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99 燕の風、東の風

魔導列車が燕の国の国境に近づくにつれ、車窓から見える景色は徐々に変化していった。広大な草原は次第に深い森へと姿を変え、時折、東の国では見慣れない、すらりと背の高い木々が連なるのが見えた。


「燕の国は、森が豊かなことで知られています。エルフやドワーフといった、長寿の種族が多く暮らしていますからね」


エマニエルさんが説明してくれた。エルフは自然と共生し、ドワーフは地中で暮らす。それぞれの種族が独自の文化や技術を発展させているのだろう。プログラマとしては、そういう多様なシステムがどのように統合されているのか、非常に興味がある。


「へえ、森の魔女の千春さんもエルフなんですか?」


俺が尋ねると、千春さんは少し困ったように笑った。


「いえ、あたしは東の民ですよ。師匠がエルフなんです」


「そうでしたか。道理で、千春さんも師匠も耳が尖っているわけだ」


エマニエルさんの耳もピンと尖っている。エルフの種族の特徴なのだろう。


「燕の国は、東の国とはまた違った魔術体系が発展していると聞いています。特に、自然の力を借りる精霊魔法や、空間を操る術に長けているとか。巧魔氏の『創造』の魔法も、また新たな可能性を見出すことができるかもしれませんね」


千春さんが期待に満ちた目で俺を見た。彼女は本当に魔法が好きだ。その探求心には、プログラマとして共感できるものがある。常に新しい技術を追い求める姿勢は、どの世界でも同じなのだろう。


「ふむ、楽しみじゃな。ワシも久々に燕の地を踏むが……昔とは色々と変わっておるだろうな」


鈴音がどこか遠い目をして呟いた。彼女が燕の国に来るのは、初代東王・大和との旅以来なのだろうか。200年以上の時が、この国にどのような変化をもたらしたのか。


しばらくすると、列車は速度を落とし始めた。前方には、巨大な木々が連なる森の中に、人工的な構造物が見えてくる。


「まもなく国境の検問所に到着します。ここからは燕の国の兵士たちが警備にあたっていますので、失礼のないように」


エマニエルさんの言葉に、俺たちは身構えた。


列車が完全に停車すると、扉が開かれ、燕の国の兵士たちが乗り込んできた。彼らは東の国の兵士とは異なり、緑を基調とした軽装の鎧を身につけ、背には弓を携えている。エルフの兵士だろうか。彼らの動きは非常にしなやかで、森での戦闘に特化しているように見えた。


「東の魔導列車、燕の国への入国を確認した。乗客の身分証を提示せよ」


兵士の一人が、威厳のある声で告げた。エマニエルさんが代表して、正義国王から預かった通行証を提示する。兵士は通行証の内容を確認すると、少し驚いたような表情を見せた。


「これは……国王陛下からの直々の通行許可証。大変失礼いたしました。どうぞ、お通りください」


兵士の態度が途端に恭しくなった。国王の力は、どの国でも絶大ということか。


再び列車が動き出し、検問所を通過する。森の奥へと深く進んでいくと、点々と小さな集落が見え始めた。東の国の村々とは異なり、彼らの住居は木々と一体化するように建てられており、自然との調和を重視していることが窺えた。


「燕の国は、自然の恩恵を最大限に活用しています。彼らの魔術も、自然の精霊との対話から生まれるものが多いと聞いています」


エマニエルさんが教えてくれた。巧魔の「創造魔法」は、土という物質を直接操作する。精霊魔法とは、また違ったアプローチだ。もしかしたら、この燕の国で、新たな魔法の「API」を発見できるかもしれない。


列車はそのまま森の奥へと進み、やがて視界が開けた先に、巨大な樹木がそびえ立つのが見えた。その樹は、まるで天空に届くかのように高く、枝葉は広大な森全体を覆い尽くしているかのようだ。


「あれが、燕の国の首都、**大樹のたいじゅのみやこ**です」


エマニエルさんの言葉に、俺は息をのんだ。まさに、自然と文明が融合した、この世界ならではの光景だった。

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