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30 猿彦氏(千春視点)

ここから32.5話まではサイドストーリーです。

お急ぎの方は33話へお進み下さい。

 猿彦氏の名前の由来は、生まれたときの顔があまりにもある動物に似ていたから、と言う身も蓋もない理由だ。


 あんまりにもあんまりな由来だが、彼の顔を一目見れば誰もが納得の由来である。


 しかし猿彦氏はその名前を大変気に入っているらしく、その理由は誰もが一度見たら忘れずに覚えてくれるから、とのこと。


 彼の親には飢饉の際に抱えた多額の借金があった。彼は返済に追われる両親を助けようと11の歳に一念発起。以来、龍都で行商人として小柄な体躯(たいく)に鞭を打ち、日々コツコツと借金を返済していった。


 


 彼が19歳となる頃には、類い稀な努力と、持ち前の人懐っこさのお陰か、親の抱えていた借金はほぼ完済に近づいていた。


もうあと1ヶ月も働けば借金は完済となった時、見知らぬ行商人からもうけ話が持ち上がった。


(いわ)く、『ドワーフの造り出した鋼鉄製の武器が通常卸値価額の三割引で手に入る。俺はもう既に十二分に稼いだので、この話をお前に譲りたい』と。

 話をよく聞いてみれば、確かに三割引の価額に下がっているようで話に嘘は無い。


 ーー猿彦氏の普段取り扱っていた商品は建築用の木材等が中心だ。武器は専門外である。また、何かと目端の効く普段通りの猿彦氏であれば、今日会ったばかりの人間が、そんな上手い儲け話を持って来るはずはないと勘繰った筈だが、その時の彼は借金返済間近で気持ちが()いでおり、呆気なく引っ掛かってしまった。


 怪しい行商人から鋼鉄製の武器を仕入れた猿彦氏はほくほくとして龍都の武具店舗へ足を運んだ。


 そして愕然とする。龍都のどの店舗へ行っても、『高すぎる』と言われて買い取って貰えなかったのだ。


 最後に猿彦氏が藁にもすがる気持ちで訪れた小さな武具店を経営する老人は買い取りを断った後、青褪める猿彦氏にこう告げた。


「おたく、騙されたようだね。今、鋼鉄製の武器は半値に下がっとるよ。なんでも、最近森谷村に新しい工房が出来たらしく、皆そこから安く仕入れて来るんだよ」


 猿彦氏が8年の歳月をかけ、身を削る思いで稼いだ金はすべて吹っ飛び、あろうことか欲を出して借金まで作ってしまった。


 親の借金を返そうとして、逆に借金を作ってしまったのだから元も子もない。しかもその原因は自分の生まれ故郷に新しくできた工房である。背中から刺されたような気持であったに違いない。

 猿彦氏はどうにもやるせなくなり、せめてでも森谷村の新しく出来た工房にひと言文句を言ってやろうと、生まれ故郷に帰ることにした。


 要は八つ当たりである。


 そして、8年ぶりに故郷へ帰った猿彦氏は、その変わりように再び愕然とした。

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