111話:森の覚醒、未の守護者
大地が震え、森全体が咆哮する。その声は、悲しみや怒りを超え、まるで何かが目覚めたかのような、力強い生命の響きだった。木々が呼応するように放つ光は、執務室の窓を七色の輝きで満たし、その光は都の彼方まで届いているようだった。
「これは……まさか、『森の意志』が目覚めたというのか!?」
国王フェイサルが驚きと期待に満ちた声で呟いた。彼の顔には、この状況がもたらすであろう、希望と不安が入り混じった複雑な感情が浮かんでいた。
「(コン先生、『森の意志』の状態は?魔力暴走は止まったのか?)」
≪解析中。『森の意志』の魔力活性化、収束傾向に転換。魔力暴走は停止。新たに、強力な魔力パターンを検知。このパターンは、第8支・未の契約者のものと一致。能力名:未癒吸収の発動を確認しました。これは、周囲の魔力を吸収し、自身の力に変換する能力であり、今回の『森の意志』の活性化は、乙葉の過剰な魔力と呉国の契約者たちの魔力、そして森そのものの魔力を吸収し、統合した結果と推測されます≫
コン先生の報告に、俺は安堵の息を漏らした。森の意志の暴走が止まっただけでなく、その能力が発動したというのか。しかも、乙葉の魔力や呉国の魔力まで吸収したとは。まるで、システムに「セキュリティパッチ」が適用されたかのようだ。
執務室の窓から、森の奥深くを見通す。七色の光が収束し、森の中心部から、巨大な光の柱が天へと昇っていくのが見えた。その光の柱の中には、巨大な羊の姿が朧げに見える。その姿は、羊というよりも、森そのものが具現化したかのような、荘厳な存在だった。
「あれが……『森の意志』、第8支・未の契約者か……!」
国王フェイサルが感嘆の声を上げた。その瞳には、畏敬の念が宿っていた。
その時、執務室の扉が勢いよく開かれ、燕の兵士が飛び込んできた。
「国王陛下!呉国の兵士が、都への侵入を開始しました!森の木々が、彼らを阻むように動き出し、進路を塞いでいます!」
「やはり、森の意志が目覚めたことで、呉国の侵攻を阻んでいるのか!」
国王フェイサルは、力強く拳を握りしめた。森の意志が、燕の国を守るために動き出したのだ。しかし、その力は、果たして呉国の干支の契約者たちを止めることができるのか。
「巧魔殿!森の意志の力で、呉国の侵攻は一時的に食い止められています!だが、彼らもすぐに突破してくるだろう。そなたのゴーレム部隊を、都の防衛に回してくれ!」
「承知いたしました!国王陛下!」
俺はすぐさまコン先生に指示を出した。
「(コン先生、サムライゴーレムとミドルゴーレム、それに農業用ゴーレムの最大数を生成。都の主要な侵入経路に配置し、呉国の兵士と魔物を迎撃しろ。非致死性の制圧を最優先に、ただし契約者に対しては全力で足止めを)」
≪了解。命令をコンパイル。ゴーレム生成、および配置を開始します。制圧目標:呉国兵士、魔物。優先順位:最上位。目標:呉国契約者、足止め。優先順位:最上位≫
俺の魔力が、再び膨大に消費されていく。しかし、森の意志の魔力活性化の影響か、いつもよりも魔力の回復が早いように感じられた。これも、新たな「システム機能」の恩恵だろうか。
「千春さん、僕はこのまま『森の意志』の元へ向かいます。千春さんは、僕のゴーレム部隊と連携し、都の防衛をお願いします!」
「はいです!巧魔氏!お任せください!あたしの詩詠唱とゴーレム部隊で、この都を死守してみせます!」
千春さんが力強く頷いた。彼女の表情には、この国の平和を守るという、強い決意が宿っているようだった。
「鈴音、行くぞ!」
「おう!ワシも久々に大仕事じゃな!」
鈴音を肩に乗せ、俺は執務室を飛び出した。森の奥から響く『森の意志』の咆哮は、燕の国を守る、希望の叫びのように聞こえた。燕の国を守る新たな守護者、第8支・未の契約者。その力を、どうやって「最適化」し、呉国を迎え撃つか。プログラマとしての腕が鳴る。