19 激痛
突然の訪問者が現れたことによって、ほとんどの者が呆気に取られて何も出来ずにいた。
違う反応を見せたのは二人。
一人は龍一郎じいさん。普段絶やすことのない笑みは消え、腰に下げた剣へ手をかけつつ臨戦態勢となり、戮に対して強い警戒心をあらわにしている。
もう一人は鈴音だ。
「……こうして森から出てきた以上、いつかは他の契約者とかちあうこともあろうかとは思っていたが、ちょいと早すぎるのう。しかもよりにもよって巴蛇の契約者とはな。……また面倒な奴が表れたものだ。皆、不用意に動くでないぞ」
口調はいつもの調子だが、抱かれている俺には、鈴音がじっとりと汗をかいているのが分かった。
「うふふふ。かの『東の隠し干支』にお褒めに預り、光栄の至りで御座いますネ。さて、この度鈴音様と契約を交した果報者のお名前をお聞きしても宜しいですかな?」
「慇懃無礼な小僧だな。……嫌だと言ったら?」
「これはこれは鈴音様! 若輩者のワタクシがこんな事を申し上げるのは甚だ僭越では御座いますがネ――」
――拒否権は御座いません
闇が、戮を飲み込んだ。
「キャッ?!」
「おっと、動いてはいけません。手元が狂ってしまいますからネ」
一体どうやって移動したのか。闇から現れた戮のスーツの袖からは薄い刃が突き出ており、千春さんの首元に当てられていた。
「てめえ! アタイの弟子を離しやがれ!」
「落ち着けエマニエル。……殺すなよ小僧。殺せばお前も死ぬ事になる」
「これは異なことを仰る。『干支は人を殺せない』。そう巴蛇に聞いておりますが?」
「何事にも例外はある。試してみるか?」
戮の肩に乗っている巴蛇が鈴音の殺気を警戒するように鎌首を持ち上げ「シー!」と牙を剥き出しにする。
「巴蛇、下がって良いですよ。……うふふふ。どうやら冗談が過ぎたようで御座いますネ。ワタクシも鈴音様と事を構えるつもりは御座いませんよ。ただ、鈴音様の契約者様と同じ穴のムジナとして、御近づきになりたいと思っているだけで御座います。――それで、改めてお名前を伺っても?」
「……まあ良い。主の名は巧魔だ。これで満足か? 小僧。満足したならその刃を納めてさっさと立ち去れ」
「うふふふ、どうやら嫌われてしまったようで御座いますネ。良いでしょう」
戮が刃を納めた刹那、龍一郎が瞬時に距離を詰め、袈裟に斬り捨てる。
が、もうそこに戮はいない。既に龍一郎が斬りかかった場所から離れたところで歩き出している。
あれは、俺が『創造』の力を持つように、何らかの異能なのだろうか。
「本日こちらに参りましたのは、僭越ながら巧魔クンに御忠告をと思いましてネ。――それっと!」
戮が急に片手を振り挙げる。
一体何だ? と思っていると、額に強い衝撃と痛みが走った。