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4 絶体絶命

(どんな歯をしてやがるんだコイツ。歯医者いらずめ)


 晃一にグレーターウルフと呼ばれたそいつは、突如森の中から現れた。

 反応した狼型ゴーレムが迎撃にあたる。が、その巨体に似合わぬ俊敏さで身を(かわ)しながらゴーレムに噛み付く。


 1体のゴーレムがあっという間に砂へ還ってしまった。地球史上最強の噛力と名高いワニですら、こうはならないだろう。噛力、それに歯の強度。そのどちらも地球の常識から外れた桁違いの強さだ。


 グレーターウルフの鋼のように鋭い体毛が月を怪しく反射する。

 その瞳は3つ。通常の位置に2つ、額の真ん中を割って差し込まれたような瞳が1つだ。まるでルビーのように赤々している。


『グロォォオオオオ!!』


 幾多の獣が同時に吠えたかのような唸り声。

 その声に反応したのか、2体の狼型ゴーレムが同時に飛びかかる。

 

 が、グレータウルフはまるで動じた様子も無い。1対のゴーレムを前足で蹴り払い難なく粉砕。

 その間にもう1体のゴーレムがグレーターウルフに噛み付く。しかしこれもさほど意に介さず、蚤でも払うかのように叩きつけて粉砕した。


 辺りを粉砕されたゴーレムの砂が舞う。


(終わった)

 

 残った戦力は菫が作り出したゴーレム1体と、ひょろながゴーレムくん(仮名)のみ。

 対抗できるはずもない。次のひと噛みで、俺たちは血だまりの上だ。なんとまあ短い異世界人生だろう。

 ……俺は覚悟を決めてその時を待ったが、いつまでたってもその時がやってこない。

 変わりに妙な音が聞こえてきた。

 

 バタン。


 バタン。バタン。バタン。バタン。

 

(……こいつ)

 音の正体は、地面を叩きつける、グレータウルフの尻尾の音だった。


 じっとこちらを見下ろし、尻尾がパタンパタンと揺れている。その眼はカオルでもコウイチでもなく、何故か俺だけを見つめている。


 その様子は、飼い主がボールを投げるのを待つ犬によく似ている。

 そうか、こいつにとって俺の作り出すゴーレムはいいおもちゃなのか。 


「菫、逃げろ」


 晃一が強張った顔で薫に告げた。


「……晃一」


 囮になって俺たちを逃がすつもりだろうが、それは難しいだろう。一歩でも動けば命は吹き飛ぶ。


 その時、グレータウルフがふいっと俺から目を逸した。

 

 次の瞬間、俺は宙に浮いていた。

 遠くの大木で衝撃音。

 ゴーレムの目で見ると、薫と晃一が大木に体を打ち付け、ぐったりと動かなくなっていた。

 

 グレーターウルフが俺だけを残し、薫と晃一をはね飛ばしたのだ。


 薫の支えを失った俺は、そのまま落下し地面へ背中を打ち付けた。

 そんな俺をグレーターウルフがじっと見下ろす。尻尾は相変わらずパタパタと振られている。


 こいつ、俺が狼型ゴーレムを作ったってことを解っていやがるようだ。

 それで遊びに邪魔な薫と晃一を遠くにやったのだろう。


 こいつの期待にお答えしてやりたいのはやまやまだが、如何せん打つ手が無いんだなあ。


 俺が持つ魔力の半分を使い生成した狼型ゴーレムは、なすすべ無く粉砕。

 再度狼型ゴーレムを作った所で、時間稼ぎにしかなるまい。


(魔道コンパイラさん……、あいつを倒す方法あります?)


≪解。残りすべての魔力を使い、攻撃に特化させたゴーレムを作成。撃破率:8.45%です≫


 おお、まだ可能性が残されてるのか。攻撃特化か。防御を捨てて一発勝負ってところかな。


≪マスタへ提案。このまま何もせず待機が、現状最も有効な最善手となります≫


(え? そんな馬鹿な? それじゃあ殺されちゃうじゃない)


≪本惑星のデータベースへアクセスし、グレータウルフの習性に関する情報を取得しました。この生命体は知能レベルが高く、食事目的以外での殺戮行動を制限する特性があります。つまり、幼体であるマスタは見逃される可能性があります。その可能性、87.26%です≫


 ……なるほど。あの白髪宇宙人が3日の命と言っていたのはこのことか。


 このままなにもしなくても、俺はこの場では見過ごされる。だが、カオルとコウイチは食い殺され、両親を失った俺は3日後に飢え死にするストーリといったところだろう。


 おそらく、初めの狼はカオルが作り出したゴーレムを攻めあぐねているうちに、グレータウルフに蹴散らされたのに違いない。


(うーん、悪くない申し出だけど、パスかな。見逃してもらえても3日で死ぬんじゃ意味ないし)


≪解。旅人が通りかかり生きながらえる可能性があります。遭遇率:14.28%≫


(どっちにしろ低いじゃないですか。待つのは性に合わないし、やりましょう)


 それに転生者の俺にとっては他人な気がしてしまうけど、それでも血のつながった人間が死ぬのを見逃すのはちょっと気分が悪すぎる。……コンパイラさんには言わないけど。


≪了解。ではゴーレム作成へ移ります≫


(よし。じゃあ、俺のイメージをちゃんと形にしてくれよ。高校生の時県大会選抜に選ばれ大活躍した俺様の力、とくと見せつけてやるぜ!)


≪解。マスタープライベートデータベースにアクセスしたところ、マスタは1回戦敗退です≫


 ちょっ! 個人情報! そのデータは消しといてくれませんかね!?

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― 新着の感想 ―
プログラマー要素必要だったかな? 命令するだけで何でも作れるからいらない感じする あと生まれたてで地面に落下したのに生きてるんだとか、展開が早いのは読者的にも良いと思うんですけどこんな違和感ある時期…
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