第八話
明晰夢とは、自身が夢の中にいると認識出来ている夢の事である。
「…で、今は明晰夢って事でいいのかね」
「さあ?」
ぼやけた空間の中、俺はもう一人に問いかけていた。
俺の夢って、周りが茶色っぽい背景の事が多いんだよな。たまには白い夢も見てみたい。
これが夢だ、という事はなんとなくわかる。明晰夢らしく、その気になれば夢を自在に操る事も出来る。
だが、今、俺の前にいるのは俺の夢の産物ではない。
「六年ぶりか。クソ神様」
「口が悪いなあ。今日は君の入学のお祝いに来たっていうのに」
そこには、俺の転生に関わった、自称神様がいた。
「いやいや、本当に入学おめでとう。今日一日は君を見ていたけど、随分この世界に馴染んだみたいじゃない」
ぼんやりしたシルエットだが、なんとなく奴が笑っている気配は伝わってくる。
「ストーカーか変態野郎。幼女を視姦して楽しんでんじゃねぇよ」
わざとらしく奴はため息をついた。
「…本当にねえ、口が悪いなあ。幼女が君なんだから、仕方ないじゃないか。僕は変態じゃないよ?」
「人を勝手に性転換させて、その言い草か」
「君が望んだ事じゃん」
「はあ? んな訳ねえだろ。俺は歳上のお姉様といちゃラブ生活したいんだよ」
「…君のお母さんみたいな?」
「そう! うちのお母様は綺麗だよな! あのお母様の子供になれたのはちょっと感謝しても良いぜ!!」
目を輝かせてお母様の事を語り始めると、奴はまたもため息をついた。
「…人妻の上に血が繋がっている上に同性なんだけど…どっちが変態だか…」
「やかましい。それに性別はなんとかなる」
俺の発言を聞いて、奴が面白そうに笑った、気がする。
「へえ? そんな事出来るのかい」
「ふん。色々調べたからな。性別を変えるマジックアイテムが存在することは知ってる」
「へぇ~」
「ところでどうにも誤解されてるみたいだから、はっきりさせておきたい」
「あ?」
「六年前に君が転生する時、僕は聞いたよね? どんなチートが欲しい? って」
「ああ。だったらお前の渡せるチートは全部よこせって言ったよな? なのにステータスは開けないわ鑑定はないわアイテムボックスはないわ成長力20倍はないわ。ほとんど何にもよこさなかったな」
「そこがおかしい」
「は?」
「ちゃんと<生まれが貴族><魔法の才能有り><ダンジョンマスター><悪役令嬢><前世の記憶持ち><異世界人><勇者の素質><異性にモテる>とまあ、軽く並べてもこれだけチートしてるじゃないか」
…。
俺の思考がストップ高。
まてまてまて。
「いや…普通チートってそうじゃないだろ」
「え? ちゃんと君の世界の物語を読んで調べたよ? 物語の主人公は大体このうちのどれかを持って無双するじゃん」
…。
「何で<人気作品のキーワードから拾いました>みたいなラインナップなんだよぉぉぉぉぉ!!!」
違うだろ! 違うだろ!! 普通、才能とか加護とかスキルとか、有用な物を苦労せず持つのがチートだろ!!!
何で、日刊ランキング狙いました☆、みたいな物ばっかり集めてくるんだよぉぉぉぉぉ!!!
「…間違っちゃった?」
「死にさらせこのクソ野郎がぁぁぁぁぁ!!!」
辺りに俺の叫びが轟いたのであった…。