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107話:王の苦悩と隠された支

国王フェイサルは、東の国との同盟交渉において、巧魔の能力や魔導列車の技術に大きな関心を示しつつも、終始慎重な姿勢を崩さなかった。彼の言葉の端々から、中立を維持することの難しさ、そしてそれに伴う重圧が感じられた。


「国王陛下。燕の国の安全と繁栄を願うお気持ちは理解できます。しかし、呉国の脅威は、今や燕の国にとっても他人事ではありません。彼らは、東の国を足がかりに、この大陸全体を支配しようと目論んでいます」


エマニエルさんが、改めて呉国の危険性を訴えた。彼女は筆頭魔道師として、この国の未来を深く憂慮しているのだろう。


「分かっておる。だが、燕の国はこれまで、幾度となく訪れた戦火の危機を、この中立の姿勢で乗り越えてきた。性急な判断は、かえって国を滅ぼすことになりかねんのだ」


国王フェイサルは、苦悩の表情を浮かべた。彼の言葉は、燕の国の長い歴史の中で培われた「安全保障プログラム」のようなものだ。それを安易に書き換えることは、大きなリスクを伴う。


「しかし、国王陛下。今回の呉国の動きは、これまでとは異なります。彼らは、りくという強力な干支の契約者を擁し、その力を背景に、着実に勢力を拡大しています。このまま手をこまねいていれば、燕の国もいずれ、彼らの脅威に晒されることになるでしょう」


俺は、戮の危険性を強調した。彼が持つ「次元脱兎じげんだっと」の能力は、戦場における「バグ」のようなものだ。一度の敗北が、何度もやり直される可能性がある。それは、常識的な戦略では対応できない。


「戮の存在は承知している。だが、燕の国にも、長きにわたりこの国を守ってきた者たちがいる。彼らの力は、正義国王のそれにも劣らぬものだ」


国王フェイサルの言葉に、俺は思わず身構えた。燕の国にも、正義国王に匹敵する干支の契約者がいるというのか。コン先生に尋ねてみる。


(コン先生、燕の国にいる干支の契約者について、何か情報はあるか?)


≪解析中。燕の国には、国王フェイサルを除き、少なくとも二体の干支の契約者が存在します。そのうち一体は、第7支・午の契約者であることが確認されていますが、もう一体については情報が不足しています≫


第7支・午か。午の能力は「午蹄踏破ごていとうは」、視認できる対象であればどこからでも0距離突撃ができる強力な能力だ。それに加えて、もう一体。未知の干支の契約者がいるというのか。


「国王陛下。差し支えなければ、その方々の能力について、お聞かせ願えないでしょうか?今回の同盟交渉において、貴国の戦力を知ることは、極めて重要な情報となります」


エマニエルさんが、国王フェイサルにそう切り出した。すると、国王は一瞬、迷うような表情を見せたが、やがて静かに口を開いた。


「よかろう。東の国との同盟は、この国の存亡に関わる重大な決断だ。隠し立てする道理もない。我が国には、古よりこの森を守りし『隠された十二支』がいる。彼らは、表舞台に姿を現すことはないが、この国の真の守護者だ」


国王フェイサルはそう言うと、執務室の奥にある、巨大な木の根でできた壁に目を向けた。その壁には、古めかしいタペストリーがかけられていた。タペストリーには、十二支の動物たちが描かれているが、その中に、見慣れない動物の姿があった。


「あの絵は……何ですか?」


千春さんが、興味津々といった様子で尋ねた。


「あれは、我が国に古くから伝わる『十三番目の干支』の伝承だ。その存在は、限られた者しか知らぬ。そして、その契約者は、まさにこの燕の国の真の守護者、いや、この森そのものだと言えるだろう」


国王フェイサルの言葉に、俺は息をのんだ。十三番目の干支?そんなものが存在するのか。そして、その契約者が「森そのもの」だと。それは一体、どのような能力を持つ存在なのだろうか。俺の「プログラミング」の知識をもってしても、想像の範疇を超えている。


「その契約者は、一体……」


俺がそう尋ねようとした、その時だった。


ゴオォォォン……!


執務室全体を揺るがすような、低い唸り声が響いた。それは、まるで大地そのものが咆哮しているかのような、圧倒的な存在感だった。

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