第三話
「え?」
アン は こんらん している!!
…まあそりゃそうだな。
友達になったと思ったら急に下僕宣言。六歳の子供には訳がわからんだろう。
しかしこれには理由があるのだ。
何故ならば俺は悪役令嬢! 主人公の女の子をいじめるのが存在意義なのだ!!
…というのは冗談だが。
そもそも主人公が誰か知らないしな。自分がライバルキャラってのは、有名キャラであるガルド父様のおかげで知っているが、他の知識は曖昧だ。
俺の知ってるゲーム世界への転生する話は、大体が詳しく知ってる世界に転生するんだけどなあ。半端な知識しかないゲーム転生とか、物語として間違ってると思うんだ。
つくづく、俺を転生させたのはクソ神様だな!
「あ、あの…」
おっと、余計な事を考えてアンをおろそかにしちまったぜ。
「あのね、アン。あなたの事をいじめる人がいるかもしれないの。そんなとき、私と一緒だと心強いでしょ? だからアンは私の下僕になるの。どう?」
「そうなんだー。わかった。下僕になる」
素直な子だぜ。チョロい。
まあ事実、貴族ばかりのこの学園で、明らかに平民とわかる格好のアンは浮いてしまうだろう。他人からいじめられる位なら、いっそのこと俺の下僕と周りに言った方が問題は無いんじゃないか。
「アン、売店で焼きそばパンとコーヒー買ってきて。秒で」
「うん!」
…冗談だからな、アン。
純朴なアンをからかいつつ、俺達は案内にしたがって校内を進んだ。
さすが、貴族ばかりの学園だけあって、壁や天井に金がかかっているのが伺える。
やたら黒くて艶々した石だの、さりげなく飾られたよくわからん絵画だの、そういった物が魔法の光でわずかに照らされているのだ。昼間だと言うのにわざわざ光の魔法を使うとか、無駄な事をするぜ、まったく。
教室につくと、見知った顔が何人か話しかけてきた。
「アレイシア様、おはようございます」
「おはようございます」
こちらもにこやかに挨拶を返す。
貴族のパーティーで何回か会っただけの子達だな。
「リル、お友だち?」
小声でアンが問いかけてくる。
「ええ。紹介しますわね」
子爵家の令嬢やら侯爵の令嬢やらをアンに紹介する。
正直に言うと、友達とは思ってないんだけどね~。見た目は悪くないんだけどね、なんだろう、演技の下手な子役がバラエティー番組で媚びてる気配というか…とにかく雰囲気が好きじゃ無いんだよな。見た目は悪くないんだけど。
今も、アンの事を「なんだコイツ」と言わんばかりの目で見てくる。
なので、俺はそいつらにそっと囁く。
「アンは私の物ですので、傷つけられてしまっては、私、悲しいですわ。
手を出したら、怒りますわよ?」
子供とはいえある程度の分別がつくように教育されているのだろう。ちょっとした威圧の前には素直になってくれたようだ。涙目でうなずいてる。
コワクナイヨー。
と、そんな挨拶をかわしていると、急に教室の雰囲気が変わった。
何事かと周りを見れば、すぐに理由がわかった。
アレックス・イース・オルタ・エンデルク。
この国の第一王位継承者が入って来たのだった。