1-10. 友達と魔法の可能性を探しましょう(4)
エイプリルフールだーー!
嘘言っていいよな!
そして友達が離れていった。
という夢をみたメリーさんです。
1-10. 友達と魔法の可能性を探しましょう(4)
アンナが頭を抱えた翌日。
結界魔法を実際に使ってみようと、昨日とは違うポイントの魔法陣の核がある場所に来ていた。
私は、エルザを驚かすため、以前神風店長が行っていたことの真似をしようと悪巧みしていた。エルザに気がつかれないうちに早着替えに挑戦して新しいメイド服に着替える。その光景を生暖かい眼差しで見つめてくるアンナに、羞恥を感じつつ、焦点を逸らすために、ふと思ったことを口にした。
「ここからだと秘密基地が近いですね」
「私も思った!」
「ええ。村全体を守らないと意味はないもの。核を全て回るのにも結構時間がかかるのよ」
私の言葉にみんなで秘密基地がある方向を向くと、光が反射し、秘密基地との距離感を伝えてくる。
そしてアンナが、魔法を詠唱すると、不可視状態だった魔法陣が、辺りを薄く照らす。それは、核から魔力が供給され維持されている結界魔法。
私は、地面に出現した魔法陣を興味深く観察し、文字スペースが空いていないアルファベットと黙読する。
エルザは、魔法陣によってできた薄い膜を触っていた。
「ねぇ、この膜通り抜けられるよ!通った瞬間、魔法陣は歪むけど、すぐに戻るみたいだし、面白いよ!」
アンナが手にした核に魔力を補充すると、連動するように魔力の流れが目に見えてわかった。
そして、杖を持ちなおすと。
「これが、結界魔法陣の流れよ。昨晩説明したとおりだけど、やっぱり目で見て肌で触れないと、よくわからないでしょ。魔法陣の経路はまるで水が流れていくように、広がっていくから、文字によって水門、上り坂、下り坂のような役割よ」
核を中心として地面に魔法陣が広がり、魔法陣の相ごとに球状に覆う膜のような結界ができている。
魔力は、中心部から遠位に向かって流れている様子がみて分かった。
以前、エルザが使った炎は中心部に向かって流れているのと、正反対のように思える。
もっともその時に、中心部を守った<ウィンドベール>の方が、結界魔法陣と性質が近いのかもしれない。
「魔力が逆流することはないのですか?」
私の言葉に、杖をついていたアンナは、何を言っているのだろうかと首をかしげながらありえないと言った。
「結界魔法陣の回路の魔力を逆流させる方法があるのなら、私が知りたいわ」
「なるほど……。そういうことですか」
魔法回路。
魔法陣にある魔力が流れる経路で、あちらこちらにアルファベットが記載されている。魔力を流す位置から遠い方に魔力は流れ、アルファベットの指示に従って進んで、魔法陣の効果を発揮させる。
――この魔法回路、電力の回路に似ていませんか?
そう。初めてみた時はアルファベットがあることに驚いたが、よく見ると魔法回路は電力の回路にそっくりなのだ。町に巡っている電線のように見えなくもない。
もし電力の場合は、プラスマイナスを反対にすれば、流れは逆になる。
電力ではなく魔力で同じことは言えないのだろうか。
「アンナさん。魔力のプラスマイナスの向きがどうなっているのか分かりますか?」
「増えて減るの?どういう意味なのかしら?」
「えい!」
アンナがどういうことをききたいのか考えていると、エルザは結界の幕を掴み捩じった。
…
……
………
「「え?」」
すると突如、アンナは受身を取らずに倒れ、動かなくなった。
呆然としていた私たちだが、誰かが倒れた時の対処方法は、神官もしくは神官見習い見てもらうこと。
「え?え?」
「ガルヴィー!来てください!!!」
私は慌てて目に魔力を集中させ、周りの魔力の流れを見ながら、近くにいるであろう神官見習いを呼ぶ。
ガルヴィーは筒状のものを片手に、音もなくやって来ると、アンナの様子を伺った。
「エルザはノークスさんを呼んできてください」
「う、うん」
慌てふためいているエルザに落ち着いてもらうために、私は村の神官を連れてくるように指示を出す。
結界の膜を捩じったと同時にアンナは倒れたのだ。何もないはずがない。むしろ突然倒れて異常でないことの方がないだろう。
私は、先程考えていた魔力の逆流によるものかと考えたが、魔力の流れを見ると結界魔法陣の魔力の流れは変わっていなかった。
「アンナさん大丈夫ですか?」
「ええ。ちょっと休めば大丈夫よ」
「体は熱いが、脈も魔力の流れにも異常は見られないな。ただの風邪のように見えるが、俺は風邪の他には魔力欠乏症、貧血ぐらいしか見たことないから何とも言えない。ただ、意識は朦朧としているみたいだから、危険かもしれん」
アンナは、体調の確認をしていたガルヴィーを手で払いのけ、普通に立ち上がろうと両手で杖を握り、体を支える。
その光景を見たガルヴィーは、眉間に皺を寄せながら<ヒール>をかけた。
「もしかして、ただの寝不足ですか?」
ガルヴィーの質問に対して、アンナは、口をすぼめ、気まずそうに視線を逸らすことで答えた。
――村の中心部、ガメッシュの家。
村長の家は入ってすぐ、大きな部屋になっている。入ってすぐ横にある階段を上ると村長たちが住んでいる部屋、大きな部屋の奥には、いくつもの個室がある。
アンナはその一つの個室でノークスに診察されている。
奥の部屋は、村で体調が悪いものが出たら、すぐに治療できるようにするためにある部屋だ。本来であれば、そのはずだが、今私たちがいる大きな部屋には用途のわからない品で山積みになっていた。
この大きな部屋は、村長の家で大人たちが話し合いをする時に使っているらしいのだが。
「だからきれいにしろと言っているだろ!!!くそ親父!!!いつでも使えるように綺麗にしとけとあれ程言ったよな!!!」
村長は個室を物置部屋として使っており、アンナを運び込んだため、今は溜め込めた品がここに散乱している。
ゴミ屋敷の掃除の手伝いをさせられていることが不満なのか、体はテキパキと動きながらいつにも増して不機嫌そうなタクト。
そんなタクトは、昨日私が1度だけ見せた無詠唱の魔法を、完全詠唱で唱えると、
「『インパルス』」
残像を残すレベルで動き始めた。
大人に対して起こる姿を見たことがない私だったが、大人に対しても怒る姿や、一度見たものを次の日にはそれ以上に使えている光景をみて、知らない一面を見たような気がした。
――なんでこのような人が、村の外に出ないのでしょう。
私は、自分の家なのに全く動かない村長を横目に、部屋の窓を開けた。
そんな中、村の大人たちがぞろぞろと集まりだすと、別の部屋からノークスが出てきた。
「アンナはただ体調を崩したようですね。どうやら、昨晩徹夜した影響のようですが、今の状態で魔物との連戦は無理でしょう」
「やっぱり負担が大きかったって」
「でも彼女以外の魔法使いは限られているし」
「魔物の間引きと結界魔法の維持、魔道具への魔力の提供、それに最近は子供たちに魔法を教えているそうじゃないか」
「旦那と逢引も……っあ、すいません」
各々がアンナへの負担を申し訳なさそうにしていたが、彼らは何か特別なことができるわけではなかった。
アンナと同等の魔法使いは、魔物と一緒に周辺の森まで焼き尽くすマーベルである。今日のところはとりあえず彼女が魔物の間引きに行ったが、そうすると魔法陣や魔石への魔力を供給できる人がいなくなってしまう。
村人たちでは、森に入って再び村に帰って来るだけの実力がなかったのだ。
そんな彼らは、アンナの苦労を知っていて何も手助けしなかったのだろう。
一人の軽い言葉に対して鋭い視線が集中する。
私の隣には、大の大人が呆然としながら小さく震え、タクトが大きく手を叩いたことによって別の方に視線が集中した。
「ほら。ただの風邪だったんだから、今後に向けて体調を崩さない方法を考えようぜ」
「村長のガメッシュより、村長っぽいことするよな」
「もういっそタクトが村長でいいんじゃね」
「おいお前ら。いい加減にしろよ」
「いい加減にしてほしいのは私の方よ」
奥の部屋からアンナがうんざりした顔をしながら出てきたことで、再び静かな空間が生み出された。
そよ風の音が場を支配する。
「あのぉ。タクトさんはいらっしゃいますか?」
部屋の様子が分からなかったのだろう。
入り口の扉を開けたサンニュは、大人数の村人が集まっているにしは、異様な静けさを感じとり、部屋に入ってきた。
「おう。もう行くから。もうちょっとだけ待ってもらっていいか」
「へい」
サンニュが出ていくと、アンナも続いて出ようとする。
「今日は休んでけ」
「私は大丈夫だから」
「大丈夫なわけがないでしょう」
振り向くと同時に膝をついたアンナは、大人しく奥の部屋に運びこまれた。
その様子を見ていたガメッシュはタクトに視線を送る。
「おいタクト」
「へいへい。分かりやした」
タクトは視線だけで返事を返すと、静かだったエルザと私の背中を押して、奥の部屋に行くように促す。
部屋に入れば、ベッドと机だけで、窓から日が入り込んでいるで部屋を照らしている空間だった。
ベッドには、既に横になったアンナがおり、目をつぶっていた。
「ごめんなさいね。びっくりさせちゃって」
「いえ」
「でも、徹夜したかいがあったわ」
「おほん」
ノークスが咳払いする。神官らしく、規律を厳守し、不用意に誰かを不快にするような言葉を避けるのだが、部屋を出ていった。どうやら、今日は見逃すようだ。
私とエルザは、アンナに近づく。
「『ソフトウィンド』!」
「「えっ!?」」
魔法に反応した私は驚きの声を上げ、エルザの声とかぶる。
アンナは悪戯が成功したようにクスクスと笑い、私とエルザを宙に浮かせていた。
流石は魔法専門化。子供ふたりを安定して浮かすように調整している。
「あ……」
私は、心配していた緊張がほどけ、魔法に従って体をゆっくりと動かす。
隣ではエルザが宙を自由に動き、アンナのお腹の上に座った。
「すごいですアンナさん!いつの間にリンちゃんの魔法が使えるようになったんですか?」
昨日の段階では、自分自身しか浮かすことができなかったのだ。他人を動かすには、魔力の大小で調整できるようなものでない。自分自身に魔法をかけていれば魔法の効力を肌で感じることができるが、他人だと魔法の微妙な効力を感じるのは難しいのだ。
「昨日は驚かされたから、見返したかったのよ。これでも私はあなたたちの先生よ?」
「流石はアンナさん!」
体調の整えることもできればという言葉は飲み込み、私もエルザに続いてアンナの上に体を動かす。
明日には元気になるだろう。
この時、私たちはそうであろうと疑わず、ただの風邪だと思っていた。
大人が一日だけ徹夜しただけで熱を出すほど体調を崩し、立っていられなくことなど体調を悪くすることはよくあることだと思い込んでいた。
ただ、この風の国は、風の強弱と天候の変化はあれど、日中の気温差はそこまでない。
徹夜する程度で体調を崩すことは、普通の人ではまずないのだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
~おまけ~
<ヒール>
属性魔法を知ってから数日が経ったある日。
私はヒール等癒す魔法はどの系統でどんなことができるのか気になり、ガルヴィーに尋ねた。
「<ヒール>で、できることはなんですか?」
「抽象的過ぎて答えにくいな」
「イメージとしては、体を治すって感じ何ですが」
「癒すって言っても様々な方法がある。<ヒール>はその一つの手段に過ぎない」
「ふーん」
ガルヴィーは拳を握って答えるが、私はいまいちピンと来ない。
癒すは体の傷をいやすことでしょう?
「一緒にいるだけで不安がなくなる人もいる。そういう場合は体を癒すというより、心を癒すって感じだ」
「なるほど!メイドがいれば安心できることと一緒ですね!」
「うん。まあ、そうだな」