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告白事情

 僕の再度の連絡により、エリオはニコラたちに無事回収された。

 マキちゃんの隣に座って家族を待っていたエリオは、何がそんなに不満なのか、こっちのクラスまで聞こえる大声で何かわめいている。イタリア語なので僕には何を言ってるかさっぱりだが、僕の後ろの席に座ってる女の子が声に耳を傾けながニヤニヤしているので声をかけてみる。


「何言ってるかわかるの?」

「だいたいね」

「へえ、なんて?」

「『彼女は僕の人生なんだ』とか『僕の愛は人種の壁を越える』とか」

「はぁ?」


 女の子みたいなナリして何言ってんだあのガキ。いいぞもっとやれ!


「この男の子の好きな相手って誰なの?」

「マキだよ。君は知ってるっけ?」

「ああ、マキか。最近なんか話しかけやすくなったよね」


 彼女の話によると、マキちゃんは会話カンバセーションのクラスでこれまですぐに黙り込んじゃっていたのが、最近では自分から踏み込んでいろいろ言えるようになってきたらしい。きっとニコラと友達になれた事や、トーフルを頑張ってきた事が、マキちゃんの会話力にいい影響を与えているんだろう。家庭教師役を買った甲斐があるってもんだ。


「そういえば君ってイタリア語わかるんだね、すごいじゃん」

「ありがと。私、母国語がスペイン語だから、会話しようと思えばイタリア人ともけっこう普通に話せるのよ」

「へぇ〜。日本でいったら方言みたいなものなのかな。大学に行ったらスペイン語かイタリア語をとってみるのも面白そうだ」

「あなたたち、今は会話カンバセーションじゃなくて文法グラマーの授業ですよ」


 盛り上がっていたらリアに注意されてしまった。ここのところ英語での会話が楽しくて、ついついおしゃべりになってしまう。ホワイト教授にも「おぼえた事を話したくて仕方がない子供のようだ」と言われてたっけ。反省反省。




 授業を終えてリアとカフェテリアに向かうとニコラ、ケイ、そしてマキちゃんの3人が一緒に座っていたので僕たちもそこに混ぜてもらった。


「師匠、モテモテですね」

「うるさい黙れ!」

「うわあ、そっちのクラスにまで聞こえてたんだ。恥ずかしい……」


 そんなに恥ずかしかったのかニコラが机につっぷす。僕に置き換えたら、姉が突然やって来てケイに告白するようなものかな。うん、それは恥ずか死ぬね。


「おまえにはあのイタリア語がわかったのか?俺にはさっぱりだったよ」


 ニコラにイタリア語を教えてもらっているケイも、さすがにあの告白はまだ理解できなかったようだ。


「僕にもさっぱりだったよ。クラスにスペイン語を話す子がいて、その子が通訳してくれたんだ」

「あー。私もスペイン語は何となくわかるから、その逆かぁ。弟の痴態が他のクラスにまで……うぅっ」


 ぷるぷる震えながら恥ずかしがるニコラはかわいいなぁ。見ていてとても癒される。リアも同じように感じているのかニヤニヤ笑顔でニコラを眺めている。


「それにしても、エリモはよくひとりで学校まで来れたね」

「エリ“オ”ね。電車とバスを乗り継いで、警備の手薄な森の抜け道を通ってきたんだって」

「10歳の少年にそこまでさせちゃうなんて、マキちゃんは罪作りですねぇ」

「ちょ、リアさん!?」


 そういえば朝エリオがいた場所ってマキちゃんの部屋が覗ける場所のような気が……。ハハハ、まさかね。


「それにしても『マキは僕の人生だ』とか『愛は人種の壁を越える』だとか、エリオはすごい事いうね。イタリアでは普通なの?」

「あれを普通って言うのはちょっと嫌だけど、うちの男連中はみんなあんな感じかも」

「え、あの寡黙なお兄さんもですか?」

「あれは寡黙なんじゃないよ。単に英語が話せないだけ。イタリアに帰ったら愛の言葉をささやきまくってるんだから」


 ふう、リカルドが英語話せなくてよかった。なんかアイツのリアを見る目が、獲物を狙うハンターのそれに見えたんだよね。あんな正統派イケメンに本気を出されたら誰もがコロっといっちゃいそうで怖い。


「今まではそんな家族に結構嫌気がさしてたんだけど……、そういう言葉を言ってもらえないのも結構辛いんだって最近気付いたよ」


 あれあれニコラさん?それはひょっとしなくてもケイに対する不満ですね?


「おい、ケイ。おまえなにやってんだよ」

「え!?俺さりげなくニコラを褒めたり、けっこう頑張ってるんだけど……」

「そんなのケイは私のボーイフレンドなんだから当然でしょ?私はもっとケイに必要とされたいの。愛してるって言われたいの!」


 さっきまで弟の告白を恥ずかしがってた子が何を言っているんだ!ニコラもいま相当恥ずかしいこと言ってるからね!


「私まだケイに1度しか愛してるって言ってもらってないよ」

「ちょ、ニコラ」

「へ〜それはいつ言ってもらったんですか?」


 リアの食いつきハンパないな。ものすごく楽しそうな笑顔がなんだか少し怖い。


「私たちが初めてキスしたときだよ」

「あーーーーわーーーーやめてくれニコラ!」

「じゃあ愛してるって言ってくれる?」

「言う、言うよ!2人きりになったらね」

「うん、わかった。楽しみにしてるね」


 ……くそ、なんだよこいつら。末代まで祝ってやろうか?


「そういえばシュウ、知ってます?」

「何を?」

「アメリカでは日本みたいに告白して付き合うという習慣がないらしいですよ」

「え?告白もせずにどうやってカップルになるの?」

「デートしたり一緒に食事をしてるうちに自然と……って事らしいですけど」

「へぇ、そうなんだ——」


 ん?あれ?なんでリアはそんなこと言うんだ?

 ひょっとしてそれは「告白はしてませんけど、私たちもう付き合ってるも同然ですよね」ってこと!?え、そういうこと?


 あ、それとも「日本人なんだからちゃんと告白してくださいね」ってことかな!?うはは。


 いや、まてよ……ひょっとして「告白する習慣がないんですから、あなたも告白しないでくださいね」っていう、遠回りなお断りの一言だったりする!?そんなのやだ!


 僕は一体どうするべきなんだああああ!?

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