第二話
さて、いま俺は馬車に乗って学校へ向かっている。
貴族ともなれば歩きなどせず、送り迎えは馬車というのが普通らしい。
車で学校に行くようなもんだろ? 権力ってのは凄いね。
ちなみにその学校だが、王立ラディアーノ学園と言って、学生のほとんどが貴族であり、また、魔法の教育に力を入れているという特色をもつ。
魔法。そう、魔法だ。
父様は魔法剣士と前にも言ったが、このゲームの世界にはやはり魔法がある。
ゲームらしい攻撃魔法はもちろん、生活の中でも便利な、ちょっとした火種や水を生み出したり、死者は生き返らせられないにしても治癒の魔法があったり。
魔法はどうやら遺伝的な要素が強いらしく、使える人間は限られているんだとさ。つまり、魔法が使えるという事はステータスになる。
俺? もちろん素質はかなり高いぞ。貴族は魔法使いの血を家系に取り込むことに熱心だしな。父様はもちろん、母様の家系でも魔法使いの血は受け継がれてる。
まあ使う方はまだまだだけどね。
それはこれから学校で習えば良いだけだ。
「母様、あの方も学生でしょうか?」
俺は前方にいる徒歩の子を見つけて、尋ねてみた。
「そうね~制服は一緒だし、そうじゃないかしら。リルちゃんと同い年かしらね~」
ふうん。徒歩で学園に向かう生徒か…。
「父様。あの子を馬車に乗せたいの。いいですよね」
一応、確認。公爵ともなれば本来は友達も選んだ方が良いのだろう。同じ馬車に乗ったとなれば色々と周りが煩い可能性も高いのだが…。
「リルがそういうなら、構わないよ」
おおらかな父様は簡単に許可をくれたのだった。
「そちらのかた。私はアレイシア・リル・レオンフィールドと申します。ラディアーノ学園の新入生です。少しよろしいでしょうか?」
馬車を学生の子の横につけさせ、呼びかける。
「え? 私?」
「はい。差し出がましいかもしれませんが、もしよろしければ、ご一緒に学園までいかがかと思いまして」
じっと見つめる。
赤毛にソバカスの、素朴な感じの幼女だ。まあ、俺も同じく六歳の幼女だけどね。
「え…でも…」
「ここで会ったのも何かの縁。よければ娘と仲良くしてくれないかな」
遠慮する幼女に、父様から援護射撃が入った。格好いい父様にモジモジとしていたが、やがて幼女も乗り込んで来た。
イケメンは幼女も落とすのか。ケッ。
「ありがとうございます。私はアン。アン・ホワイトです」
「気になさらないで。ねえ、アンと呼んでもいいかしら? 私はリルと呼んでちょうだい」
「あ…うん。よろしくね、リル」
ふむ。決して美人ではないが、はにかんだ表情は悪くないな。
そうこうしている内に学園に着くのだった。
「じゃあリル、また後でね」
「式場にいるわね、リルちゃん~」
馬車を降り、両親と一旦別れ、後には俺達二人が残るのであった。
さて…と。
「ねえ、アン」
「なあに、リル?」
俺はうっすら笑いながら、アンに告げた。
「あなた、私の下僕にならない?」