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67 二百年前の追憶五(鈴音視点)

「……辞めさせられたんだ。戦場で敵に囲まれたとき――敵ってのはここ、東の兵隊さんだが。焦っちまっったのかな、魔法を暴発させちまったんだ。暴発させたお陰といっていいのか分からんが、戦場は大混乱。あたいは命からがら逃げたんだが。そのとき味方にも怪我を負わせちまって……」


 魔法は精神統一が求められる技術だ。戦争に駆り出された魔道師が、精神的外傷が原因で魔法が使えなくなり引退に追い込まれるというのは良くある話しである。エマニエルもその例に漏れず、引退に追いこまれたのであるう。しかし――


「北の民はお主のような子供に軍人をやらせるのか。あまり良い策とは思えんのう」

「あたいの家は、優秀な魔道師を代々輩出しているんだ。だけど、父の代になるとなかなか子供が出来なかった。ようやく出来た頃には、東大陸遠征の真っ最中。父様(とうさま)はお堅いというか、家柄を気にする人でね。『国の一大事に手をこまねいて見てる訳にはいかん』って。成人前の娘を前線に送り出したってわけさ」


 自らの娘を前線に出すとは。なかなか考えがたい事だな。

 

「それで、その前線に叩き出された娘が何故敵国で風呂に浸かっとる?」

「風呂はあんたが入れたんだろ! ……逃げてきたんだ。魔法が使えなくなったあたしは自宅療養。父様たいそうお怒りさ。帰るなり、『何故逃げ戻ってきた、家門の面汚しめ』てね。家にあげてもらえたのは翌日さ。それからは、まだ前線には戻れんのかって毎日毎日。もううんざりして家を飛び出し、あてもなく歩いていたらこんな所まできちまった」

「……そうか。ふん、小娘の癖になかなか経験を積んでおるではないか」


 言って後悔する。とうしてワシはこうも天の邪鬼なのか。ここは慰める場面じゃろうに。

 

「小娘って、見た目は同じでもあんたより歳上だかんな!」

「ワシはこう見えても齢九十越えじゃ」

「はいはい、そうですね」

「いや、嘘では無いからな?!」

 

 風呂を出たあとにも何度も説明を試みたが、結局エマニエルは信じようとしなかった。

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