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マキちゃんの告白

 翌朝、リア様とトーフルの勉強をするために図書館へと森の小径を歩いていると、マキちゃんに突然呼び止められた。


「ちょっと加納くん」

「おはよう、マ、高橋さん」


 おもいっきり噛んでしまった。これじゃあ僕がマキちゃんを怖がってるみたいじゃないか!……まあ、実際今でも少し怖いんだけど。でも一緒に食事をしてからはずいぶん打ち解けたと思うんだ。


「昨日はリアさんを1日中連れ回してくれたようでありがとうございます!」


 うわぁ、なんだか朝からすっかりキレてらっしゃる……。そんなに眉根に皺を寄せたらせっかくのカワイイ顔が台無しだよ?なんとか矛を収めてもらえないだろうか。


「その……トーフルの勉強を見てあげててさ」

「それだけじゃないですよね?昨日は遅くまで舞台の上でリアさんと……」


 マキちゃんがわなわなと震えている!手に力が入って爪がてのひらに刺さるのもおかまいなしだ。あっ!ひょっとしてお互いを本名で呼びあう、アノこっ恥ずかしい稽古を見られていたのか!?


「あれは誤解だよ!あれは、ほら、お互いの事を本名で呼ぶ練習法でね——」

「そんなことはリアさんから聞いてます!」


 よかった、誤解されてるわけではないようだ。ん?じゃあマキちゃんはなんでこんなに怒ってるんだ?


「加納くんは……リアさんの事どう思ってるんですか!?」


 ぼ、僕がリア様をどう思っているかだって!?


「リアさんは……自分の意思をもってて、それを最後まで貫き通せる立派なひとだと思うよ」


 うん、当たり障りのない答え方ができたんじゃないかな。ところがこのセリフが火に油を注いでしまったらしい。


「そういう事を訊いてるんじゃなくてですね!加納くんはリアさんの事、異性としてどう思ってるんですか!?」


 マキちゃんのひたいに浮かぶ血管は今にもぶち切れんばかりだ。どうして彼女は僕にこんな質問をするんだろう?ひょっとして舞台での事をやっぱり誤解してるのかな?


「だから舞台での事は誤解でね?」

「舞台での事なんて訊いてません!日常生活に置いてです。あなたはリアさんが好きとかそういうことはないんですよね!?」


 鬼気迫る表情でマキちゃんが迫ってくる。


「加納くんは高岡先輩が好きなんですよね?そうですよね!?」


 そういいながら僕の肩を揺するマキちゃんの目からは涙がこぼれ落ちている。


「ひょっとして高橋さんはリアさんの事が好きなの?」

「わ、私の事は今関係ないでしょ!問題なのは!あんたが!今!リアさんをどう思ってるかよ!」


 びっくりマークの度にマキちゃんが僕の肩を前後にぐわんぐわんとゆらしてくる。どうやら図星をついてしまったようだ。


 それにしてもどうしよう。僕はマキちゃんにリア様への思いを正直に話すべきだろうか?いや、リア様にはいずれ僕の口から直接気持ちを伝えたい!マキちゃんからリア様に僕の思いが伝わる……のも悪くないかもしれないけど、ここはなんとかごまかすとしよう。


「僕はリアさんの事が……好き……かもしれない」

「なによそのはっきりしない物言いは!?好きなら好きだってはっきり告白しなさいよ!加納くんは好きだって伝える事ができるんだから!」


 それって『自分は打ち明けることができない恋をしている』って言っちゃってない?怒りに任せて感情だだ漏れだよマキちゃん!


「今は伝えられないんだよ!その、今の僕はロミオとジュリエットの台本に引きずられてて……」

「は?どういうこと?」

「えっと……僕が本気で演技をする時はそのキャラになりきってるから、ロミオである僕はジュリエットであるリアさんが大好きなんだよ。でも、その……この気持ちも、舞台が終わったらそれまでかもしれないよね?」

「……つまりは自分の気持ちがわからないから告白できないと?」

「そういうことです」


 あまりの迫力に敬語になってしまった。これでなんとかごまかせるといいんだけど……


「ふざけんな!いっぺん死んでこい!!」


 肩にかかっていたマキちゃんの手が僕のネクタイをつかんだその瞬間、世界が縦回転し、僕は地面の上に叩き付けられた!衝撃で呼吸がうまくできない。


「あんたなんかを好きになった人に申し訳ないと思わないの!?」


 そう言い捨てるとマキちゃんは泣きながら小径の出口へとかけていった。


 数秒後、呼吸が落ち着いてきた所であらためてマキちゃんが言った事について考えてみる。『あんたなんかを好きになった人に申し訳ないと思わないのか』……それって……ひょっとしなくてもリア様のことだよね?


 つまり言い直すなら『リア様はあんたの事が好きなのに、そんな曖昧な態度で申し訳ないと思わないの!?』ってことだよね……


 ええっ?それってつまり、本当に、お芝居の中の話じゃなく……僕とリア様が両思いってこと!?


「マジかよ……」


 それ以上何も言えなくなった僕は、投げられた体勢のまま雲ひとつない夏空に吸い込まれていった。

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