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122話:森羅の審判

大樹の都の第三ルート、巧魔が疲労困憊の体に鞭打ち、いのししの契約者を足止めしていたその時、森全体を揺るがす咆哮と共に、第8支・ひつじの鬼、**森羅しんえん**が姿を現した。その巨体は、亥の契約者、猪突ちょとつをも見下ろすほどの威容を誇り、全身を覆う樹木や苔、花々が、夜の闇に神秘的な輝きを放っていた。


「な、なんだあのバケモノは!?」


猪突は、森羅の圧倒的な存在感に、一瞬動きを止めた。彼の顔には、これまでの自信に満ちた表情ではなく、明らかな動揺が浮かんでいる。彼の能力「亥爆進いばくしん」は地形を破壊し尽くす。しかし、目の前にいるのは、森そのもののような存在だ。


森羅は、猪突と、その傍らに座り込む巧魔をじっと見つめた。その深い緑色の瞳は、まるで森全体の知恵を宿しているかのようだ。そして、その視線は、一瞬、巧魔の顔で止まった後、猪突に固定された。


「グルルルルル……!」


森羅は、再び低く唸り声を上げた。その声には、怒りだけでなく、森が受けた傷への深い悲しみが込められている。猪突が「亥爆進」でなぎ倒した木々の残骸が、森羅の足元に散らばっている。森羅は、その傷ついた森の痛みを、自らの痛みとして感じているかのようだった。


「フン!バケモノめ!貴様のような奴に、俺の邪魔はさせん!」


猪突はそう叫ぶと、再び体から黒いオーラを噴き出し、「亥爆進いばくしん」を放とうとした。彼の体は、森羅の威圧感に怯えることなく、むしろ好戦的な光を強めている。


だが、森羅は動じない。その巨大な羊の体が、僅かに揺らめく。


次の瞬間、猪突の足元から、無数の木の根がまるで意思を持ったかのように隆起し、彼を絡め取った。根は、猪突の強靭な肉体を締め付け、その動きを完全に封じた。まるで、システムに「強制終了(Force Quit)」がかけられたかのようだ。


「ぐっ……な、なんだと!?この根っこは……!?」


猪突は、根を振りほどこうと必死にもがくが、根は彼の動きに合わせてさらに締め付けを強める。彼の顔が苦痛に歪んだ。森羅の能力、**未癒吸収ひつじいやしきゅうしゅう**が発動したのだ。根が猪突の魔力を吸収し、彼の身体能力を奪っていく。同時に、傷ついた森の木々が、微かに緑色の光を放ちながら、再生を始めているようだった。


それは、単なる攻撃ではない。森羅は、猪突の破壊の力を吸収し、それを森の再生へと転換しているのだ。まるで、無駄なリソースを回収し、システム全体の健全性を保とうとする「環境最適化プログラム」のようだ。


猪突は、根に絡め取られ、魔力を奪われながら、徐々にその動きを止めていった。彼の瞳から、好戦的な光が失われ、やがて、完全に意識を失ったように、その巨体がぐったりと垂れ下がった。


森羅は、猪突を完全に無力化すると、再び静かに唸り声を上げた。その声は、森の奥深くへと響き渡り、燕の都に、静かな安堵の波紋を広げていく。森羅の出現は、呉国の侵攻を阻む、新たな防壁となるだろう。

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