プロローグ
初めまして。
匿名希望のメリーです。
気分転換で書いてものでもよければ、ぜひ読んでください。
1-0.プロローグ
「神風店長!また明日!!」
「……いってらっしゃいませ、ご主人様。」
街灯の光が夜の街を照らす中、とある喫茶店から一人の男性が出てきた。
ジーパンにジャージ姿にリュックサックという、ファッションセンスの欠片もない服装で出てきた男。その身は清潔に保たれ、背筋を伸ばし堂々と歩くその姿。歩き方だけを見れば、彼がスポーツに適した体格であることは明らかだろう。
だが、よれた服装とはち切れんばかりに膨らんでいるリュックサックが印象を台無しにしていた。
それは、彼が、周囲からの目線を気にする性格ではなかったからだ。
某大学を主席で卒業するも、身だしなみや社会スキルが壊滅的であった彼は、ゲーム会社で働くことで腰を落ち着かせ、毎日メイド喫茶に通っていた。10歳のころから、20年間皆勤賞のオタク中のオタク。バイト初日の女の子に一目惚れし、20年間踏み込むことができなかったチキン野郎。
恋に一直線であった彼が、周りを気にする余裕などあるはずもなく、残念魔法使いになっていた。
そんな彼は、明日の仕事に影響しないように帰途を急いでいる。
顔はだらしないほど崩れ、急ぐ足は、周囲の人混みをかき分けるように進んでいく。
「あれ?先輩じゃないっすか。まだメイド通いしてるんっすか?」
「今日は伸展があったぞ!なんと神ちゃんとツーショットだ!」
彼は興奮した子供のように答えると、スマホの待ち受け画面を自慢した。
「自撮り写真を自慢するって、もう末期っすか。」
「そんなはずはないだろう?ここに……」
そんな筈はない。
男はそう思い、スマホの画面を見た時、まばゆい光が目を襲い、彼の意識は暗転した。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
メイド喫茶というお店をご存知だろうか?
……え? 言葉は知っているけど入ったことはない?
……まぁ、一般の人はそうだよね。入るまでは抵抗があるから。
知らない人のために簡単に説明すると、可愛い服を着た女の子が、役になりきって営業するお店のことだ。
オタクの聖地という人もいる。
もちろん、邪な思いで行く人もいるけど、可愛い女の子に話しかけてほしい初心な気持ちで行く人もいる。
……え?どっちも邪だって?
メイド喫茶に20年通っていた僕は初心な気持ちで女のこと向き合っていたんだ!……嘘です。ごめんなさい。メイド喫茶に行って、日夜、妄想しています。
何でこんなこと言っているかというと、ーー目の前に、そのメイドがいるからだ。
「少しは落ち着きましたか?もう一度言いましょう。ようこそ死後の世界へ。私は迷える魂を新たな道へと案内する女神の一人。あなたはたったいま亡くなりました。辛いでしょうが、あなたの人生は終わったのです。」
周りに何もない空間に、俺は突っ立っている。
そして、目の前には20年間通い続けた神風さんの姿がある。
なぜ彼女がここにいるのか、女神だって?相手の言うことを信じたくない反面、現実にはあり得ないほどぐらいの美少女だったのは、神様だったからなのかと思ってしまった。
それでも、死んだと言われても納得はできない。
あなたは死にましたと言われて、はいわかりましたとすぐには言えない。
自分の死について喪失していた中。
ふと、思ったのは、直前まで自分と話していた後輩のことだった。
「後輩の目の前だったと思うんですけど、彼の心は大丈夫でしょうか?」
「……あぁ、なるほど。記憶が抜け落ちているんですね。亡くなった日のことを詳細に語りましょうか?」
「ッ、お願いします。」
曰く、俺はあの場で死んだわけではないようだ。後輩君の冗談に怒ったおれは、周りを気にすることなく最短ルートで帰宅していたらしい。ただその日は最短ルートの道で深夜の道路工事をしていたようで、迂回するのが面倒だった俺が、周囲の声を気にせず突っ切ったようだ。そして、運悪く、サイドブレーキがかかっていなかった工事用のタンクローリーに潰されたらしい。
もっと細かく話してくれたが、まだ自分が死んだ実感がないし、死因の印象が強すぎたことで、他の話が耳に入って来なかった。
「……そうですか。ええと、一つだけ聞いても?」
俺の質問に、彼女は頷いた。
「俺はこれから、どうなるんですか?いえ、迷える魂って言われたので、普通のことと違うことが起きてしまったことはわかるのですが、それ以外がさっぱりで……。それになんであなたがここにいるんですか?」
大事なことだった。
尋ねたことは二つになってしまったが、どうしても気になることだ。
「そうですね。私のような案内をする神は、どうしても力が弱くなってします。力がなくなると神の力は使うことができなくなるので、案内ができなくなります。そうすると私はくびです。力が回復するまで自然と一体化するか、力の強い神様のもとで、働くことになります。そんなことは嫌だったので、信仰を集めて力をつけようとしました。ただそれが地球だっただけです。」
でもどうしてメイドを?
メイドオタクになった原因は彼女がほとんどだったのだが。
納得しなかった様子の俺を見た彼女は、小首を傾けた。
「……まぁ、それは、私がメイド好きだからです。」
「……え?」
どうしよう、なんかわかる気がする。
「……つまり、あなたに一目ぼれした俺がメイドオタクになった原因は」
「いえ。そういうわけでもありません。私が関わらなくてもあなたはメイド愛に芽生えていたでしょう。」
俺の言葉を遮るように発した。
「なんでそんなことが分かるんですか?」
「女神だからです。」
「いえ、そ」
「女神だからです。」
「あ、はい。」
女神ってスゴイナー
本当に言おうとしたことと少し違うけど、まぁいいか。
思いにふけていると、女神らしい威厳のあるような声が聞こえた。
「もっと話していたいのですが、もう少しで、時間です。生まれ変わる世界は、簡単に言ってしまえば、剣と魔法の世界です。要望があれば、少しのことなら加えることができますが、どうしますか?」
「それじゃあ、神風さんの本当の名前を教えてください。」
不思議そうな顔で見つめ返してくる。
「……えっと?そんなことでよろしいのですか?」
小さく呟く声とあまりにも可愛い仕草をする女神。そして俺の身体が少しづつ透けてきていた。
あぁ、やはりあなたは。――今も昔も変わらない。初めて会ったあの日から。
「はい!」
「私の名前はウェンディ。あなたのこれからの人生に幸せがありますように。」
美しい笑顔で答えてくれる女神。その姿を見れただけで、俺は胸がいっぱいになった。
満足感に浸っている中思い出すのは神風さんのメイド姿。
そうだ!
「女神ウェンディ。失礼を承知の上で言わせていただきます。」
ごくりとする音が鳴った。その音は俺のものか、それとも。
「ウェンディ。行ってきます!」
「!?。……いってらっしゃいませ。――私の勇者様。」
びっくりした彼女の顔と、その後に覗くいつもの仕草。最後まで声を聞き取ることができなかったけど、いつもと、言っている言葉が違うことだけは分かった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
どうも。メイド大好きな俺こと、冥柄土一です。もうその名前ではなくなってしまいましたし、覚えていても、あまり使わないでしょう。
生まれ変わりましたー。
って名前ですよ。今の名前がさっぱりわかりません。イントネーションだと女の子みたいな名前の印象を受けますが、男の子なのか女の子なのかはいずれわかることでしょう。男であってくれ!
まぁ、今は、名前、性別の問題はどうでもよくなりそうなほどの問題に襲われています。
この身体……
とーっても眠くなります。
体がうまく動かせなくて何もできません。考えることしかできません。考えると眠くなります。
それに、食欲旺盛です。
考えるだけで、エネルギーが消費されているのか、異様にお腹がすきます。
来てくれ!マイマザー!
ああー、母さんの身体は何て暖かいのでしょう。
甘いような、癒されるような、何かいいに匂いがします。あ。頬に何か当たりましたね。
…
……
………
っは!
一体何をしていたのでしょう。
早くこの温もりを与えてくれる人の顔が見てみたいです。
まぁ、僕は神風さん一筋ですが!!!
メイドはいいですよね!もしかしたら、今抱えてくれている人はメイドなのかもしれません!
メイド!
この世界にメイド喫茶はあるかな!なくても人がいるのだからメイドみたいな人達はいるでしょう!
大人になる前には、可愛いメイドさんと仲良くなりたいですね。
もし、自分が女の子だったとしても、メイドさんと仲良くなれるでしょう。いや、女の子の方が仲良くなりやすいのでは……
くっ。俺のコミュ力では難しいか。
だったら、メイドさんを雇おう。
そんな決意を固める中、ふと自分の行動を思い返してしまった。
目が覚めているときは、母親をじっと見たり(ボヤけて見えませんが)、匂いを嗅いだり(ぐほー!)、体をこすりつけたり(グヒヒ!)、体の暖かさを感じたりしています(ぐてー)。
赤ちゃんだから、ゆるされること。
30歳のおっさんが、50の母親にしていると思うと……
事案が発生していますね。想像したのが間違いでした。
こういう時は、いつものあれをしましょう。
せっかくの剣と魔法の世界なのだから、魔法だってできるはずさ!赤ちゃんの可能性は無限大!
動け俺の魔力!!!
あ、意識が……
~ステータス~
名前:リーン・フウノ
種族:人
年齢:0歳
レベル:3
HP:128/128
MP:0/13
SP:0/11
物攻:9
物防:9
魔攻:9
魔防:9
素早さ:16
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
~SIDE母親~
「おぎゃー!!」
こう起こされるのは、これで何回目だろうか。
30分に一回はこうして起こされるので、気が滅入ってしまう。
子育て用の本だと、2時間に1回ぐらいだと書かれていたから、私の娘は食欲旺盛なのだろうか。やはり、初めての子育てだから不安だ。
1日中泣き続けるので、時には投げ捨てようかと思う時もあったが、可愛い娘。
「よしよし、母さんですよ。」
優しく抱きかかえ、小さくあやす。
首の座っていない体をこすりつけ、時には私のことをじっと見てくる。その仕草が愛おしく想い、抱きかかえる力に少し力が入る。
あらやだ、この子の瞳。
私と同じ色だわ。
「なんでしょう、リーン?」
「娘に何、言ってるんだ」
「いえ、あなた。帰ってきたら、ただいまと言いなさい」
「……ただいま(ぼそっ)」
「声が小さいですよ」
「ただいま」
全く、この旦那さんは……。帰ってきたら挨拶ぐらいしないとダメでしょう。
これでも、頼りにしているのですが、基本的なマナーが点でダメですね。
娘の教育のために、まずは主人から教育しましょうか。
そう考えていると、娘が先程より体を強くこすりつけてくる。
「また、ご飯ですか。」
「俺のご飯は「少し待っていなさい」……はい」
…
……
………
「寝てしまったな」
「ええ。さ、今のうちに私たちもご飯にしましょう」
すっかり寝てしまった娘を抱きかかえ、暖かさを感じる。
(30分しか時間がありませんね)
この後の事を考えて主人に言い放つ。
――10分で食べ終えてください。
主人公は、店長のことが大好きです。
彼女も、彼のことが大好きです。
主人公は告白していないつもりでしたが、果たして本当にそうだったのでしょうか。
あ、なろうは初めての投稿です。のほほんと投稿していきます。