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私と彼の大冒険  作者: 一弧
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プロローグ

 どう見ても異様な光景だった、大柄な成人男性よえりさらに三回りは大きい死体、その死体は黒く鈍い色の光沢を放っており、頭部には牛を思わせる角が生えていた、蝙蝠のような翼、爬虫類を思わせる尻尾、牛の蹄を思わせる足、一目見て分かる、『魔神デーモン』しかもその大きさは並の下位魔神レッサーデーモンよりはるかに大きく、あきらかに上位魔神グレーターデーモンである事を見る者に印象付けた、しかしそれだけであるならば、手練れの傭兵や軍により討伐される機会も時々あり、そこまで珍しい事でもないが、その場にいるのはフードを被った人物が無言で佇み、その側では木に寄り掛かるようにしてフードを被った少女らしき人物がしきりに紐をあやつりあやとりに興じていた、城門のすぐそばで道行く通行人は好奇の視線を投げかけるガ、まるで動じることなくあやとりに興じ続けていた。


「これを持ち込んだものは誰だ!」


 城門から出てきた衛兵とギルド職員の男、その他にも数名を引き連れた騎士は大声で怒鳴り、魔神デーモンの死体の所有者に名乗り出る事を要求した。


「私達よ」


 あやとりをしていた少女は紐をしまい立ち上がると、悪びれる事無く名乗り出た。


「フードを取り顔を見せろ」


 言われてフードを取り顔を見せるとそこには十代前半の目鼻立ちの整った育ちの良さそうな少女の顔があった。


「姓名を名乗れ」


「アンネローゼ・クロフォード、二週間ほど前にギルドに登録しておいたはずよ、そこのギルドの方が受付だったと記憶していますが」


 彼女の言葉を聞くと、騎士は後方に待機していたギルド職員の男に確認を取るかのように見る、男は何度も頷き肯定してみせていた。

 騎士は正直信じられなかった、どう見ても少女とおぼしき人物が魔神将アークデーモンを討ち取ったといって報酬を要求して来たのである、信じろと言う方がどうかしているとしか思えなかった、しかし緊急という事で駆り出された宮廷魔導士もその魔神デーモンの死体が魔神将アークデーモンの死体である事に異論を唱える事無く認めていた。


貴様きさま一人で倒したのか?」


「彼一人よ、私が出るまでもなかったわ」


 そう言って軽く親指でフードを被った人物を指差した。名を名乗らなくても、既にギルドに登録してあり、ほぼ確認を終えている状況ではこれ以上の追及も意味のない事のように思われた。


「興味本位で聞くが、どうやって倒したのだ?」


 騎士の質問も当然のように思われた、魔神将アークデーモンを倒すのであれば手練れの団体が多くの犠牲を払ってやっと倒す大物であり、たった一人で倒すなどという事はほとんど伝説の領域の話に出てくるくらいで、実際に聞いた事などないと言ってよかった。


「殴り殺したのよ、胸部と腹部に数か所穴が空いてるでしょ?心臓を吹き飛ばしてもまだ動くからたちが悪いわよね」

 

 冗談にしか聞こえなかったが、死体を調べれば事実か否か分かるだけにそんな嘘を吐くメリットなどなく事実である事は揺るぎないと思われた、そしてそのあまりの規格外の力に脅威を覚えた、『魔神将アークデーモンを素手でほふる化物を町に入れていいものであろうか?』そのような考えが頭を過るが、そんな考えもアンネローゼを名乗る少女の一言で中断された。


「懸賞金は金貨1000枚のはずよね?10日もお風呂に入れずイライラしてるのよ、とっとと精算してくれない最上級の宿でゆっくりしたいんだけど」


 彼女の言葉には確かに苛立たしさが滲んでおり、もしこの場所で街への入場を拒否して暴れ出すような事態になれば、それは城門のすぐ側で魔神将アークデーモンより恐ろしい化物と戦う事になりかねず、その被害がどのくらいになるのかを計算すると軽く目眩を感じるほどであった。

 しかし、仮に無法者であり街中で暴れられた場合の損害は門前で暴れられる損害の数十倍に跳ね上がる事も想像できる、その場合の責任は町への入場を許可した自分に掛かって来る事が想定できるだけに、今日が緊急時の当番であった事を神に対し呪わずにはいられなかった。


「出自を言ってくれんか、街中で無法な事をされると困るのでな、せめてそれくらいは譲歩してくれないか?」


 単なる無法者であれば一蹴すれば済んだかもしれないが、魔神将アークデーモンほふる者を無碍に扱い暴れられたら何人死人が出るかたまったものではない、偽証であれば口実が出来、それなりに由緒がある人物なら報告にも一応の言い訳が成り立つ、ギリギリでの抵抗とも思える駆け引きであった。


「ルクス公国、レイル子爵家の娘よ、最も国も家も6年前にあっさり滅んだけどね」


 ルクス公国の名前には聞き覚えがあった、確かに6年ほど前に隣国に攻め滅ぼされた小国という記憶が朧気にあった、難を逃れるように国外に逃亡を計った貴族がいたとしても不思議はなく、その末路として掃除屋スイーパーに身をとしたとしても不思議ではなかった。


「身分を証明する物は何かあるか?」


 その回答代わりと言わんばかりに見事な装飾が施された短剣をマントの下から取り出して見せる、そこに彫られている紋章が証明だと言わんばかりに出したのだが、その紋章を見ても分かるはずもなかった、しかもどこかで拾った物である可能性もあり、とても証拠と言うには弱い物である事は明白であった。


「おい!報酬をキッチリ払ってやれ。その報酬を受け取ったら町でどうぞごゆっくりおくつろぎを」


 後方に待機し事の推移を窺っていたギルド職員は慌てたように金貨の詰まった袋を差し出してきたが、彼女はツイと視線を同行者のフフードの男へと投げかける。その視線の意味を察したギルド職員の男は慌てて男へと袋を差し出す。


「少ないのではないか?」


 その袋の中に1000枚の金貨が入っているようにはとても見えず、当然の疑問をアンネローゼは発した。


「申し訳ありません!1000枚をすぐに用意する事が出来ず、運搬にも難があるため、当座はこれでお許しください!宿泊先に間違いがないようにお届けいたしますのでどうかご勘弁を!」


 ごまかしようのない程少ないその量に対しギルド職員の男は平身低頭謝罪してきた。


「よい、しばらく逗留する、そう急がなくてもいいぞ」


 感謝の言葉を述べるギルド職員の男を尻目に町に入って行こうとすると、先ほどの騎士が呼び止めてきた。


「衛士を一名つけましょう、町の最も上等の宿にご案内した上でギルドに、何処どこに宿泊しているのかの届け出も出しておくように命じておきます」


「すまんな、では案内あないを頼む」


 衛士に目配せをすると、一人の衛士が進み出て挨拶を交わすと先導するかのように町へと入って行った。見送る騎士にしてもギルド職員にしても規格外としか思えないような掃除屋スイーパーの噂は時々聞くことがあるが、実際にそんな人物に会う事は初めてであり、その対応に苦慮してしまった。

 『このまま何事もなく過ごした後で、何事もなく立ち去ってくれるといいのだが』そんな事を考えずにはいられなかった。

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