120話:空の目、酉の契約者(千眼視点)
大樹の都の上空では、巧魔の放った「ホーミングバード」と、第10支・酉の契約者である千眼の激しい攻防が続いていた。無数のホーミングバードが、まるで意思を持つかのように、千眼の背に乗る鬼、迦楼羅目掛けて精密な魔力弾を放ち続ける。
千眼は、真紅の羽毛を持つ巨大な鳥の姿をした迦楼羅の背に乗っていた。迦楼羅は、その巨大な翼で風を切り裂き、ホーミングバードの魔力弾を紙一重で回避していく。その動きは、まるで空を舞う一筋の雷光のようだ。
「フン……鬱陶しい小鳥どもめ。だが、この程度の攻撃で、俺の動きを止められるとでも思ったか、少年」
千眼はそう呟くと、迦楼羅の翼から、無数の真紅の羽根を放った。羽根は、魔力を帯びた刃となり、ホーミングバードたち目掛けて、猛烈な速度で飛来する。ホーミングバードたちは、羽根の猛攻に次々と撃ち落とされ、光の粒子となって霧散していく。
「迦楼羅、高度を上げろ。そして、あの巨神兵の魔力供給源を探れ。あのゴーレムが厄介だ」
千眼の指示に、迦楼羅は鋭い鳴き声を上げると、さらに高度を上げた。上空から、都の中心部で亥の契約者と交戦している漆黒の巨神兵を見下ろす。千眼は、その巨神兵が持つ「全吸収結界」の仕組みを理解しようとしているようだった。彼の瞳は、通常の人間よりも遥かに広い視野を持ち、遠く離れた地上の戦いの様子までも、正確に捉えている。まるで、戦場全体を俯瞰する「空の目」だ。
地上の巧魔は、亥の契約者との攻防で手一杯だ。午の契約者も、巧魔の放ったミニゴーレムの障壁と、土属性魔法による拘束に手こずっている。千眼は、その隙を突くように、巨神兵の弱点を探ろうとする。
千眼は、ホーミングバードたちの猛攻を避けながら、迦楼羅の瞳を凝らした。彼の視界には、巨神兵の膨大な魔力反応が、まるで巨大な渦のように映し出されている。そして、その魔力の流れを辿っていくと、都の地下深くに、別の魔力反応があることを感知した。
「なるほど……あれが、あの巨神兵の真の核か……」
千眼はそう呟くと、迦楼羅に指示を出した。
「迦楼羅、あの場所目掛けて、迦楼羅炎弾!」
迦楼羅は、その巨大な嘴を開き、真紅の魔力弾を生成する。魔力弾は、都の建物を貫通し、地下へと突き進む。その狙いは、巨神兵の魔力供給源となる、都の地下に隠された「核」だ。
上空からの正確無比な一撃が、都の「防衛システム」の脆弱性を突こうとする。燕の都の命運をかけた、呉国の「情報戦」が始まった。