75 3ビックン
「あのう……ちょっとまってくださーい」
そう言ったのは先ほどごろつきに絡まれていた女の子だ。
どこかおっとりとした雰囲気に長い金髪。白いワンピースがその雰囲気によく似合っている。
「んん? 君、危ないから離れていなさい」
「でもー。 その人、早くしないと本当に死んじゃいますけど」
首が地面に埋まっているごろつきが陸に上がった魚のようにビックンビックンしている。
まずい、あの様子ではあと3ビックンぐらいで逝ってしまう!
「私は魔道を行使する、サポート・ゴーレム!」
「き、貴様! 逆らう気か!」
「はい、ちょっとどいて!」
龍選隊とやらを軽くどかし、男の周りの土を掘り起こす。
バージョン2は手から肘にかけてゴーレムに覆わせる作りになっているため、固い土もプリンのように掘ることが出来た。
「げほっ、げほ……た、助かった」
「ふう、なんとか2ビックンでいけた。ギリギリの戦いだったぜ」
「なんじゃその2ビックンというのは……。そんなことよりも、さっさとここを離れるぞ」
「え? だってまだ説明が終わってないから離れられないだろ?」
「説明って、あれにするのか? 聞いてくれそうな状態では無さそうだがな」
鈴音が指差すほうを見ると、龍選隊の人たちが遥か彼方の壁に寄りかかるようにして、ぐったりと気を失っていた。
ちょっと押しただけのつもりが、三人まとめて吹っ飛ばしていたようだ。
「や、やばい。どうしよう、俺お尋ね者になっちゃうのか……」
「大丈夫ですよ。面倒ごとは全部国王にやらせますから」
エマニエルさんがしれっと言った。
「また出てきたよ『国王』! 国王にやらせるって色々とどういうことなの!」
「あるじ、ワシらがここで説明したところで問答無用で牢屋にぶち込まれるのが関の山じゃ。それより国王を待たせることの方が問題じゃろう?」
「う……、まあ一理あるけど。でも……」
「巧魔くん。私が白と言えば龍都では黒も白になります。ですから安心して下さい」
「いやそんなにっこりした顔で言われても! 別の意味で安心できなくなってきたんですが!」
エマニエルさんの新たなる恐ろしい一面に押されるようにして俺はそそくさと城へ向かう事にした。