1-12.友達と魔法の可能性を探しましょう(6)
サブタイトルに悩んでいるメリーです。
サブタイトルを変えれば、読んでくれる人が増えると聞きました。
1-12.友達と魔法の可能性を探しましょう(6)
村長宅。
いつもはだらけきっている大人たちだが、今日は円卓を組み、真剣そのものの表情を浮かべている。
魔石の魔力が無くなり、魔道具として機能していなくなっているのだ。
魔道具は魔力がなければ使えない。
彼らの悩みは魔道具の魔力を誰が充電するのかということだった、
村人たちでは、魔力を効率よく充電することは難しい。普段魔力の補充をしているマーベルが戦闘のために魔力を温存させている今、マーベル以外に魔力を補充できる人がいないのだ。
効率を考慮しなくていいのなら、魔法をあまり使わない村の大人たち全員が合わせれば数個程度。数個を全員で使うと一日ももたない。
「ガメッシュさん。リュウゼンさんたちが帰ってきてからでもいいんじゃないですか」
「それはいかん。タクトに片付けを手伝ってもらった条件が、リュウゼンが帰って来る前に現状の改善だからだ」
「……それは!あんたの勝手だろうが!!」
ガメッシュが両肘を机について手を組んで、真剣に話したかと思えば、言ったことはただの私事だった。
村に来る前から、村人たちの味方でいた彼だからこそ、人気がある。お金の計算もできる。ただ、みんなを引っ張っていくリーダーシップはない。
話が進まないイライラ感を感じていた村人たちは、いつもと変わらない態度をする村長に対して、何でこの人が村長をしているのだろうとつくづく実感していた。
黙り込んでいた村人の一人が、腕を組む。
「現状の改善って言ったって、このままでも問題ないと思うんだが……」
「たしかに。問題っていった問題はないよな」
「魔石の魔力がなくなったって、別にここに来る前の生活に戻るだけだしな」
村長宅にいる全員が、魔石を使っていない生活をして過ごしていたのだ。
生活に必要な魔石がなくても、生活できるのである。魔石の魔力がなくなるのは対した問題ではなかった。
「だが、結界魔法に魔力補充が十分にできないのは問題だ」
「それこそ、俺たち全員が魔力を注げば、どうにかできるだろう」
「魔力を注いだ後、気絶しているのが問題なんだ」
「どうしてだ?魔力が空になって気絶するのは当たり前だろ?」
「気絶している時に魔物に襲われたらどうしようもなくね?」
気絶している時に魔物に襲われたら、村人たちはどうすることもできないのことが問題なのだ。
戦闘に行く魔法使いが町の外に行けない。代わりに魔石に魔力を補充する魔法使いが戦闘に行く。
対処としてはごく当たり前の出来事だが、村人たちで村を守っている場所では違う。
結界魔法が維持できなければ、魔物の恐怖とは隣り合わせになる。結界魔法を張ると張らないのでは、魔物の危険度は雲泥の差があるのだ。
ただ、結界魔法は万能ではない。
エルザのように魔法が効きづらい体質の魔物がいれば、侵入を許してしまうし、圧倒的ステータス差で結界魔法をものともしない魔物の場合は守りの意味をなさない。
気絶している時に、結界を抜けた魔物に襲われたら、対処のしようがない。
「ど、ど、どうすればいいんだ!?」
「そのためリュウゼンたちが帰って来る前に改善案の一つや二つぐらいあげておくために集まってもらった」
「流石村長!頼りになるぜ!」
「ま、このワシが案を考えられるようなら、とっくの昔にやっておるがな」
「おい!」
気がついていながら、また明日また明日としていれば、十年経っていたのだ。
ガメッシュは、基本的に問題ごとを後回しにして生きてきた。問題ごとを即座に解決ほど器用な人ではない。
「魔法の使いすぎは身を亡ぼすこともあり得るしの」
「突然どうしました村長」
「いや何でもないよ。ただ、あいつのことを思い出していただけだ」
「ああ、彼女のことですか」
魔法の短時間の間に使いすぎることは身を滅ぼしかねない。
身体エネルギであっても、短時間の間に過剰な負荷を受けると、超回復する前に筋崩壊が起こるのだ。短時間に魔法エネルギを使いすぎれば、最大値が増える前に、MPを貯蔵する部位が破損したっておかしくない。
タクトの母は、固有魔法を使いすぎて命を落としていた。ガメッシュは、彼女が死んだとき、その場にいたが、原因は分からなかった。
後々、亡くなった原因を知ったのだ。
ガメッシュは、魔力があまりない彼らにも、魔力を使いすぎる死のリスクを生じさせてまで、結界魔法の維持をしたくない。そう思っていたため、今まで結界魔法の問題から目を逸らしていた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「まったく、リンちゃんがしつこく片づけようとするから、みんな疲れちゃったよ」
「う……ですが、せっかくみんなで薪を集めていたのですから、ついでに雑草除去してもいいかなって……」
日の陽ざしは真上から照らす中、結界の中に落ちている薪を集め終えた私たちは、森の日陰に身を転がし休んでいた。
メイドならついでに行えることを少しでもできたほうがいい。
そう思って、私は、雑草除去も行った。雑草除去を始めれば、みんなも手伝いだした。
休憩を挟み、さて秘密基地づくりの続きをしようとするも、予定していた開始時刻になっているのも関わらず、日陰から出ようとするものはいない。
「俺たちとしても、よく使う場所の手入れはしたかったからな。別にリーンを攻めるのは違うぞ。俺たちが自分自身の体力を見誤っていたからな」
私は、水が空になった貯水槽タンクの中から魔石を取り出し、魔石に魔力を補充していく。
この魔石は、家で使っているものと違い、容器の中に一定の水が貯まるまで水が出続ける代物だ。村の錬金術師見習い――カイが作った品だ。
私が知らないだけで他にもたくさんの魔道具を制作しているらしい。
独学で錬金術師を始めた彼の魔導を試運転する時には、カイ、ガルヴィー、サンニュ、私の四人で行っていたのだが、カメラのように、私が知らない魔道具をいくつも隠しもっているようなのだ。
そんな彼も、今ではただの村人のように倒れ込んでいる。
私は、魔石の魔力補充を終わらせると、貯水槽タンクに戻す。
すると、少しずつ冷たい水が出て、貯水タンクの水面が上がっていく。
「おっしゃ!みんな疲れているだろうけど、もう少しすんぞ!水を飲んだ奴から動くように!」
「帰ってもすることないしな」
「もう少しぐらいやっても大丈夫だろ」
余程動きたくないのだろう。イーとハーがうつ伏せのまま口にする。タクトの言葉の通りに水を飲むための列を作ったのは、カイなど日々研究ばかりしている人達だった。
すると、タクトがニヤニヤ笑いながら言い放った。
「イーとハーたちの気持ちももっともだな。今日はみんなたくさん動いたから、筋肉痛で動けなくなるかもな」
私は鑑定でステータスを確認しながら、各々のSPを確認する。
タクトのステータスは文字化けして読み取れないが、他のみんなは、昼食を取った後のためほとんど減っていない。
体調までの確認は難しいが、SPを見ることで体の疲労具合がわかるのだ。
SPはどうやらHPとMPを回復する役割を担っているようで、普段の生活でHPやMPが減っていないように見えるのは、SPを使って常に回復しているからのようだ。
「みんな思っている以上に体の疲れはないはずですよ。この後も一晩寝れば回復します。まあ体が耐えられる以上に疲労が残ると、数日ほど動けなくなることもあるようですが」
周りの視線が私とタクトの方に集中する。
タクトと私の言葉に心当たりがある人たちもいるようだ。確かにと誰が呟いた声が聞こえた。
私は、最後尾に並び水を入れようと、コップを持った手を伸ばす。
ガッシ!
腕を伸ばそうとした手を、エルザに掴まれた。
……水を飲みたいのですが。
「そもそもリンちゃんが丁寧すぎる指示を出したのが原因でしょ?」
「はい。おっしゃる通りです」
私が項垂れると、周りからは笑い声が響く。
エルザに抱きしめられた私は、うつ伏せに倒れるのだった。
数日が経過。
アンナの具合もよくなり、魔道具の問題も現状はみることなく、村人たちは過ごしている。
子供たちで作っている神堂は順調に進み、20日かからずにあと少しで完成しそうだ。
地下も作り、隠し扉を設置し、入り口も自動ドアが設置されている。
建物自体はもうできており、後は周辺の整備をすれば完成する。
「おし!あとは女神像を中に並べればいいだけだな。いいかサンニュ。最後はみんなで撮るからな。女の子ばかりとるなよ」
シンプルな作りではあるが、神が舞い降りそうな神堂ができている。
それを見て、サンニュは魔導映写機を構える。
「分かっている。こんないい建物は初めて見たよ。町の協会より断然いいな」
以前のサンニュなら建物を撮ることはなかったが、今では建物ができる最中を写真に収め、日々変わっていく風景と、その周りの人達を撮っている。
私は神堂周りを花で飾るため、囲むように作られた花壇に花を植えていた。
土の冷たい感触が指先から伝わってくるのが分かる。
冷たいのは手先から来るものなのか、子供たちの半数以上がいないことからくる寂しさなのか。
私やタクト以外の魔法を頻繁に使っていた人達の調子が悪く村長宅で休んでいた。
魔法を頻繁に使わなかった人達は変わらず元気なため、整備するには問題はないのだが、気持ち的に引き締まらない。
どうせなら、全員で最後まで完成させたかったが、魔力の使いすぎで体調を崩しているのだ。
『魔力の使いすぎで死ぬことだってあるんだ。今回は体調を崩すものだけだったからいいものを。私に心配させないでくれ』
ノークスが弱弱しい声を上げ、自分の娘や子供たちを診療したのは記憶に新しい。
アンナが倒れた原因も魔力の使いすぎであり、魔法使いの人によく起こると言っていた。
どうやら魔力を使いすぎると、魔力を貯蔵する部位に負担がかかり体調を崩す。まるでお酒によって潰れたかのようになるというのだ。
この話を聞いた時、私は、寝る前に魔力を解放して、魔力が尽きてから寝るのは、もしかして危険なことをしていたのだろうか。この疑問が思い浮かんだ。
「ノークスさん。魔力を使いすぎると体調を崩すなら、毎日魔力が尽きるまで使っていたらどうなるんですか?」
「うん?そんなことする人は、まずいないよ。間違いなく1月もたないからね」
おっふ。
私ってもしかしなくても危ないことしていたとようです。
手先と体中から冷や汗が止まらない。
私は、じわじわと体が冷たくなっていくように感じつつ、淡い緑の花が咲く種を無心で植えていく。
10日と言うのは流石に無理であったが、3週で完成したのだからすごいのだろう。普段魔力を使って建設作業をしないのだから。魔物化しないように、魔力の含まれる建物は極力作らない。ただ神堂であるため、魔力が循環して魔力溜まりがなければ魔物化の心配はなかった。
ただ今回は、魔力でアシストしながら作ったのが問題だったようだ。
魔力の使いすぎは死のリスクを伴う。
私の気持ちに気づく人はおらず、ノークスは新たな神堂いや神殿を見て回る。
「素晴らしい出来だ。魔力が貯まりすぎることないが女神像の部屋を中心にうまく魔力を逃がす構造になっている。それに、地下室や隠し扉なんて村で作るような規模ではないから、驚いたよ」
私の後ろでは神堂を絶賛するノークスが動き回り、私は嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちに悩まされていた。
称号
ウェンディの祝盃
リーンが持っている称号には、ウェンディの祝盃というものがある。
転生の際に、ウェンディが魔力に耐えられる肉体を授けるために付けていたのだった。
称号の意味とウェンディの祝盃の意味をリーンが知るのは、まだ先のお話。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
~おまけ~
<スケスケ眼鏡君1号>
錬金術師見習い宅にて。
「カイ!新しい魔道具ができたんだって!」
「ああ今回は自信作!スケスケ眼鏡君1号と命名した!」
ガルヴィーとサンニュは、眼鏡を手にしたカイの言葉を聞いて、唾をのみ込む
スケスケとは一体。
その疑問に答えるかのように、カイはその眼鏡をかけて振り返った。
「これをかけることで、一番表面を透けてみることができるのだ!ただ任意で変更できないのが難点だ……どうした二人とも!?」
白い皮膚を隠した洋服だって、神秘を隠す壁だって透けてみることができる。
まさに少年が求めるエロスを叶えることができる眼鏡だった。
熱く語りたかったカイだが、二人が固まっていることに驚き、手を伸ばして起こそうとする。
「「ぎゃぁぁぁ――!!お化けぇぇ――!!」」
ただ、カイの眼球が透けており、目の裏の肉が生々しくレンズ越しに出されていた。
まさにお化けが手を伸ばして近づいてくるのだ。
そんな生々しい顔が目に焼き付いた2人は、その眼鏡をかけることはなかったという。