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116話:高速強襲、午の刻

都の樹上を、高速で移動する影。その魔力反応は、一点に集中することなく、まるで残像のように揺らめいている。俺は「サポート・ゴーレム」を起動させ、その影を追う。


「(コン先生、新たな魔力反応の移動パターンを解析。その狙いはどこだ?)」


≪了解。対象の移動パターンは、直線的な高速移動を繰り返しています。都の中心部、国王のいる謁見の間を最優先目標としている可能性が高いです。防御態勢を推奨します≫


国王フェイサルが狙いか!くそっ、厄介なことに、奴は奇襲に特化している。


「鈴音!国王フェイサルの元へ急げ!新たな敵が、国王を狙っている!」


「む、了解じゃ!主も気をつけよ!」


鈴音は俺の肩から飛び降り、高速で国王のいる方向へ駆け出した。彼女の錬成魔法があれば、一時的にでも国王を守れるだろう。


俺は、新たな敵の予測進路上に回り込み、奴の動きを食い止めようとする。樹上を駆け抜ける間にも、都の各所で呉国の兵士たちと燕の兵士たちの戦闘が始まっているのが感じられた。


その時、俺の視界の端で、高速で迫る残像が捉えられた。新たな敵だ!奴は、俺の存在に気づくと、目標を俺に変更したようだ。


「(コン先生!迎撃!)」


≪了解。緊急回避プログラム起動。マスター、プッシュ・ウィンドウ発動。後方へ5メートル、横へ3メートル移動を推奨≫


俺はコン先生の指示に従い、即座に「プッシュ・ウィンドウ」を発動し、身体を後方へ吹き飛ばす。新たな敵がいた場所には、俺の残像だけが残された。


「ほう……避けるか。なかなかやるな、少年」


男の声が、まるで目の前から聞こえたかのように響いた。彼は、俺が回避した先に、既に立っていた。彼の姿は、漆黒の軽装鎧を身につけた、すらりとした青年だ。その瞳には、獲物を追い詰めるような鋭い光が宿っている。そして、彼の足元には、大地が微かに抉られている。


「だが、この一撃は、そう簡単には避けさせんぞ!午蹄踏破ごていとうは!」


男が叫ぶと同時に、彼の足が地面を強く蹴りつけた。次の瞬間、彼の姿は完全に掻き消えた。速い!あまりにも速すぎる!まるで、時間が止まったかのように、周囲の景色がゆっくりと流れて見える。空間を歪ませるかのような、超高速の蹴り。彼が第7支・うまの契約者であると直感した。


「(コン先生!予測不能!回避不可能!)」


≪警告。予測回避ルートなし。緊急防御プログラム起動。マスター、サポート・ゴーレムの最大出力による防御、および吸収を試みます≫


俺の身体を覆う「サポート・ゴーレム」が、瞬時に漆黒の装甲へと硬質化する。魔力が集中し、自動で防御体勢を取る。


ガキンッ!


強烈な衝撃が、俺の身体を襲った。まるで、巨大な鉄槌で打ち砕かれたかのようだ。サポート・ゴーレムにひびが入り、砂となって弾け飛ぶ。俺の身体も、その衝撃で遥か後方まで吹き飛ばされた。


「くそっ……なんて威力だ……!」


地面に叩きつけられた俺は、全身の骨が軋むような痛みに呻いた。サポート・ゴーレムがなければ、今頃バラバラになっていたかもしれない。


その瞬間、俺の脳内に、強烈な頭痛が走った。ガンガンと頭が内側から叩かれているかのような激痛に、思わず目を閉じ、その場に蹲る。


「ぐっ……うぅ……!」


「どうした、少年?急に蹲りおって。怯えたか?」


午の契約者が、俺の様子を見て嘲笑った。だが、俺はそれどころではない。頭の奥で、脳細胞が悲鳴を上げているような、そんな感覚に襲われた。


(コン先生……これは……?!)


≪警告。マスターの脳細胞に過負荷を確認。この現象は、『英霊のレプリカントボックス』の過剰な連続使用によるものです。マスターの肉体はまだ幼く、強大な能力の連続行使には耐えられません。通常、この能力の行使は、一日に一度が限度。今回のマスターの連続行使は、燕の国に流れる特殊な魔力濃度が一時的に許容範囲を広げていましたが、その限界を超えました。これ以上の使用は、脳機能の永続的な損傷につながります≫


コン先生の警告が、頭痛と共に脳内に直接響く。やはりそうだったのか……『英霊の箱』の使いすぎ。あの時、巨神兵を生成した際に感じた魔力の回復の速さは、この地の魔力環境によるものだった。俺は、その「ボーナス」に気づかず、無自覚に限界を超えて能力を酷使していたのだ。


これでは、「メガスローライフ」どころか、「植物人間ライフ」になってしまう。


「はっはっは!動けないようだな。もう終わりか?」


午の契約者が、容赦なく俺に近づいてくる。頭痛で視界が霞む。だが、このままやられるわけにはいかない。


(コン先生、何か…何か別の解決手段はないのか?!ゴーレム生成や『英霊の箱』を使わずに、奴の動きを止める方法は?!)


≪解析中。対象の能力は『視認可能な対象』が必須条件。現在の環境を利用し、一時的に視界を遮断することが最も有効な手段と判断されます。周囲の地形データと、マスターの持つ土属性魔法、プッシュ・ウィンドウの組み合わせを推奨します≫


そうだ、地形!周りには、亥の契約者が破壊した木々や抉れた地面がある。あれを利用するんだ!


「(コン先生、亥が破壊した地面と、周囲の木々を再構築。奴の視界を遮断する壁を生成しろ!)」


俺は、激しい頭痛に耐えながら、残された僅かな魔力と、プログラマとしての最後の意地を振り絞った。この世界の「システムバグ」は、俺がデバッグしてみせる!

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