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マキちゃんと晩ご飯

リア様が部屋に帰ると高橋さんが主人を見つけた迷子の仔犬のようにうれしそうな声で「おかえりなさい」と出迎えた。


リア様がいなくてそんなに寂しかったのか。今日1日独占しちゃってごめんね。


僕がそんな事を思ってるなんてつゆほども知らない高橋さんは、僕に気付いた瞬間迷子の仔犬から侵入者を警戒するドーベルマンへと変貌した。


「あ、あの、高橋さん……」

「……なんですか?」


うへぇ、怖い。なんでデフォルトの目つきが『睨む』なんだろう。パーティーの時彼女の目が大きく見えたのはメイクのおかげのみでなく普段の目つきのせいもあるに違いない。


「用が無いなら出てってもらえます?」

「今日僕とニコラで簡単な晩ご飯を作るんだけど……」

「それで?」

「なんていうか、その……高橋さんも一緒にどう?」

「え?何で私が?」


ですよねー。


「マキちゃん、その晩ご飯に私も招待されてるの。だからいっしょにどうですか?」

「リアさんも行くんですか?……でも、私なんかが行ったら空気が悪くなりますよ」


高橋さんってマキちゃんって言うのか。それでマキちゃんはなんでそんなに自虐的なんだろう?


「加納くんもニコラって子も私の事嫌ってますよね?それなのにのこのこ出て行ったりしたらせっかくの晩ご飯がまずくなっちゃいますよ。ですから私の事は放っておいてリアさんだけで食べてきてください」

「……マキちゃんまだ加納くんにお礼を言ってないそうですね」

「どうして今その事を!?」


慌てるマキちゃんだったがなんとかその場を取りつくろうと僕を睨む。とりあえずで睨むのやめてもらえないかなぁ。


「マキちゃん、これを機にちゃんと話し合ったら?」

「……リアさんがそう言うなら」


さすがはリア様!


「そ、それじゃあ僕はこれから談話室でニコラと料理を作ってくるから。完成したら電話するね。それじゃ!」


僕はマキちゃんの視線から逃げ出すように談話室へと降りていった。




1時間後、料理が完成したのでケイ、リア様、そしてマキちゃんを呼んだ。


「お招きいただきありがとうございます」

「……ます」

「オ〜マキ〜、今日は来てくれてありがとう!」

「えっと……ユアウェルカム」


あれ?ひょっとしてマキちゃん英語喋るの苦手なのかな。なんとなくそれを察したであろうニコラが少しゆっくり話しかける。


「今日は私の故郷の料理と、日本風のパスタを用意したから楽しんでいってね」

「お、オッケー」


ちょっとたどたどしいけどつかみはオッケー。マキちゃんには存分に楽しんでいってもらいましょう。


「まずはこのスープをどうぞ」


僕が紙コップによそったスープをニコラが全員に配る。


「おお、うまい!」

「もうケイったら、まだ召し上がれって言ってないでしょ!」

「あ、ごめん」


すっかりかかあ天下だな。でもどちらも幸せそうな顔してるからこんなやりとりにも幸せを感じているんだろう。


「それでは召し上がれ」

「いただきまーす」


うん、野菜の味がしみじみおいしいスープだなぁ。


「ニコラ、ひょっとしてこれはミネストローネですか?」

「よく知ってるねリア。そうだよ、私の故郷のスープなんだ」


リア様が知ってた事が嬉しいのかニコラ嬉しそうに答える。


「日本で言ったらみそ汁みたいなものかな?」


ケイが会話に加わって行くがニコラがみそ汁を知らなかったのでうまく流れにのれなかった。ドンマイ。


一方マキちゃんはどうしてるかと見ると静かにスープをすすっている。

やはり全員が英語を話す空間になじめないのだろうか。


そんなマキちゃんを見て少し気まずそうにリア様が日本語で話をふる。


「あ、このミネストローネ、お米が入ってますよ!」

「ホントですね。これは私たちが日本人だからこうしてくれてるんでしょうか?」


その疑問をリア様が英語にしてニコラに訊く。これじゃあリア様は通訳じゃないか。このままじゃマキちゃんのためにならないんじゃない?


「ハハハ。別にみんなが日本人だからお米を使ったってわけじゃないよ。私の故郷ではパスタの代わりにこうやってお米を入れるんだ」


ニコラがマキちゃんにもわかりやすいよう心がけて喋っている。この温かい心遣いちゃんと届いてるかなぁ。

 

「私の故郷はお米がいっぱい取れるところでね、この他にもリゾットにして食べたりするんだよ」

「あ…………私、リゾット好きです」


おお、マキちゃんが喋った!ニコラの気持ちが通じたかな。


「それじゃあ今度はマキのためにリゾット作ってあげるよ!」

「え、えーっと……ありがとう」


ハハハ。ニコラの物怖じしない態度にマキちゃんたじたじだなぁ。ありがとうって言っちゃったからにはニコラは絶対リゾット作りにいくよ。


「ちなみにこのお米はケイが提供してくれたんだよ」

「え?桜井君も料理するんですか?」

「まあね。カレーライスとか簡単な物なら……」


このまえ作れるようになったもんね〜。



「さあ、お次は4種類のパスタだよ〜」


僕とニコラで手分けして4枚の皿をテーブルに運ぶ。


「すごいな。この短時間に4種類も作ったのか?」


僕の持ってきたパスタにケイが敬意を示している。カレーを作るのにものすごく苦労したからこそのこの反応なんだろう。


「作ったって言ってもものすごく簡単なんだよ。茹でたスパゲッティにこの袋に入ったソースを絡めるだけでいいんだから」


僕が見せたのは今日チェリーマートで買ってきた、日本製の和えるだけで簡単にパスタができるソースだ。ホントは僕のこれからの晩ご飯になる予定だったんだけど、せっかくマキちゃんも来てくれてるんだから大盤振る舞いだ!


「なんだよ、じゃあシュウはスパゲッティを混ぜるだけしかしなかったのか?」

「失礼な!さっきのミネストローネの野菜を刻んだのも僕だって」

「シュウの包丁さばきはすごいんだよ〜。きっと将来はいい旦那さんになるね」


ありがとうニコラ。きっとそれは僕の事をリア様にアピールしてるんだよね。でもリア様はマキちゃんと話すのに夢中だし、そのうえケイが嫉妬して僕の事を睨んでるからもうやめて!

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