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108話:森の慟哭

燕の国王フェイサルが口にした「森の守護者」の伝承。その存在が、燕の国に古くから宿る「森の意志」そのものであるという示唆に、俺のプログラマとしての知識は、新たなシステムの「仕様」を理解しようと稼働した。環境そのものが意思を持ち、その魔力を操るという規格外の「機能」。それは、あまりにも壮大で、俺の想像の範疇を超えていた。


その思考を遮るように、執務室全体を揺るがすような低い唸り声が響いた。まるで大地が咆哮しているかのような、圧倒的な存在感。その音は、単なる獣の唸り声とは異なり、深い悲しみと、そして激しい怒りを含んでいるように感じられた。


「これは……まさか」


国王フェイサルの顔から血の気が引いた。エマニエルさんも、表情を硬くしている。


「国王陛下、この声は一体……」


俺が尋ねると、国王は苦渋に満ちた表情で答えた。


「これは……燕の国の守護者、『森の意志』の嘆きだ。そして、怒り……」


国王の言葉の直後、執務室の窓の外から、森の木々が激しく揺れ動くのが見えた。まるで、巨大な何かが、森の中を暴れ回っているかのようだ。


「どういうことです?森が、怒っていると?」


千春さんが驚きと戸惑いの声を上げた。彼女もまた、この異常な状況に困惑しているようだった。


「この森には、古より『森の意志』と呼ばれる存在が宿っている。それは、燕の国の第8支・ひつじの鬼、**森羅しんえん**そのものだ。普段は穏やかだが、この森に災いが降りかかった時、あるいは森そのものが深く傷つけられた時、その怒りを露わにする」


国王フェイサルの説明に、俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。森そのものが守護者。その怒りとは、一体どれほどの規模なのだ。それは、単なる魔物の暴走とはわけが違う。まるで、世界そのものが「エラー」を吐き出し、自ら「デバッグ」を開始したかのようだ。


「だが、この唸り声……これほど激しいのは、これまでにも例がない。一体何が、森をこれほどまでに怒らせたというのだ」


国王フェイサルが焦燥感を滲ませながら言った。エマニエルさんも、国王の言葉を受けて、何かを探るように窓の外を見つめている。


「(コン先生、この『森の意志』の魔力パターンについて、何か観測できている事実はあるか?そして、この唸り声の原因は?)」


≪解析中。対象:燕の国『森の意志』の魔力パターンに、膨大な活性化を観測しました。この魔力パターンは、以前解析した『蒼の魔導師』乙葉の魔力暴走パターンに類似。この魔力活性化が継続した場合、広範囲の魔力逆流が発生し、燕の国全域に甚大な被害が出る可能性。同時に、森の奥深くから、高密度の魔力反応を複数、急速に接近中。既知の『呉国の契約者』の魔力パターンも複数観測しました≫


コン先生の報告に、俺は思わず息をのんだ。乙葉の魔力暴走に類似する魔力活性化?そして、呉国の契約者まで。まさか、乙葉の暴走が、燕の国の森の意志を刺激し、その混乱に乗じて、呉国が燕の国に侵攻してきたというのか?!


「国王陛下!森の奥から、呉国の契約者たちが接近しています!彼らが、この森の異常に関わっている可能性が高いです!」


俺は、コン先生の報告を国王に伝えた。国王フェイサルの表情が、絶望から驚愕、そして怒りへと変わっていく。


「なに!?呉国が……まさか、この機に乗じて侵攻してきたと!?」


「これは、呉国の周到な計画なのかもしれません。森の意志の怒りを誘発させ、燕の国を内部から混乱させようと……」


エマニエルさんが、冷静な口調で分析した。その言葉に、国王フェイサルは深く頷いた。


「くそっ……中立のこの国を、卑劣な手段で陥れようと……!許さんぞ、呉国め!」


国王フェイサルの怒りの声が、執務室に響き渡った。この平和な燕の国にも、ついに戦火の兆候が迫ってきたのだ。そして、その原因の一つに、乙葉の暴走が関わっているとすれば……俺は、その責任を強く感じずにはいられなかった。


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