54 新作魔法
豚狩村で正義さんに敗北をした俺は、森谷村に帰ると早速新しい魔法のプログラミングに取りかかっていた。
「よし、こんなところかな。どうかな、コン先生?」
≪解。各設定値の調整に不安有り。テスト実施は推奨できません≫
「各設定値は、テストを実施しないと決められないだろ? じゃあ、やるしか無いよ、コン先生」
≪解。マスターの決定に従いますが。マスターは楽しんでいます≫
む! 鋭いなコン先生! 最近、コン先生は話し方がウェットというか、凄く人間的になってきている気がする。
「まあ、いざとなればコン先生がいるし。いざとならないように、努力はするけどね」
≪いざと成らずとも、いつでもご命令下さい≫
俺が店の倉庫がある中庭に来ると、そこに千春さんが来ていた。
「千春さん、お久しぶりですね。魔女邸のお仕事は順調ですか?」
「巧魔氏のお陰で順調です。むしろあれしか働いてないのにお給料を貰いすぎていますです」
「お金は気にしなくて大丈夫ですよ。ゴーレム達が稼いで来てくれますからね。それで、今日は?」
「ふっふっふ。巧魔氏が新しい改編魔法を開発されたと聞き付けていてもたってもいられずやって来ました」
「千春さんは本当に魔法が好きですね。尊敬します」
「尊敬?! 巧魔氏があたしを?! それはおかしいです。逆ですよ、むしろあたしが巧魔氏を尊敬ですから! あたしは大好きなんです! あ、いや、巧魔氏がじゃないですよ、巧魔氏の改編魔法が……」
千春さんは興奮した様子でまくし立てる。よっぽど魔法がすきなんだなあ、この人は。
「聞き捨てならないセリフだよ! 乙葉の巧魔くんが好きだなんて駄目なんだよ!」
見れば、乙葉が仁王立ちで、ブンブンといった表情を浮かべている。青い髪はずいぶん伸びてきたようで、今日は二つに縛って編み込んである。いやー、大きくなったなあ、乙葉。何だか親戚のおじさんになったような気分だ。
「乙葉氏、違うよ、お姉ちゃんはそういう意味で言ったんじゃ無くてね……」
「乙葉の巧魔ちゃんなんだからー! だめっ!」
「うー。 巧魔氏、何とかして下さいよ」
「乙葉ー、お姉ちゃんは僕の魔法が好きなだけで、僕の事は好きじゃないから大丈夫だよ」
「ホント? じゃあいいよ、お姉ちゃん」
ふう、良かった。乙葉が癇癪を起こすと止まらなくなるからな。
「……別に好きでないわけでは無いんですが」
「? 何か言いましたか? 千春さん」
「いえ! 何にもですです! 乙葉ちゃん、これから巧魔氏が魔法を使って危ないからこっちに来ようねー」
何か千春さんが言った気がしたが、気のせいのようだ。俺は気持ちを切り替えて改編魔法テストの準備に取りかかった。