6 代償
サムライゴーレムがその役目を終え、砂に還ってゆく。
その砂の山に何故か当世具足と刀が残されていた。装備品は残る仕組みなんだろうか?
また、ひょろながゴーレムにいたっては未だ消えておらず、ぼーっとつったっている。ひょろながは魔法を改変して作ったので、
そのへんの条件も変わっているのかもしれない。
≪警告:マスターの生命力が危険水域に達しました。これより、生命維持機能が減退します。≫
(うう、寒っ)
急速に体が冷え始め、呼吸がゆっくりになっていく。一度経験したから分かる。
これは『死』だ。
ふと、この世界の両親の方を見る。
未だ意識は戻っていないようだ。
薫はグレーターウルフとの戦闘中に少し意識を取り戻したようだが、また気を失ってしまったようだ。
俺はホッとしたような、少し寂しい気持ちになる。
死に行く俺の姿を見て悲しむ両親の姿は見たくないが、死ぬ前に一度、抱き上げてほしかった。
何故だかは分からない。
もしかすると、赤ん坊としての本能に影響されているのかもしれないし、前世の両親に対し、何ら親孝行出来なかったことに対して負い目を感じているのかも知れない。
ともあれ、これで両親は安泰だ。
ひょろながゴーレムくんは戦闘力はないが、意識を取り戻すまでの狼避け位にはなるだろうし、何よりすぐそばにグレーターウルフのどてっぱらをかち割られた死体があるのだ。
大抵の獣は近付かないだろう。
(それにしても、管理者の奴め。もしかして、あの2人を守らせることが狙いだったのか?)
だとしたら、してやられたわけだ。
俺は無事、役目を終えこの世界から消え去る。
次がどんな世界だかは知らないが、今度は「結構きつい状況」じゃないことを祈っておこうか。
≪警告:生命力枯渇まで残り5分を切りました≫
さて、そろそろこの世界ともお別れか。
マジで短い間だったが、濃密した時間を過ごさせてもらった。願わくば次の人生は、静かに暮らしたいな。
「――まさか、ワシの能力をこんな形で使う奴がおるとはのう」
凛とした声が、静まる森へまるで鈴の音のように波紋する。
(死神というのは澄んだ瞳をしているな)
死にかけている拓海の脳裏に浮かんだのは、そんな場違いな感想だった。