表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/124

118話:豪炎、赤武者と共に(千春視点)

大樹の都に響き渡る『森の意志』の咆哮は、あたしの胸を高鳴らせた。森全体が生き物のように脈打ち、根や枝が呉国の兵士たちを阻んでいる。だけど、あたしの役目はここじゃない。巧魔氏のゴーレムと共に、呉国の契約者を食い止めるんだ!


「赤武者! あたしに続いてくださいです!」


あたしが指示を出すと、巨大な赤武者が「おっけー! 任されたり☆」と、軽快な声で返事をした。この声、ノリが軽すぎませんか? いくら巧魔氏のゴーレムでも、真面目なあたしとは相容れない気がする。


第一ルートの戦場は、都の樹上に広がる、木製の大通りだった。既に呉国の兵士たちが侵入しており、燕の兵士たちと激しい交戦を繰り広げている。彼らの先頭には、ひときわ大きな魔力反応が二つ。りく巴蛇はだだ。


戮の隣にいた呉国の兵士が、あたしと赤武者を見て叫んだ。


「戮の旦那! 奴ら、あのゴーレムと魔道士ですぜ!」


「うふふふ。焦りは禁物で御座いますよ。しかし、これはまた、面白いものが現れましたね」


戮は余裕の笑みを浮かべ、巴蛇は相変わらず不機嫌そうな顔をしている。あたしは彼らの魔力反応を感知し、詩詠唱の準備に入る。


「赤武者! まずは牽制です! あたしの詩詠唱と連携して、奴らの動きを止めてくださいです!」


「りょーかい! ド派手にいっちゃおーぜ! 赤武者ボンバー!」


あたしが叫ぶと同時に、赤武者が巨大な刀を振り上げ、地面に叩きつけた。すると、地面に沿って真っ赤な炎の波が広がり、呉国の兵士たちを飲み込んでいく。


「グギャアアア!」


「なんだこれはっ!!?」


炎の波は、戮と巴蛇の足元にまで迫るが、二人は寸前で後方へ跳躍し、炎から逃れた。流石、契約者。一般兵とは動きが違う。


「――私は魔法を行使する。

  私がどれだけ想っても

  貴方はいつも何処吹く風

  私の想いはいつしか

  あなたの風に散らされた

  そうだ、貴方にも教えてあげましょう

  孤独に震える夜の苦しみを

  嫉妬で妬けつく|業≪ごう≫の苦しみを

  八度裏切った貴方に贈る八つのプレゼント

  伝わるかしら? この想い

  ――|妬≪や≫き尽くせ

  |八つの業火≪オクト・ファイヤーボール≫!」


あたしの親指以外の指に計8つの炎の玉が浮かぶ。炎の玉はみるみる大きくなり、直径3センチ程になったところで、弾かれたように呉国の兵士たちに向かってそれぞれ飛んでゆく。自動追尾機能があるようで、それぞれがカーブを描きながら確実にヒットし、爆発音が8つ起きる。


「ヒャッハー! 燃えろ燃えろー!」


赤武者が、あたしの炎魔法に合わせて、巨大な刀を振り回し、残った兵士たちをなぎ倒していく。その動きは、豪快そのもの。戮と巴蛇は、炎と赤武者の挟撃に、一瞬動きを止めた。


「ふむ。あの魔道士の魔法、なかなか威力がありますネ」


「厄介。殲滅すべき」


巴蛇が低い声で呟いた。彼女の瞳には、あたしと赤武者の動きを冷静に分析する光が宿っている。呉国王であるろうの役に立つため、常に効率と結果を重視する彼女らしい視線だ。しかし、どこか、横で愉悦に浸る戮に対し、いつものように「厄介者」を見るような呆れた感情も見て取れた。


赤武者の動きは衰えていない。巧魔氏のゴーレムは、本当にどれほどの魔力を持っているのだろう。あたしの詩詠唱も、これだけ連続で使えば、魔力枯渇が心配になってくる。しかし、今ここで止まるわけにはいかない。


戮が前に一歩踏み出した。彼の姿が、一瞬にして揺らめく。


「うふふふ。それでは、こちらも本気を出しましょうか……と、言いたいところで御座いますが。ワタクシの相手は、いずれ巧魔クン自身で御座います。このような序盤で、ワタクシが本気を出すなど、興ざめというもの」


戮はそう言うと、巴蛇を振り返った。彼の視線は、まるで巧魔氏の魔法の術式を解読するかのように、あたしと赤武者の動きをじっと見ている。


「巴蛇。こちらの魔道士とゴーレムは、そちらに任せます。その力、ワタクシに存分に見せて下され」


「サボるな。鬼、基本助力のみ」


巴蛇がそう口にすると、戮は張り付いたような笑みの口角をよりいっそう吊り上げる。その狂気が滲み出るような笑みは、千春の目にも、理解不能な異質さを感じさせた。


「ふふふ。確かに、通常の鬼であればサポート役のみで先頭の役には立たない。ですが、アナタは違いますよね?」


「だからなんだ。サボる理由にあらず」


「おや、勝てないということですかな? でしたら仕方ありませんネ」


戮の言葉に、巴蛇は無言で彼を睨みつける。その瞳には、侮辱された怒りと、それから、どこか諦めのような感情が入り混じっていた。


「ふん。そこで見ていろ」


巴蛇はそう言い放つと、あたしと赤武者の方へ向き直った。その冷たい瞳に、明確な殺意が宿る。これは、長期戦になりそうだ。あたしは、再び詩詠唱の準備に入った。赤武者と共に、この第一ルートを死守するんだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ