはバチバチと魔法によって生み出された電気が魔物を襲っていた。

 生体系の魔物に対して強い電気は強力だ。

 ナイトはアンナの方に視線を向けようと視線を張り巡らせると……


……?


 いや待て、連戦してきてこの威力が維持できるのはどうしてだ?

 ナイトはふと思った。

 太陽が頭上を通過したのはずいぶん前。朝から今まで連戦してきたわけだが、いつもなら威力をもう少し抑えて、魔力切れを起こさないようにしていたはずだ。

 明らかにオーバーキルすぎる。


 4人の足元には、電気だけで焼け焦げた魔物が横たわっていた。


「流石はアンナさんっす!体調も万全そうっすね!」

「もちろんよ!私がただで寝込むわけないでしょ!」

「それにしても今日はいつにも増して魔物の量が多いな」


 ハヤトとリュウゼンが素早く解体を済ませると、魔法鞄に収納する。

 ナイトは短剣に手を当て、探索(リサーチ)を行使した。


「また同じ方向からだ。距離は500。数はざっと200ってところだな」

「また開けた場所(ここ)で迎え撃つ。それていくようならおびき寄せにハヤトが行く」

「え!?自分っすか!」

「できるだろう」

「そう言われたら断れないっすよ」


 ハヤトは頬をかきながら、目と耳から微かな変化を逃さないように集中している。

 ナイトは短剣を持ち直し、アンナは杖を構える。

 最後にリュウゼンが片手剣の先を向け、変化が大きくなってきた。

 4人は不穏な雰囲気が近づいてきていることに感づいていた。

 この空気を圧倒し、00離れているだけで伝わる存在感。緊張感が高まっていき、ガサガサと草木が分けられる音が大きくなる。

見た目だけでもわかる上位種が数多におり、一番後ろには、更に一回り大きい魔物。


「『鑑定』ゴブリン上位種、レベル50~56、後方の赤い金棒を持ったやつはゴブリンキングレベル78!」


 ナイトが発した声が聞こえた時には、上位種が襲い掛かってきた。


~ステータス~

ゴブリン上位種

レベル:52

HP:2461/2461

MP:238/238

SP:233/233

物攻:1059

物防:1056

魔攻:1057

魔防:1057

素早さ:128


ゴブリンキング


レベル:78

HP:5564/5564

MP:543/543

SP:522/522

物攻:2404

物防:2385

魔攻:2386

魔防:2386

素早さ:286


リュウゼン・フウノ


レベル:209

HP:3004/3459

MP:268/268

SP:154/299

物攻:210

物防:93

魔攻:72

魔防:69

素早さ:231




 魔物はまれに存在を昇華させることがある。

 昇華させた個体を上位種。

 そして上位種になってもなお更に存在を昇華させた個体。圧倒的ステータス。

 4人とゴブリンキングには、決して越えられないステータス差が存在していた。

 上位種だけなら、どうにかなったかもしれない。

 ただ、その一体。上位種から進化したゴブリンキングがいるだけで、戦場はひっくり返る。


「どのみち戦うしかない!『身体強化』――!」

「『ライジングボルト』――!」

「『身体強化』ぁ!!」

「っ『インパルス』」


一体何があったんだ?

 ナイトは隠密行動にて行動しながら、アンナの魔法を見ていた。

 以前なら完全詠唱で魔法を放っていたが、今では詠唱破棄でも同等な威力、いや以前よりすさまじい威力を発揮していた。

 上位種の魔物の集団の足止めに成功していた。


「サポートは任せなさい!」


 声にならない咆哮が周囲に響く。

 ゴブリンキングが吠えたことで、上位種の動きがもとに戻っていく。


「一撃でももらうわけにはいかないっす」


 ハヤトの片手剣は光を帯び、立った一振りで前方の魔物は横たわる。振り切ったハヤトは一瞬の隙で囲まれる形になってしまったが。

 

「『マジックアロー』――!」


 アンナが出現させた魔法の矢によって、態勢を立ちなおす。

 ナイトとハヤトとアンナの3人で上位種の注意を引き付けている間に、リュウゼンはゴブリンキングの攻撃を一人で引き受けている。


「『ライジングボルト』!!……流石に上位種相手ね。3発も魔法を当てているのに一向に倒れないんですもの。最近魔法攻撃力だけなら260に乗ったんだけどな」

「「「えっ」」


 アンナは周囲からの攻撃を避けながら、頼もしいことをハヤトとナイトに聞こえる声で言う。

 その攻撃力が260あれば、杖を持ち、得意魔法にMPをふんだんに使った魔法攻撃なら、魔法防御力1000など、容易く貫通する。

 でもよく考えたら、得意魔法を使っているアンナの攻撃が3回も当たっているのにも関わらず、魔物が沈まないのは珍しい。

 

――見える範囲にいるのは198。200前後だから数は正しいいや210だってこともありうるのか。


「もしかしたら……ハヤト!ヒールを使っているゴブリンがいるかもしれない!俺はそれを探しに行く!ここを維持できるか!」

「……できなくても、するっす!」


 舌打ちをしたくなる気持ちを抑えたナイトは、現状の維持をするのに手いっぱいの事実を冷静に受け止める。

ハヤトの一振りとアンナの魔法、ナイトのサポートによって戦闘が成り立っているのだ。サポートがなくなれば、一振りの後の隙が、あまりにも大きい隙だった。


 洗練された一振り、ただの連撃より、はるかに重い一撃。

 ハヤトの一撃があるからこそ、魔物の数を減らすことはできている。だが、洗練され重いからこそ、その後の動きは一瞬止まってしまう。

 3人合わされば、このままでも上位種の撲滅は可能だった。

 だが、上位種に専念できるのは、ゴブリンキングと少数の上位種を同時に戦闘しているリュウゼンがいるからこそ。

 状況が不利なことには変わりない。

 今日の戦闘は多く、体力も消耗していたのだ。


 リュウゼンだって人なのだ。

 完璧に攻撃を受け流し続けることに相当な集中力を発揮している。上位種に向ける余裕がないのはみて明らかだ。いつ崩れてもおかしくはない。

 リュウゼンの片手剣には魔力ではない光が覆われ、ゴブリンキングの金棒を受け流し、時には攻撃に転じている。

 洗練されたものだけに許される攻撃。

 一振りだけでも相当な鍛錬が必要だが、リュウゼンは7連撃まで可能にしていた。しかも連撃後はすぐに動けるほど鍛錬を積んでいた。


『リュウゼンがいるから安心できる』


 いつ崩れてもおかしくない状況で、逆境であればあるほど、リュウゼンは凄まじい集中力を発揮する。


 はやくリュウゼンが思う存分戦闘できるためには、上位種を早く減らし、なおかつ協力できる分だけの余裕がなければいけない。

 今のままでも上位種は減らせるが、今のままではいけない。

そのため、ナイトは探す。

 状況をひっくり返すために、上位種の体力を回復させている存在を。


「っくふうう。……『ライジングボルト』――!!」


 隣ではアンナが、1本目のMPポーションを口にしている。

 アンナが気絶すれば、ゴブリンキングからの逃走も戦闘も成り立たなくなるのを実感していた。


 ソフトウィンドで届かない上空まで逃げる。

 得意魔法で戦闘する。


 どちらにしても、生きて帰るにはアンナの魔法は必要だった。

 ナイトもハヤトも戦闘開始直後に共通の認識があった。


「居たっす!森の中、キングとちょうど間あたりっす!」

「少しの間任せる。『完全隠密』」


 ナイトの存在感がなくなり、どこにいるのか分からなくなる。その直後、一瞬にして十数回の切断音が場を支配した。


 いないと思っているところに突然現れるのは、ビックリする。

 魔物だって例外ではない。ヒーラーのところに突然、別の気配が現れ、次の瞬間にはヒーラーがいなくなっているのだ。

ナイトに注目が集まったのは必然だったのかもしれない。


「隙を見せたな」


 ゴブリンを率いていたゴブリンキングが、気を引かれた一瞬の出来事。

 この一瞬を、リュウゼンは見逃さなかった。

 いつでも使用できるように剣には光が覆われていた。

 好きあらば、いつでも牙をむけるように。



――刹那の七連撃。



 名前はない。けれど洗練された連撃。残像を残す速さで振るわれた連撃はステータスの壁を越えた。

そこには、腕をなくしたゴブリンキングと、ひび割れた剣の柄を握っているリュウゼンがいた。

 あまりにも重い一撃。

 2000を超える防御力を貫通する攻撃に刃が耐えられなかったのだ。

 だが、ゴブリンたちに外部からの回復手段は無くなっていた。ナイトが4体のヒーラーゴブリンを葬ったからだ。


「すべてを焼き尽くせ。『ライジングバースト』!!」


 アンナは全回復したMPをふんだんに使い、周囲を焼き尽くす。

 雷を含んだ炎はみるみるうちに、上位種を飲み込んでいく。


「リュウゼンさん、待たせたっす」

「あとはキングだけかしら?」

「『探索』。生命反応は五つだ。俺たち4人と……」

「あとは貴様(キング)だけだな」


 リュウゼンは新しい片手剣を構える。

 ゴブリンキングは更なる咆哮を上げ、足技を使い襲ってくる。金棒を失い、両腕を格下に持っていかれたのだ。

 頭に血が上っている。

 ただ、4人そろった彼らに一撃入れることができない。

 それもそのはず。リュウゼンたちのパーティーは、風の都から最も離れな村の一流の戦闘員。たとえどんなに困難な敵でも村を守るために毎日戦っている。










「量が多すぎるっす!」


 ゴブリンキングを無事に打倒した彼らは、大量の解体に覆われていた。

ナイトは、聞きたかったことを何ともなく尋ねる。


「ところで、アンナはいつの間にそんなに強くなっていたんだ?」

「新しい仮説の実証の結果よ。リンの固有魔法。あれって魔法陣に使われている絵に似てるでしょ。もしかしたら文字なんじゃないかなって。だから魔石の魔法陣で試してみたの。結果は大成功。少ない魔力で威力の増大に成功したわ。」

「危ないだろ!」

「勿論実験で実証済に決まってるじゃない」

「実験するなら俺を呼んでくれよ」

「呼びたくても無理だったわ。だって休んでいる時に……って痛い!」


 解体の手を止めたナイトは、アンナの頬を軽く引っ張る。

 アンナは、ナイト手首を掴み、視線を逸らす。


「おい。何のための休暇だったのか覚えているか?」

「い、いやあ。あれよ、魔力の使いすぎ(ボソッ)」

「魔法の可能性が広がったことはいいことじゃないか」


 リュウゼンはいいながら、素材を収納していく。


「昔みたいに頻繁に倒れたいのか?強くなることは嬉しいが、俺たちには責任がついているんだ」

「……分かっているわよ。私が選んだ生き方だもの


 ロープ姿のアンナは、鉄くさい風にロープが羽ばたく度に、バサバサと服が音をならす。

 夕陽が照らす森の下、ナイトたちは解体を済ませていく。

 解体に村一番の腕をもつリュウゼンが指示を出しながら楽しげにいった。


「こうして4人で解体するのは初めてかもしれないな。いつもは誰かが警戒しないと奇襲にあっていたのに」

「確かに言われてみれば、そうっす!」


 アンナは、ニコニコと笑いながらゆっくりという。


「ナイトが探索を常にできるようになったからですね!」


 アンナはそう言い、ナイトの後ろから抱き着いた。

 そんな何気ない仕草に、顔を赤くするナイトは、きっと夕陽のせいではないだろう。

 短くああ、というナイトは、


「リーンのおかげで俺たちはまだまだ成長できる。新しい考えもしなかった方法を思いつく」


 リュウゼンに拳を見せる。


「ああ、そうかもしれないな」




 きっと、今日もハヤトの声が村中に響くだろう。

 帰ったころにはできている神堂を楽しみにしながら、彼らは村のある方に向かって歩きだした。





 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




~おまけ~


<魔道具、起動?>


村長宅。

 魔道具の魔力管理に悩まされていた頃、リーンの何気ない一言で始まった。


「魔力の持ち運びでもできれば、誰でも補充できそうですよね」


「「「「それだっ!!」」」」

「魔力が補充できるなら、取り出すことができるかもしれないな!」

「っくっくっく。俺様は効果のない、魔力が空の魔石を五つほど持っているぞ」



 新しい方法は誰かの何気ない一言で思いつくかもしれない。

 村人たちは、魔石から魔力を取り出すことに成功し、魔法陣の魔力補充の問題は解決した。





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