105話:模倣の先に
猿舞と真猿との出会いは、俺の「創造魔法」に新たな可能性の扉を開いた。彼の能力「申模倣」は、俺の持つ「クラス登録」や「プログラム改変」といった概念と酷似している。異なる世界の技術が、奇妙な形でこの世界でリンクする。プログラマとして、この「互換性」には興奮を覚える。
(コン先生、申模倣と真猿の魔力パターン解析、進捗はどうだ?)
≪解析完了。第9支・申の契約者**猿舞の魔力パターンは、他者の能力に近似した魔力現象を再現する挙動を示すと観測されました。また、契約する鬼である真猿**の魔力パターンは、その再現された現象の『具現化』特性を持つと観測。ただし、模倣できるのは一度に一つの能力に限られ、その持続時間は対象の魔力量と模倣者の魔力量に比例すると観測されました。また、再現元の能力の複雑さによっては、完全な具現化には時間を要すると推測されます≫
なるほど、流石コン先生、仕事が速い。つまり、俺の「創造魔法」の「クラス登録」は、外部記憶に保存された「設計図」を基に「インスタンス」を生成するのに対し、猿舞の「申模倣」は、対象の「実行ファイル」を直接「コピー&ペースト」して「実行」するようなものか。そして、その実行結果を真猿が「具現化」している、と。一時的なものとはいえ、これは強力な能力だ。
(この能力を、俺のゴーレムに組み込むことは可能か?)
≪解。可能です。ただし、ゴーレムに模倣能力を付与する場合、ベースとなるゴーレムの性能が模倣元の能力に適合している必要があります。また、同時に複数の能力を模倣することは負荷が高く、ゴーレムの破損につながる可能性が高いと予測されます≫
ふむ。やはり万能ではないか。しかし、これは使える。特に、敵の契約者の能力を一時的に模倣できれば、戦術の幅が大きく広がる。例えば、戮がかつて使ったとされる「次元脱兎」のような高速移動を伴う現象を模倣できれば、彼の奇襲に対応することも可能になるかもしれない。あるいは、味方の干支の契約者の能力をゴーレムに付与し、一時的に戦力増強を図ることもできる。
「巧魔氏、さっきからニヤニヤしてますけど、何か面白いこと考えてるんですか?」
千春さんが怪訝そうに俺を見ていた。どうやら、思考に没頭しすぎて、顔に出ていたらしい。
「ええ、千春さん。猿舞殿と真猿殿の能力を解析した結果、僕のゴーレムに新しい機能を追加できるかもしれないと分かったんですよ」
「な、なんですって?!新たな機能?!まさか、模倣能力をゴーレムに?!」
千春さんが再び興奮し始めた。その瞳は、まるで最新のプログラムコードを見つけたプログラマのように輝いている。
「その可能性はありますね。これにより、僕のゴーレムたちは、さらに進化を遂げることになるでしょう」
俺の言葉に、千春さんは感嘆のため息をついた。
「素晴らしい!巧魔氏の魔法は、まさに無限の可能性を秘めていますね!ああ、あたしも巧魔氏の弟子になりたいです!」
「はいはい。千春殿はもうすでに誰かの弟子じゃろ」
鈴音が、呆れたように千春さんの頭をポンと叩いた。
「むう!鈴音氏もそういいますけど、師匠はあたしにちっとも新しい魔法を教えてくれないんですから!いつも同じ魔法ばかりで、あたしもう飽きちゃいましたです!」
千春さんが不満そうに口を尖らせた。確かに、エマニエルさんは千春さんに対して、基本的な魔法の反復練習をさせているようだった。まるで、ひたすら同じ「Hello, World!」を打ち込ませるようなものか。しかし、基礎の習得は重要だ。
「基礎が大事なんですよ、千春さん。それができていなければ、どんなに高度な魔法も使いこなせませんから」
「そんなこと言っても、巧魔氏は基礎も無しにすごい魔法をポンポン作ってるじゃないですか!」
「僕は特殊なケースですから。それに、僕だって基礎は大事にしてますよ。土魔法の基礎がなければ、ゴーレムも作れませんからね」
俺の言葉に、千春さんは納得がいかないようだったが、それ以上は何も言わなかった。
猿舞と真猿の「申模倣」の解析は、俺の創造魔法の「開発計画」に大きな「マイルストーン」を打ち立てた。これで、来るべき呉国との戦争に向けて、さらに強力なゴーレム部隊を編成することが可能になる。
(メガスローライフへの道は遠いけど……この世界の「システム」を最適化するためなら、もう少し頑張るか!)
俺は、未来の「機能拡張」に胸を躍らせていた。