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101 燕王、その威厳

謁見の間は、樹木の自然な曲線を生かした優美な空間だった。天井からは柔らかな光が差し込み、壁には色とりどりの花々や、森の動物たちが描かれたタペストリーが飾られている。中央には巨大な木の根が隆起して玉座を形成し、そこに一人の男が座っていた。


燕の国王、フェイサル。


彼の姿は、エマニエルさんと同様に、すらりとした体躯と、ピンと尖った耳が特徴的だ。若々しい顔立ちだが、その瞳の奥には、長き時を生きた者だけが持つ、深い知性と威厳が宿っている。まるで、広大な森そのものが、そのまま人の姿になったかのようだ。


俺たちは国王の前に進み出て、深く頭を下げた。


「東の国の使者たちよ、よくぞ参られた。私は燕の国王、フェイサルである」


国王の声は、森の木々を揺らす風のように穏やかだが、その中に有無を言わせぬ威厳が感じられた。


「東の筆頭魔道師エマニエルでございます。国王陛下におかれましては、ご健勝のほど、何よりでございます」


エマニエルさんが、流れるような動作で跪き、恭しく挨拶をした。その姿は、普段の千春さんへの態度からは想像もできないほどに優雅だ。


「そして、こちらが東の国王陛下より、同盟締結の大使として派遣されました、巧魔様、そして鈴音様でございます」


エマニエルさんの紹介に、俺と鈴音も改めて頭を下げた。国王の視線が、俺たちに向けられる。特に鈴音に対しては、その瞳の奥に、何か探るような光が宿っているように感じられた。


「ほう……そなたが、噂の『第十三支の猫』の契約者か。そして、そちらの少年が、新たな『猫』の契約者、巧魔殿か」


国王の言葉に、俺は少し驚いた。すでに俺のことが燕の国にまで伝わっているとは。東の国の情報網もなかなかやるようだ。それとも、正義国王が事前に伝えていたのだろうか。


「はい。わしが鈴音じゃ」


鈴音は普段通りの、どこか飄々とした口調で答えた。国王相手にも臆することのない態度に、さすがは「国家の歴史そのもの」といったところか。


「そして、私が巧魔です。この度、国王陛下から同盟締結の大使を拝命し、参上いたしました」


俺は精一杯の丁寧な言葉遣いで応じた。メガスローライフを夢見る身としては、こういう堅苦しい場は苦手なのだが、今は東の国の代表として、しっかりと務めを果たさねばならない。


「うむ。遠路はるばるご苦労であった。同盟の件は、追って詳しく話を聞かせてもらおう。まずは、長旅の疲れを癒されよ。滞在中は、この大樹の都で心ゆくまで過ごされよ」


国王はそう言うと、謁見を終える合図をした。


俺たちは謁見の間を辞し、エルフの侍女に案内されて滞在する部屋へと向かった。部屋もまた、樹木の内部をくり抜いて作られたような、温かみのある空間だ。大きな窓からは、都を覆う巨大な樹の葉が間近に見える。


「燕の国王フェイサル様は、とても聡明な方ですね。交渉は一筋縄ではいかないかもしれません」


エマニエルさんが、少し疲れたような表情で言った。やはり、国王の威圧感は相当なものだったのだろう。


「ふむ。フェイサルめ、昔と変わらず面倒な奴じゃな。しかし、あの目つき……ワシのことが気になって仕方ないようじゃ」


鈴音がどこか楽しげに笑った。200年前の「錬成の覇者」の契約者である鈴音の存在が、燕の国にとっても無視できない要素なのだろう。


「燕の国には、他の干支の契約者はいないんですか?」


俺が尋ねると、エマニエルさんは首を横に振った。


「いいえ。燕の国にも、古くからの干支の契約者が存在します。ただ、彼らは表舞台に姿を現すことは滅多にありません。国王の側近として、あるいは森の奥深くで、静かにこの国を見守っている者たちがいます」


なるほど。東の国とはまた異なる形で、契約者たちが国に関わっているということか。俺の「プログラミング」能力が、彼らとどのように交わるのか。新たな出会いが、またどんな「バグ」を生み出すのか、あるいは「機能拡張」をもたらすのか。考えるだけで、少しだけ、この退屈な交渉の先に楽しみができた気がした。

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