115話:情報戦の幕開け
上空での「ホーミングバード」と酉の契約者による攻防が続く。精密に放たれる魔力弾を、酉の契約者は巧みに回避していくが、ホーミングバードたちの執拗な追尾は、彼の動きを確実に制限していた。まるで、デバッグ中の無限ループに陥ったプログラムのようだ。
「(コン先生、ホーミングバードの命中精度は?)」
≪解析中。ホーミングバードの命中精度は98.7%。しかし、対象の回避能力が高く、命中率の向上は困難と予測されます。目標:制圧には、さらなる火力、または回避能力の阻害が必要と判断されます≫
98.7%か。驚異的な数字だが、それでも当たらない。酉の契約者は、よほど回避能力に優れているのだろう。まるで、高速で動くターゲットを狙うミサイルのようだ。しかし、ミサイルにも弱点はある。
「(コン先生、酉の契約者の回避行動のパターンを分析。予測回避ルートを割り出せるか?)」
≪了解。解析中。対象の回避行動は、魔力感知に連動した反射的な動きと推測されます。予測回避ルートの割り出しは可能ですが、リアルタイムでの軌道修正が必要です≫
リアルタイムでの軌道修正か。それは、俺の「プッシュ・ウィンドウ」の応用で可能になるかもしれない。上空の酉の契約者は、都の防衛システムにとっての「監視カメラ」であり、「情報ハブ」だ。奴を無力化しなければ、燕の国の防衛戦略は常に後手に回ってしまう。
一方、地上では、漆黒の巨神兵が亥の契約者の「亥爆進」を完全に吸収し続けていた。巨神兵の存在は、亥の契約者にとって、まるで乗り越えられない「ファイアウォール」だ。
「くそっ、何なんだあのバケモノは!俺の『亥爆進』が、まるで効かないだと!?」
亥の契約者の怒声が響く。彼の攻撃が都に届かないことに、苛立ちを隠せないようだ。彼がいくら「亥爆進」を放っても、巨神兵の『全吸収結界』の前には、ただの魔力供給源にすぎない。
その時、俺の視界の隅で、別の魔力反応が動いた。都の樹上を、高速で移動する影。その魔力パターンは、以前解析した戮と巴蛇のものとは異なるが、同じく呉国の契約者のものだ。
「(コン先生、新たな魔力反応。詳細な情報を。第一ルートと第二ルートの状況も確認)」
≪了解。新たな魔力反応は、高速での単独行動を得意とする契約者である可能性。直接的な戦闘に介入しようとしています。魔力パターンより、第7支・午の契約者であると推測されます。第一ルートでは、赤武者と千春の連携により、戮と巴蛇の侵攻を一時的に阻止。第二ルートでは、蒼武者が未知の契約者と交戦中。現在、拮抗状態です≫
高速での単独行動を得意とする契約者か。これは厄介だ。まるで、高速でシステムに侵入しようとする「ハッカー」のような存在だ。都の防衛システムに、新たな「バグ」が投入された。これを修正し、都の安全を確保する。それが、今の俺の最優先事項だ。
「鈴音!新たな敵だ!都の中央部を目指している!僕が止める!」
「ふむ、了解じゃ。主も気をつけよ!」
鈴音を肩に乗せ、俺は樹上を駆け出した。都の防衛システムに、新たな「バグ」が投入された。これを修正し、都の安全を確保する。それが、今の俺の最優先事項だ。