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オーディション

 月曜日、今日はロミオとジュリエットのオーディション当日だ。


 僕はリア様との約束のもとロミオ役にエントリーしていた。ライバルは様々な国からやってきている4人の男たち。どいつもこいつも自信にあふれた顔つきをしている。落ち着け、僕。昨日あれだけ練習したんだ。他の奴らに負けるもんか!



 結果から言うと僕はロミオ役に合格した!そして他の4人も合格した。


「発表まで1ヶ月もないからね!一人で全部やりきれるわけないだろう?1部から5部までキャストを換えながらやっていくからね。どこかやりたいシーンがあれば希望に添う形で配役してあげるよ!」


 その言葉に全員が庭からジュリエットを口説き落とす名シーンを希望した。おまえらどれだけ自信家なんだよ。僕はリア様が心中シーンを見たいと言ってたので第5部を選んだらあっさりと通ってしまった。


「わたしもラストはシュウに任せようと思ってたんだよ!とびっきり泣かせる話にしておくれ」


 パメラが嬉しそうに心中ロミオを任せてきた。なぜ誰も彼も僕にこのシーンをやらせたがるの!?


「このあとはジュリエットのオーディションだよ!さあ、さっさと場所をあけな!」


 舞台袖に引っ込むと緊張した面持ちのリアがいた。大きな声を出す雰囲気じゃなかったので、耳元でそっと「リアならできるよ」と言うだけにとどめておいた。


 劇場の外で5部の稽古をしながら待っていると、オーディションを終えたリア様がやってきた。


「シュウ、私も合格しましたよ!といっても立候補した全員が受かったんですが」

「女子もおんなじだったんだね」

「シュウは何部をやることになりましたか?」

「5部だよ。他の男子がみんな庭に侵入してジュリエットを落とすシーンを希望してたから簡単に決まったよ」

「その言い方ではロミオがジュリエットをベランダから突き落としてるようじゃありませんか」

「サスペンス物に早変わりだねー」

「はぁ。この劇にふさわしいロマンチックな言い方はできませんの?」


 あきれ顔をしてみせるリア様だけどどことなく楽しげだから別に怒ってるわけではないのだろう。


「リアは何部をやることになったの?」

「もちろん私も第5部です!シュウなら私の意を酌んでくれると思ってました!」


 ひょっとしてリア様がさっきから嬉しげなのって僕と同じシーンを演じられるからかな?僕の都合のいいように考えすぎ?


「他の組に完成度でおもいっきり差をつけられるようがんばろう!」

「もちろんです!……あ」


 ん?なんですか、その『あ』って


「よく考えたらあのシーンってロミオのセリフの時は私が仮死状態で……」

「ジュリエットが死んだと思った僕は後追い自殺しちゃうから……」

「掛け合いがありませんね」

「そうだね……」


 まさかこんな落とし穴があったなんて!

 変な空気になる前にここは強引にでも話題をそらしてしまおう。


「そういえばリアは台本もらう前から僕の心中シーンが見たいとか言ってたよね。お嬢様方はやっぱりこういう作品詳しいの?」

「そういうわけではありませんよ。私が個人的にロミオとジュリエットが好きなだけです」


 リア様ならロミオとジュリエットよりリア王の方がお似合いだよなんて、思ったとしても口にしない分別がやっと僕にも身に付いた。デリカシーデリカシー。


「何か好きになったきっかけでもあるの?」

「きっかけですか?……やはりジュリエットが自分の家に逆らう所ですね!」

「なるほど、リアは君自身ををジュリエットに重ねてるんだね」

「ええ、そうかもしれません」


 家に縛られ好きなひとと添い遂げられないジュリエット。そして同じように家に縛られ未来を奪われたお嬢様、か。


「それじゃあ僕はジュリエットの反逆に力をお貸しますよ」

「ええ、よろしくおねがいしますね、ロミオ様」


 この日から僕たちはトーフルの授業中は2人でトーフル対策をし、他の授業ではいつも通りに振る舞った。要はお互い知らんぷりである。僕から女子のリーダーであるリア様に話しかけるのは恐れ多かったし、リア様から僕に話しかけるのは周りの空気が許してくれないだろう。


 おおやけには仲が好い事を公表できないなんてまるでロミオとジュリエットみたいじゃないか。この感覚を舞台に活かせれば……と思ったけど、そのシーンは他の奴らがやるんだよな。せいぜい僕たちの前座として恥ずかしくない演技をしてくれよな!


 演劇の授業が終われば放課後なので、2人で舞台に残り練習を重ねた。


「英語だとなぜか白々しい感じになってしまいません?」

「英語に気持ちを混めるのって難しいよね」

「どうしたらうまくなるでしょう?」

「そうだな……。じゃあ台本の『ロミオ』を『シュウ』に換えてやってみなよ」

「ええっ!?そんな恥ずかしい事できませんわ!」


 そこまで拒否しなくてもいいじゃないか……。


「恥ずかしいって言うけど、本物のジュリエットはそのセリフを恥ずかしげも無く言うんだからね」

「そうですけど……私を恥ずかしがらせるためにこんなことやらせてるんじゃないでしょうね?」


 なんと失敬な。


「言っとくけどこれもちゃんとした演劇の練習方法だからね。恋愛ものやるときはとくにこの練習が活きてくるんだよ」


 まあ、高校生がやると途端にみんな恥ずかしがって初日は稽古にならなかったりするんだけどさ。


「わかりました。それではシュウもジュリエットの所は私の名前で呼んでくださいね」


 え、僕も?僕にはその練習は必要ないんじゃないかなー。


「私だけやるなんて不公平じゃありませんか」


 出たよ、リア様の挑発的な微笑み。こんな表情をされたらやらざるを得ないじゃないか!

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