39 謝罪
「痛っ」
額がズキリと疼いたため、俺は思わず声を漏らした。
「ん? 主どうした? 」
さっきまで不機嫌だった鈴音が心配そうに聞いてくる。
どうも豚助との闘いに自分も参加したかったらしい。
いつも勝手にふらふらしているくせに、『なんでワシのいるときに戦わんのだ!』と言われても理不尽な話である。
「いや、大丈夫だ。話を続けよう」
ここは東商店の一階。行商人との商談用に立板で区切られたスペースだ。
ソファーでしゅんとしている豚助と小夏。そこからテーブルを挟んで向かい合う形で俺、鈴音、父さんが座っている。
父さんは『この店を取り仕切ってるのはお前なんだから、俺は別に同席しなくても……』と言っていたが、取り纏めは父さんなのだから、こういう場にこそ父さんにはいてもらわないと困るのだ。
「それで、あなたの村が森谷村から観光収入を奪われた、と言っていましたが、それは本当の話ですか?」
「……それは嘘だ。どんどん発展していく森谷村が羨ましくて。たくさん稼いでるんだから少しくらいおこぼれを頂戴しても罰は当たらないだろうと思って」
「盗っ人猛々しい奴じゃの。主、もう話を聞く必要は無い。首を落として仕舞いじゃ」
「いやいや、そう結論を急ぐなよ……」
「ひい?! お許しを!」「小夏死にたくない!」
「……小夏、お主は昔から阿呆じゃったが阿呆に磨きがかかったようじゃのう」
「? お姉ちゃん小春を知ってるの?」
「ん? ……そうか、お主戻されたのか。いや、すまん。昔の知り合いに似ておったのでな。……人違いじゃ」
鈴音はそう言うと少し寂しそうに小夏を見つめた。
「鈴音?」
「いや、すまん。話を続けてくれ」
「? 分かった。それで、豚助さんは豚狩村の代表と言うのは本当ですか? 今回の騒ぎは豚狩村の総意だと?」
もしそうであれば、豚狩村との関係を考えなくてはならない。
「オヤビンは村の厄介者なのです!」
「こ、小夏! それを言ってはいかん!」
「そうだっけ? ごめんねオヤビン」
どうやら豚助の独断のようだな。良かった。最悪の場合、豚狩村と事を構えなくてはいけないところだったが、豚助一人を反省させるだけで事は済みそうである。