117話:奇策、ミニゴーレムの障壁
激しい頭痛に苛まれながらも、俺は意識を集中させた。午の契約者が、再び「午蹄踏破」で突撃してくる。その超高速の蹴りは、先ほどサポート・ゴーレムを粉砕したほどの威力だ。このままでは、俺の肉体がもたない。
「(コン先生!午の契約者の弱点は視界だ!周囲にいるミニゴーレムたちを動員しろ!奴の視界を奪い、動きを阻害するんだ!)」
≪了解。マスターの魔力をミニゴーレムに展開。視界遮断および物理的干渉プログラムをインストールします。周囲のミニゴーレムを即座に招集。ただし、ミニゴーレムは個体の能力が低いため、集団での連携が必要です≫
俺は、残された魔力の全てを、周囲のミニゴーレムたちへと展開する。都のあちこちを彷徨っていた、あの愛嬌のある小さな影たちが、一斉に俺の元へと集まり始めた。
「なっ!?」
午の契約者が、俺目掛けて視認できる対象への0距離突撃を仕掛ける。その瞬間、彼の目の前で、数十体、いや、百体近いミニゴーレムたちが、ワラワラと湧き出すように現れた。彼らは、俺と午の契約者の間に割り込むように、一斉に飛び跳ね、地面を掘り返し、互いの体を積み重ね始めた。
「なんだ、この鬱陶しいチビどもは!?」
男が驚きの声を上げる。突如として目の前に現れたのは、ミニゴーレムたちの可愛らしい、しかし視界を完璧に遮断する、動く「壁」だ。ミニゴーレムたちは、俺の魔力に駆動され、まるで意思を持ったかのように、午の契約者の動きに合わせてワラワラと動き回る。彼らは、猪の巨体にまとわりつき、足元を掘り起こし、小さな体で体当たりを繰り返す。
午の契約者は、ミニゴーレムの「壁」に突撃する寸前で、寸のところで動きを止めた。彼の能力は「視認可能な対象」がなければ発動しない。目の前にミニゴーレムの集団が現れたことで、彼はその「対象」を見失ったのだ。
「くそっ、こんな小細工で俺の動きを止められるとでも思ったか!」
男が苛立ちを露わにし、ミニゴーレムたちを蹴散らそうとする。だが、その一瞬の躊躇いが、俺に時間を与えた。
「(コン先生!この壁は一時的なものだ!奴が突破する前に、次の手が必要だ!)」
≪了解。対象の魔力反応は依然として強力。マスターの魔力残量では、直接的な攻撃は困難。周囲の地形と、マスターの土属性魔法による拘束を推奨します≫
そうだ、地形!周囲には、亥の契約者が「亥爆進」で破壊した抉れた地面がある。あれを利用するんだ!
「よし!地面から土の壁を!ミニゴーレムたちを散開させ、奴の退路を断て!」
俺は両手を地面に突き刺し、残された魔力の全てを叩き込む。地中深くへと伸びる魔力の奔流。大地が、まるで生き物のようにうねり始めた。亥が破壊した場所の土が隆起し、鋭い岩の壁となって、午の契約者の周囲を取り囲んでいく。
「なっ、地面まで動き出すのか!?」
男は驚きに目を見開く。ミニゴーレムたちは、俺の指示を受けて素早く散開し、隆起する岩壁の隙間を塞ぐように、再びワラワラと集まっていく。彼らは、午の契約者を完全に包囲した。
その時、俺の耳元で、鈴音が静かに呟いた。
「ふむ、なかなかやるではないか、主よ。ミニゴーレムも、使い方次第では侮れぬな。これで奴の動きは一時的に封じられたな」
いつの間にか、鈴音が俺の肩に戻ってきていた。彼女は、国王の元へ向かったはずだが……。
「鈴音!国王フェイサルは!?無事なのか!?」
「ああ。国王の執務室には、燕の国の精鋭たちが集結しておった。ワシの出る幕はなかったわい。それに……」
鈴音が、俺の顔を覗き込むように見上げた。
「ワシの目に狂いはなかったな、主よ。そなたは、ワシの想像を遥かに超える、面白い存在じゃ」
鈴音の言葉に、俺は少しだけ、誇らしい気持ちになった。頭痛は相変わらず激しいが、午の契約者を足止めできたことに、安堵の息を漏らす。
この「ミニゴーレムと地形操作」による「デバッグ」は、一時的なものにすぎない。だが、これで、俺は時間を稼げた。次の「解決策」を考える、貴重な時間だ。