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衣装とマキちゃんとエリオ

 パソコン室からラップトップが届いたので5部の役者全員でそれぞれのダメ出しをしていく。リアと僕以外の全員が『声量不足』『不明瞭な発音』『曖昧なセリフ』を課題としていたので、とにかくまずは声に出しておぼえる事を最優先とした。


 全員が一カ所で大声を出すと大変な事になるので、皆にはリアに教えたのと同じ発声法を教えた上で、劇場周辺の森や広場に散って練習してもらう。一方残ったリアと僕は更なる研鑽を目指し自分たちの演技を食い入るように見つめていた。


「シュウはいつもよりだいぶ早口になってますよね。緊張してたんですか?」

「多少は緊張してたけど、それで早口になるほど未熟じゃないよ。授業が終わるチャイムが遠くで聞こえたからテンポアップしたんだ」

「私は緊張でチャイムが鳴ったのにも気付きませんでした……」

「そりゃあ初めての舞台で、こんなちゃんとしたセットや衣装があったら緊張するよね」


 リアの衣装はこの学校の正規学生の劇団が着用する見事なものだった。パメラに連れていかれた倉庫には大学設立当初からの衣装があるらしく、古いものだと100年近くの歴史があるらしい。


 そんな歴史の中でもロミオとジュリエットは人気演目なので衣装は豊富に揃っていた……女性ものだけは。ロミオの衣装は基本的に『男装用』なので、肩パットが窮屈だったり、ズボンが女物だったりしたので、僕は本番までに衣装直しをするはめになってしまった。


「そういえばこの衣装、いつ返せばいいんでしょうか?」


 他の班は自分たちの出番が終わったらさっさと着替えを済ませていたが、僕たちだけは終わりしだい即反省会だったので衣装を着替えられずにいる。


「パメラ、この衣装どうすればいいの?」

「別に倉庫に置いといても良いし、直しが必要なら持って帰ってもいいよ!」


 なんて杜撰ずさんな管理だろう。いや、それだけパメラが僕たちを信用してくれてると思っておくか。


「僕は肩パット抜いて、下は持ち合わせのズボンを合わせようと思うけど、リアはどうする?」

「そうですねぇ、ウエストが余ってしまってるのでつまんでひだを作ろうかと」

「へぇ!意外に家庭的な一面もあるんだね」

「え?あ、そうですか?はぁ……」


 なんかリアの挙動がおかしいな。あ、女の子に『意外に家庭的』って少し失礼だったかも?


「ご、ごめ——」

「正直に言いますと、私は繕い物とかそういう細かい事が苦手なので、マキちゃんに協力してもらえないかと思ってます」

「ああ!」


 なるほど、それなら納得だ!


「……なんですか、その『納得した!』って顔。たしかに私はお裁縫とかできませんけど、シュウはまたデリカシーが不足してきたんじゃありません?」

「う、ごめん。ただマキちゃんなら絶対そういうの上手いだろうなと思ってさ。ほら、折り紙をさっとブローチにしちゃうセンスとかすごくよかったし」

「ですよね!私が男だったら絶対マキちゃんを嫁にもらいます」


 その発言をマキちゃんが聞いたら発狂して喜びそうだな……。いや、マキちゃんとしてはリアを嫁にもらいたいのかな?そのへんどう思ってるんだろう。


「そうだ、せっかくですから、このまま衣装を見せにいきませんか?」

「マキちゃんに?いいね、行ってみようか」




 リアがマキちゃんに連絡するとすぐ来て欲しいとのことだったので、スクールバスに乗り急いで寮に帰る。運転手のおっちゃんにまじまじと衣装を見られたけど気にしない。


 談話室にいるとの事だったので外から直接談話室へと向かう階段を降りる。レディーファーストなので僕が扉を開けておき、その間にリアが中へ入る。アメリカに来て3ヶ月、ようやくこの動作を自然にこなせるようになってきた。


 僕たちが中に入った瞬間、マキちゃんが泣きそうな顔でこちらに向かってきた。


「リアさん助けてください!」


 そう言いながらリアに抱きつくマキちゃん。リアは普段マキちゃんが見せない表情に面食らっておろおろしながらマキちゃんの背中をさすっている。


「どうしたんですか?おちついて、ね」

「ウウ……イタリア人がしつこすぎて……何を言っても離れてくれないんです!」


 その言葉に談話室を見渡してみればエリオがマキちゃんの少し後ろでニコニコとしており、逆にニコラがソファーでぐったりとしている。


「とりあえず、まずはみんな座ろうよ。落ちついて話そう」

「なんだ、あんたいたの?」


 いたよ!失礼な。ジュリエット姿のリアしか目に入ってなかったんだろうね、わかります。




 談話室に備え付きの自販機で飲み物を買い一息つくと、ニコラが事情を説明してくれた。どうやら授業見学をしていった家族が『マキに会いたい!』というエリオをニコラに任せて観光に行ってしまったらしい。そして歌のクラスが終わってから1時間以上、ニコラはずっとエリオとマキちゃんの通訳をしてたとのこと。お疲れさま。


 リアがエリオに話しかけている間に僕はこそっとマキちゃんに話しかける。


「ねえ、なんで自分がレズだってこと言わないの?そうすれば一発で黙るんじゃない?」

「はあ!?何言ってるの?こんな小さい子相手にそんなこと言えるわけないじゃない。あと私はレズじゃなくてリアさんが好きなだけだから」

「じゃあ単に『好きな人がいるから付き合えない』って言えば?」


 って、僕は何で親身にアドバイスしてるんだろう。むしろマキちゃんが誰かとくっついてくれたら大助かりじゃないか。


「あんたは自分を好きだって言ってくれる子供を傷つけても平気なのかもしれないけど、私はそうじゃないの!」

「それならもう付き合っちゃえばいいよ。5歳差カップルがありなんだから、9歳差だって平気平気」

「そんなことできるわけないでしょ!」


 僕たちが言い争っていたらエリオが何かわめいてきた。それをニコラが疲れた顔で通訳してくれる。


「『お前はマキの何なんだ』って言ってるよ」


 恋のライバルですが何か問題でも?


「マキちゃん、なんて答えようか?」

「……そうだ。あんた私の恋人のフリしてよ。私からフるよりダメージが少なくていいんじゃない?」


 いや、それダメージ少ないのマキちゃんだけですから!好きな人に彼氏がいるのって想像以上にキツいからね!経験者が言うんだから間違いない。


「恋人のフリしてくれたらカフェテリアのディナーおごってあげるから!」


……


「ヘイ、エリオ!マキは俺の女だ。これ以上彼女を困らせるんじゃない」

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