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63 二百年前の追憶一(鈴音視点)

ここから72話まではサイドストーリです。

このストーリでは鈴音の過去を垣間見ることが出来ますが、読まなくとも本編に支障はありません。

お急ぎの方は73話へお進み下さい。


『悪かったな鈴音。わがままを言ってしまって』


 本当にその通りだ。お前はわがまますぎる。


『わがままついでにもうひとつ。……この国を、皆を助けてやってくれ』


 それはお主の仕事だろう。仕事を途中で放り投げて勝手に死ぬのか。無責任じゃろうが。


『……一緒に生きてやれなくてすまなかった。願わくば……お前と共に生きる人が現れるよう祈っている』


 勝手なことを。勝手だ。お前のような奴はさっさと死んでしまえ。早くワシの記憶から消えてくれ。…………大和(やまと)? おい、返事をしろ。勝手に死ぬな阿呆めが。大和! 目を覚ませ大和! ワシを……ワシを……!


「ーーワシを置いていくのか阿呆大和!!」

「ひえ?!」


 目を丸くした壮年が息を飲んでいる。手には木製のコップと布巾。こやつは行きつけの飲み屋の主人だ。どうやら、カウンターに突っ伏して寝ていたらしい。


「大丈夫ですかお客さん? リンゴ酒を飲み過ぎたんじゃないですか?」

「……うむ。そのようじゃ」


(くそ。またあの夢か。最近は見なくなったと思ったんじゃが。……何が置いていくなじゃ。変な寝言を言うてもうたわ。ワシはそんなこと思っちょらんわい)


 あれから10年は経つというのに、未だに引きずっている。我ながら自分の女々しさに笑けてくるな。


「……ふん。主人、勘定だ」

「はい。そのままお二階へ?」

「いや、ちょいと酔いを冷ましに夜風を浴びてくる」


 外に出ると冷たく心地よい風が体をなぜた。ここは飲み屋が立ち並んでいるせいか、ランプが至るところに釣り下がっている。ふわりふわりと揺れる光が、陰鬱な記憶を消してくれるようだった。


 道行く人は皆酔っぱらっている。その風体は皆汚い者が多い。まともな仕事についているものはこの中の3割もいないだろう。半分以上は傭兵家業。夜盗に身をやつしている人間もいるに違いない。

錬成の覇者がこの世からいなくなって10年。今この国は荒れに荒れていた。


(何がこの国を助けてやってくれだ)


 死ぬ人間は楽で良い。死んだあと世界がどうなろうと自分の知った事では無いからの。だが、残された人間はどうだ。お主がいなくなった後、お主の馬鹿息子は貴族の言いなり。汚職が蔓延り国の財政はどんどん悪化。志を持つ有能な貴族たちは皆地方へ行ってしまった。今や新しい国を起こそうとしているとの噂まで聞こえてくる有り様だ。


(ワシはもう知らん。人間どもがどうなろうとワシの知ったことではないわ。これは全部お主のせいじゃ。お主のせいでこうなったのじゃ!)


 ワシの足がイライラの捌け口を求めて手頃な石ころを蹴り飛ばす。


「ふぎゃ?!」


 石ころが当たった生ゴミが喋った。どうやら今日は随分と飲み過ぎたようじゃ。

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