58 赤紙
「なるほど。では主、理由も解ったことだし、行くとするか」
「ストーーーップ! 鈴音! 席を立つな! カムバックだ! まだ何にも聞いてないから!」
鈴音はぶーたれながら戻ってくる。こいつはなんでこんなにせっかちなんだまったく。
「それで、国王というのは?」
「なにをいっとるんじゃ。この前会った……あ」
「この前会った??」
「い、いや。何でもない何でもない」
鈴音がぶんぶんと首を振る。耳が出てるあたりがすごーく怪しい。
「詳しくは龍都でご説明致しますが……まずはこちらを」
エマニエルさんは懐から一通の書状を取り出した。
『招集命令状
守谷村 東 巧魔
上招集ヲ令セラル依テ下記日時に龍都へ到着セラルベシ
東国 魔法陸軍司令部 印』
「招集命令状? まるで戦争ですね」
「そのとおり。戦争が始まろうとしています」
「へ? まさか本当に戦争が?」
「ええ。今この国は、隣国に狙われている。巧魔くんにも身に覚えがあるはず。5年前のあの日に……」
5年前って……まさか。
「戮、の事ですか。そういえば、何か意味深な事をいっていたような。いつか会いまみえるとか何とか……」
「そう。そして、その日がやってきた。呉国の進行は待ってはくれません。まずは、至急龍都へお越し願いたい。出来れば、鈴音様もご一緒に」
「無論じゃ。……どうじゃ、主。聞いても聞かんでも一緒じゃろう?」
「いや、それは結果論……まあいいや。戮が関わってるんであれば、行くしかないね。エマニエルさん、分かりました。龍都に向かいましょう」
「そうですか! ありがとうございます!」
やれやれ、これでまた目標のスローライフからは大分遠ざかりそうだ。
「ふふふ」
鈴音がにやにやしながらこちらを横目に見ている。
「何だよ、鈴音」
「いや何。やはり主といると退屈しないと思ってな。ワシの目に狂いは無かった」
「……お前なあ。少しは主の不幸を心苦しく思ったりしないのかよ。」
そもそも、こいつは『主』と呼ぶくせにちっとも俺を主扱いしやがらない。
と、その時、来賓室の扉が大きく音を立てて開いた。