1-9.友達と魔法の可能性を探しましょう(3)
這いつくばって、メリーさんがやってきました。
1-9.友達と魔法の可能性を探しましょう(3)
結界魔法。
それは、小さなものから大きなものまで多種多様。結界の範囲内であれば、術式内の内容を反映させることができる、固定魔法。
魔物と対抗するために人々が作り出した魔法だが、現在は知る人が限られている魔法。
私とエルザは、森の出入り口のところに行くと、アンナ、エルザの両親、ソフィア、スー君がおり、結界を張る場所に連れて来られていた。
そして。知る人ぞ知る魔法が。
「この金属の棒みたいなもので、できているのですか?」
「そうよ。ギュワってすればできるの」
……えっと、どうしよう。
とりあえず、取り外してすぐに危険になるようには感じないのだが。
エルザの母親――マーベルは、魔力がふんだんに込められた棒を、結界魔法だと言い張っているが、木刀に魔力を込めているようにしか見えない。
「こらこら、マーベル。しっかり説明しなさい」
「え~。見て覚えればいいでしょ」
「見るだけで分かるわけがないだろう」
「そうね。それじゃあ、何か聞きたいことはあるかしら?」
マーベルの言うことは一理あるが、見ただけでは分からない。
エルザの父親――ノークスの言う通り説明が欲しいのだが、この人は、説明が下手なのである。
「とりあえず、この棒みたいなものに魔力を付加する理由と、魔法の原理を教えてほしいです」
「何言っているの?リンちゃん。ギュワっとすれば結界が張られているでしょ?」
え?私には結界がどこにあるのか分からないのだが……
私の疑問などなかったかのように、エルザは不思議そうな顔をしながら棒を受け取ると、魔力を流した。
「ほら!ギュワってすれば、できるでしょ!」
村全体が、エルザを中心に赤白い光に包まれた。
エルザから湧き出すように溢れる光は、すぐに弱くなり、結界があったことを証明していた。
その後に私は、魔力を流すが結界が維持されている感覚はない。
「僕もする――!!」
私の弟――スー君が、私の腰回りにくっついて、引っ張って来たので、危険がないのか確認する。渡していいのかノークスに確認するといいということだったので、筒状の魔力の塊をスー君に渡した。
どうしてだろうとマーベルの方に向けば、いつの間にか彼女の後ろに回っていたソフィアが、頬に手を当てながら、黒い笑顔を向けていた。
「っふっふ。それ火属性の物じゃない。無属性の物はどこにやったのかしら?」
「あれ?よく見ればそうね?」
ソフィアの問いかけに、マーベルはビックっと胸を上げ、視線が泳ぐ。
アンナはすかさずスー君が持っている物をみると、中心部がかすかに赤く染まっていることに気がついた。
「えっとぉ、そのぉ」
「……マーベル」
「魔力を流していたらそうなったというか……ごめんね?」
マーベルは舌を横に出して謝るが、ノークスは笑顔のまま固まっている。
アンナは新しい棒を用意し、ソフィアは駄々をこねはじめたスー君の手を引いて、家に帰っていった。
再起したノークスは、マーベルを正座させお説教をするが、マーベルは腰をくねらせている。
「あれほど壊したものがあればすぐ報告するようにいいましたよね」
「子供たちが見ているから、こういうところでは」
「あん?」
反省の色が見えないマーベルに対してお仕置きが行われるようだ。
私とエルザは、アンナの手元を見ていたが、私はエルザの腰をつついて耳元で囁いた。
「あれは何の儀式ですか?」
「う~ん?お母さんが毎日しているもの?」
神々しい光を発したノークスは、逃げ惑うマーベルを獲物のように追いかけはじめどこかに行ってしまった。
取り残された私たちは、とりあえず黙々と作業を進めるアンナの横で、火属性の魔石(棒状)の物を観察する。
「中心部が赤いみたいですね」
「そうなの?私には透明に見えるんだけど?」
手にもって見てみれば、確かに中心部に赤みを帯びているように見える。
火属性の魔力を流してみれば、反応し赤みが増した。しかし、先程のように結界が張られているようには感じなかった。
何度も魔力を流してみると、ただの棒状の魔石にしか感じなかった。
すると、作業が終わったアンナが魔石を取ると、ポーチにしまう。
「もうそれは、ただの魔石。この前説明したような魔法の威力を上げるためのものよ」
私たちの手を引いたアンナは、座って説明できる場所に行きましょうと言い、歩き始めた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
アンナ宅。
私たちは、絨毯の上にくつろいで座り、アンナが広げた図を見ていた。
「何って書いてあるのですか?」
「書いてある意味は分からないけど、法則なら分かるわ」
(アルファベットですね。しかもゴジックだったり明朝だったり……かなり形が崩れていますが、アルファベットのように見えます。)
結界魔法。原始魔法、基本魔法、血統魔法のすべてにおいて使用ができると言われている。
村を守っていた結界は、原始魔法である無属性のはずであったが、いつの間にか基本魔法である火属性の結界に変わっていたのだ。
変化した理由は、結界魔法のエネルギー維持のために使われていた魔力の元。
普通であれば、魔力の塊である無属性を結界のエネルギー元として使うのだが、マーベルは有り余った火属性の魔力を使い1人で結界の維持を行っていた。
アンナは結界が崩れていないか毎日見たため、日々ほんの少しずつ変化していたことに気がつかなかったのだ。
「この文字。読み方は分からないけど、この文字があると魔力が流れる経路が遮断されるわ。でもそうすると魔力が逃げる場所がなくなる。どうなると思う?」
「う~んこの文字の経路の方に優先して魔力が流れるということですか?」
「そうよ」
3人で結界魔法陣の内容を話している中、私は以前にもらった魔法陣の内容を思い出していた。
“MEIDO LOVE”
魔法陣は中にあるアルファベットの意味の通りに働くとしたら、メイド好き。
――血統魔法がメイド好き?どういうことでしょう???
血統魔法は特殊な魔法で、血筋の人しか使えない魔法。ソフィアもリュウゼンもMEIDOLOVEというものは持っていない。私だけの突然変異?でもそれだと、血筋というより、魂の方な気がしていた。そのため私は、血統魔法の効果が分からないでいた。
「ヒッ」
「ボーっとしているリンちゃんにはくすぐりの刑だ~!」
「プッフ。オっ。ヤメ」
考え事をしていた私に、エルザが抱きついてきた。
いつもより強い抱き着きに、私の身体は硬直し、なすがままにくすぐられてしまう。
エルザは、私の体のツボを的確についてくる。
私はの身体は、勝手に緩んだ筋肉が私の意図に反して、押された反動で体が揺れる。
「コッフ、フィーッ、ッツ、ッハィ」
「あ~、エルザちゃん。私が言ったのもなんだけど、リンちゃん苦しそうだから、そこらへんまでにしといてあげて……」
「え?」
呼吸ができなくなった私の視界は白くぼやけてきていた。アンナの一言によってエルザが止まり、私は絨毯にぐったりとなだれ込む。絨毯の柔らかさとエルザの暖かさを感じつつ、呼吸を整えながら、アンナの魔法講義を傾聴した。
――メイドとして、あってはならない姿です。っく!
魔法陣。
魔力を流すことで魔法が発動する、人為的に作られたもの。結界魔法や日常生活に使う魔石には、大抵魔法陣
が施されている。
ただ、魔石の場合は、錬金術で作られたものであり、多重立体設計が一枚の板、あるいは球状の核となるため、文字を目で見ることは難しい。
結界魔法も、300年前に魔法科学文明が滅んだ時にほとんど忘却されたようだ。
呼吸を整え終わった私は、アンナに一度謝る。
アンナは魔法陣の説明を再開し、村の結界の仕組みを話始めた。
「この村の結界は無属性の2重結界になっているわ。内と外を分けることで結界への負担を減らしている構造ね」
300年前に魔法科学文明が滅んだことでほとんどの魔法技術は失われてしまったと言われている。しかし、失われた中でも、再現したもの、仕組みは分からないが使える物がある。結界魔法は、後者の物だ。
風の都にも結界は張られているが、村とは規模が違うらしい。村で都と同じ結界を使おうとすると維持に必要な魔力が補充できなくなるようだ。そのため、各村で使う結界は簡易的なものであり、簡易的な結界でも魔術師がいなければ維持はできないようだ。
「アンナさんのおかげですね。ありがとうございます」
「そうね~。今度から3人で維持してみる?」
「したい――!」
「むむむ」
エルザは即答し、私は仕組みが分からないものを扱いきれるのか不安があり、返事ができなかった。
「それじゃ、2人には、村で使っている結界を一通り説明するわよ!」
「「あっ」」
アンナは話す口調が早くなり、熱く語り始めた。
どうやら、ここまでは結界魔法の概論のようなものだったらしい。私とエルザは状況を察し、アンナの話を聞きもらさないように、集中度を高めていった。
…
……
………
「というわけよ。それじゃあ、実際に見に行きたいところだけど、もう日も沈んでいるし、夕食は家で食べていく?」
「もう、こいつらの親御には、ごちそうするって言ってある」
「あら、流石ね」
アンナの話を要約すると、村の結界は、結界魔法陣による1つ目の結界と、魔法陣の配置で更に大きな2つ目の結界があるようだ。そして、前者の魔法陣から溢れ漏れている魔力を2つ目の魔法陣の魔力として使っているようだ。そのため、どこか1つの魔法陣の魔力が足りなくなっても、ある程度の時間なら、他の魔法陣から魔力の供給もできるらしい。
「そうそうだから、さっきは焦ったわ。その場所だけ火属性に変わっているんだもの。もしかしたら2つ目の方が機能していないんじゃないかってね」
「母が申しわけありません」
「まあ、マーベルさんが2つ目の魔法陣の配置を考案した人だから、特に問題はなかったけどね」
「「ええ!?」」
「あら?言いってなかったのかしら?」
擬音語で表現する人が、魔法陣の考案者。つまり……
マーベルさんは、結界魔法の仕組みを知っているってこと?
私とエルザはお互いに目を見開いて驚いていて見つめ合っていた。
そんな私たちに対してアンナは、感覚で感じ取っているのかもしれないと付け足した。
リーンたちは、夕食をご馳走になり片付けも終わった後、いつもの魔法講義に移っていた。
「今日、『インパルス』と『ソフトウィンド』という魔法を作ったのですが」
「え?」
「もう一度言ってくれる?」
「はい。今日、『インパルス』と『ソフトウィンド』という」
「あああ――!!!聞き間違いじゃなかったああああ――!!」
ナイトは頬を小刻み震わせ、アンナは頭を抱えて大声を出す。
普通、新しい魔法をそう簡単には作れるものではない。そのため、彼らはリーンの異常に優れた分野に悲鳴を上げたのだ。
<インパルス>は、雷属性の初級程度の魔力と魔法コントロールがあればできてしまう代物で、反応速度と魔法のコントロールが上がるもの。
<ソフトウィンド>は、<フライ>や<魔力解放>より使い勝手がいいものだった。
アンナは試しに使ってみると、両方とも簡単にできた。できてしまった。
「私の研究より早くできるなんて……才能って恐ろしいわ」
軽く落ち込んでいるアンナの方を、ナイトは優しく抱き留める。
エルザは、リーンやアンナが魔法を使う姿を見て、あることを閃いていた。
(ウィンドのソフトができるのなら、ファイヤでもできるかも!?)
エルザは、周りに燃えやすいものがないか確認を取り魔力を高める。
「『ソフトファイヤ』――!!」
不発になることなく、エルザの手から炎が出現した。
ただ、火種程度の小さな炎だった。
「ふう。こっちは小さい炎ね」
タクトとアンナは、ファイヤの威力を小さくしただけの応用に安堵していた。
魔力のコントロールによって、炎の大きさを変えることができるのは、魔法使いなら誰しもが通る道だからだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
~おまけ~
<望遠鏡>
ガルヴィーとサンニュ、そしてもう1人の男は、今日も懲りずに魔道具の試運転をしていた。
「――さん。今日の魔道具は何ですか」
「今日は、魔力を流した量だけ、遠くが見えるものだ。ほれ。」
男は、鞄から2つの筒がくっついたものを実際に使ってみる。
「ぐっは」
たまたま見た先には、メイド服を着ている、リーンのスカートが捲れている姿が映っていた。
「おい。何が見える……髪の毛と同じ、淡い緑色のパンツ最高」
「おい!大丈夫かお前ら!誰か!ヒールを!……って俺が使えたわ。『ヒール』」
今日も彼らはロマンを求めていた。