1-11.友達と魔法の可能性を探しましょう(5)
人前に立つと、左右の平衡感覚がずれて、まっすぐ立っていられないってことはないですか?
緊張したメリーさんは、コップを斜めに持っていました(笑)
1-11.友達と魔法の可能性を探しましょう(5)
夕方。
秘密基地を建設するため、設計図を中心に取り囲む。
私はメイドの象徴であるメイド服を着込み、念のため魔法の鞄を腰につけた。
「よーし!お前ら!10日ぐらいで完成させっぞ!」
「タクトさんが来たぞ!」
「十日は無理だろ」
日中はタクトを中心とした、お勉強や遊びを行っている私たちだが、今日は夕方になっても集まっていた。
各々が魔法で作る秘密基地に魅了されたのだろう。なにせ今日は、タクトが日中に魔法のことを教えたからだ。
魔法を知らなかった者、知っていた者。魔法を使えない者、使える者。
魔法の可能性に心をくすぐられている。
今朝は、アンナが倒れたことで、村に冷たい雰囲気が浸透しつつあったが、タクトは、子供たちにも影響を与えないように私たちに魔法の概要を教えて欲しいとお願いし、面白おかしく補足を言い、概念について教えたのだ。
魔法の可能性を知った彼らは、自分が考えた使いやすい魔法を想像し夢を膨らませる。とんでもない内容の物もあれば、思いつかなかった使い方、魔法のコントロールができればすぐにでも使えそうな魔法。日中は魔法の話で盛り上がった。
「リンは、メイド一筋だと思っていたが、魔法のことも夢見る少女だったんだな。一体どこに興味の観点があるのかね」
今にも切れそうな大量の紙を束ねて持ってきたタクトは、一枚一枚丁寧に並べていく。
ちなみに大人たちはまだ話し合いをしているらしい。ガメッシュの戯言を流すのが大変だったようだ。
「私の憧れはメイドですから、メイドに必要だと思ったこと全てに興味を示すのは当然です」
私たちがこれから行おうとしていることは、今までこの村では行ったことがないこと。
地下を魔法で強化し、崩れないようにして、その上に2階建ての家をつくること。もちろん木だけの構造に釘と魔法を加えて強化する。
聞いた話だと町でも地下を含む構造はあるが、木材や土の壁に魔力を付加して、強化した例はないらしい。
魔力を付加して放置した野菜が魔物化した例があり、不用意に魔力を付加して魔物化したら、人々の生活が危ぶまれるからだ。
かつて存在していた魔法科学文明も、人の管理が追い付かなくなった機械や食べ物たちが魔物化したことによって滅ぼされたようだ。今は闇の国のどこかに都の跡地が残っていると言われている。
危険の可能性を捨てきれないが、行うことは単純なことであるし、仕掛けを作るには最適な方法だと思う。
「今回はみんなで作るので、早く作業が進みます。ありがとうございます」
そう言って、私はお辞儀をし、一息入れてからタクトが並べた紙に書かれていることに目を通す。
設計図や作り方の手順、木材に付加できる魔力の限界と、魔力量による木材の柔軟性の変化、組み合わせた時の魔力の流れなど、細かく記載されていた。どこで集めたのか不明だがとても参考になる。
「早く作って魔法の仕掛けを試したい」
「そもそも魔法の練習する対価だし」
「自動で魔力を集めるものは、魔物化の危険性が高いから、やっぱり魔石による補充が一番いいか?」
「でもそうすると、維持に必要な魔力を補うのが大変にならないか?」
魔法の練習がしたい人は興奮が抑えられないのだろう。先程からソワソワして落ち着きがない。じっとしているもの達も、普段魔道具の制作に夢中になっている人達ぐらい。そんな彼らも、魔法の仕掛けを設置するのか検討し、先程から声を高々と響かせながら話を進めていた。
「それじゃあ、建設後の最後の仕掛けは彼らに任せるとして、俺たちは普通に建設して、魔法が使えるものはこれに書かれている規定どおり魔力を付加してくれ。今回作るのは、地下1階、地上2階の構造の神堂だ。疑問や不安なことがあったら隠さず俺に言うようにしてくれ。それじゃあ、まずは起点となる柱から取り掛かるか!」
私は、桑で土を掘り返し、魔法が使える者たちが、その土を固く重い岩に変えていく。休憩を挟みつつ行っていると、時間が経つのは早いもので、気がついた時には、日が沈みかけており、岩の山が積み上がっていた。
魔法を使える人の速さを考えて、どのくらいの日数がかかるのだろうか。
日程がどのくらい必要なのか見通しが立っていないことに気がついた私は、家に帰ってから行動予定表――その日に行う計画を作り、就寝した。
風の都から最も離れているこの開拓村の地に、好き好んで訪ねてくる者は少ない。
転移魔法があれば話は変わるだろうが、人の身体や物質の時空移動は実質不可能と言われている。時空を飛ばすということは、転移先で物質を再構築しなければならない。転移先と転移先の空間をつなげることなら空間魔法でできなくもないだろうが、どのみち両方とも錬金術の領域に含まれるだろう。
そんなわけで、この村来る他の人間は歩いてくるぐらいに限られており、交流が盛んとは言いづらい。
つまりは、新しい思いつきも限られてくるわけで、私たちは試行錯誤することや新しいことを取り入れることになれていると言っていいだろう。
翌朝。
いつもの時間に起床し、朝の鍛錬をしてみれば、リュウゼンの剣技にいつものようなキレが感じられなかった。
いつも以上にゆっくりと、一つ一つ丁寧にゆっくりと剣をふるう。時折、残像を残すキレのある一筋を見せるが、続かない。
「父さん。今日の剣はいつものと違うの?」
「ああ。今できることの確認を取らないといけなくなったからな」
意味深げに答えたリュウゼンは、2本の片手剣を左右別々に振るう。
いつもの片手剣ともう1本加えた剣技は、鋭いが拙いようにみえる。
「父さんは元々、二本の剣を使う剣士だったんだが、集団戦闘するために片手剣になったんだ。二本の使っていた時は、ただ敵の真ん中に行く方法でどうにかなっていたが、今はもうできないな」
「ふーん。できないものを確認するの?」
「ああ。できて損はないからな」
拙いと言っても私の剣筋より鋭く丁寧である。リュウゼンにとってできないは、一体何を基準にしてできないのだろう。
――家族がいるからだ。
リーンにとって家族がいるということは、当たり前なことになっており、リュウゼンの言葉の意味はまだ難しかった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
私とエルザは、アンナの様子を見るために村長宅に向かう。
するとちょうど村長宅から出てきたタクトと出会い、タクトの言葉をオウム返しで聞き返した。
「アンナさんの体調がすぐれない?」
「ああ。そうだ」
「だから会えないのは可笑しくないですか?」
「俺に言われても知らねえよ」
タクトは強めの口調で返し、あくびをする。手には一枚の紙を持ち、予定らしきものが書かれている。
おそらく夜遅くまで考えたのだろう。目に入っただけでも細かく書かれていた。
私は魔法の鞄から昨夜書いたものを取り出し、タクトに突き出す。
「私にも分かるように説明してくださいね」
「素直じゃねーな。まあ、メイドを目指しているなら誰が何を考えているのか分からないとなれないなあ」
「秘密基地を早く作りに行きましょう!夕方もう一度来ることにします」
「リンちゃん。勝手に決めないでよ。今日母さんも父さんも遅くなるって言っていたから、私も今日の夕食はフウノ家でとるって、さっき言ったよね」
「ええ。だから、夕食前に一緒に行きましょう!……なんですか!?私が何かしましたか!?メイド服の紐を引っ張らないでください!!!」
頬を膨らませたエルザが、私の前から抱き着いてくる。私はエルザを両手で支えていると、腰回りのところでリボン結びしているエプロンの紐を引っ張ってきた。
「ああ、もう仕方ないですね『アクセル』」
私は悪戯心で開発した、新たな魔法を自分にかける。アクセルは自分の速さを4倍まで引き上げることができる魔法である。ただ筋力は強化されないので、すぐに疲れてしまう欠点はあるが、秘密基地まで走る分には問題ない。
エルザを肩に抱え直し、全速力で走った。
エルザは、自身で走る速度以上の速さに、大きな声を上げ、頬が上がる。
私は、そんな姿を見て開発したかいがあったと。
「いっけぇ――!!!」
「話していると下を噛みまっつ」
「言ってる本人が噛んでんじゃねぇか」
注意しようとして、舌を噛んだ痛みに耐えながら、走り続ける。
そんな私の隣を、平然とした顔でついてくるタクトに対して、私は驚きを隠せなかった。
目を見開きながら涙を流す姿は、想像しただけでも、よろしくない。今度からは、走り出す前に
注意事項を言ってから使おうと、密かに心に誓った。
全速力で走るとあっという間に着くもので、秘密基地のある方に進んでいくと、私と同じ年くらいのみんなが歩いていた。
今日は日中から秘密基地づくりを行うのだ。
「そう思うと、村の大人たちをあんまり見かけませんね。日中は何しているのでしょう」
エルザを下した私は、魔法の鞄から水の貯水槽タンクや土魔法で作ったコップを出しながら、ふとそんなことを思った。この村では子供たちとはよく合うが、大人たちを見ることが少なかった。
私が生まれる前、100人ぐらいの人達で村を開拓したと聞いていたが、日中見かける大人は10人にも満たないのだ。
「俺が2歳の時にこの村はできたから、できた当初は家づくり、畑づくりとか役割があったんだ。まあ今は畑の管理ぐらいしかやることがないな。家でごろごろしている人が多いぞ」
「明らかに出来る人への負担が大きくないですか?村の役割は決めなかったのですか?」
「リュウゼンさんとナイトさん、アンナさん、ハヤトさんの4人で魔物の間引きをする。親父……ガメッシュがお金を管理する。ノークスさんが怪我人を診る。他のみんなで必要と思ったことをする」
「それだけですか?」
「それだけだ!」
「よくこの村、そんな明確化されていないことで10年維持できていましたね」
「そうか?明確じゃない方が、しっかり動けるぞ」
タクトは、昨日作った簡易的な机に設計図を並べ、風で飛ばされないように石を置いていく。
私たちが簡単な準備を行いながら話していると、ローがこちらに近づいてくる。つい先程まで、エルザと一緒に魔法で作った物の形を変えて見せ比べをしていていたのだが、今はハーがエルザと勝負していた。
「水だ。今日起きてから水飲んでなかったから助かるぜ」
「水の魔道具はどうしたんですか?」
「井戸の水はどうしたんだ?」
私とタクトがほぼ同時に言葉を発する。この村では水に困ることはまずないはずである。魔道具もしくは井戸があるからだ。
コップの水を飲み切ったローは、新たに水を入れて飲む。
「ふー。やっぱうめーなこの水。ええとなぜかだったな。家の魔石から水がでなかったんだよ。井戸に関しては俺が直接見たわけじゃないが、かなり少ないらしいぞ。少ない水を飲むわけにもいかないし、いつも日中は水が飲み放題だからな。ここで飲めばいいやって思ってんだけどな」
「1回で飲み過ぎないように気を付けてくださいね」
ローの後方には、村の子供のほとんどがコップを片手に持ち、並んで待っていた。
彼らもどうやら、水を飲みたいらしい。
「家も今朝止まった」
「俺ん家は、そもそも水は井戸から組んできているからな。そん時はまだ井戸に水があったと思うんだが。やっぱリンが用意した水はいつでも冷たくてうまいからな」
そう。私が水魔法を使うと冷たい水になるのだ。もちろん普通の水を出すことも出来るのだが、冷たい水を出す方が楽なのである。エルザは使えば温かい水が出てくるため、得意魔法が関係してそうだ。
水魔法から氷を出せるようになる日も近いかもしれない。
エルザとの勝負にひと段落ついたのだろう。ハーとイーは、自身の魔法でコップを作って近づいてくる。
「そういえば今朝、母ちゃんに薪を拾って来いって言われたな。タクト俺はお昼頃ちょっと薪を拾いにいって来るわ。」
「あ、俺ん家も言われた」
「私も言われた。リンちゃん手伝って」
「構いませんよ」
建築にひと段落ついたら、みんなで薪を集めることになりました。
新しい出会いの春。
沸々と湧いてくる怒りを収めることに、必死な人もいるそうですね。