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露天商値切り対決

リア様に荷物を持つよと言ったら何のためらいも無く渡してきた。真由子さんの時のように持たせてくれないのも悲しいが、躊躇なく渡されるのも少し悲しい物がある。まあきっとこれが男性に恥をかかせない上流階級の女性のマナーなんだろう。そう思って僕は荷物持ちに徹することにした。


次々と高級ブランドに入っていくリア様だけど、ほんとにそれらは必要な物だろうか。たしかにブランド品は所持する事によりそのブランドの格に自分を引き上げる

効果があるんじゃないかと僕は思う。


実際今僕が着てるスーツはたいしたブランドじゃないが、それでも多くの人に褒めてもらえたのでその賛辞に見合うだけの行動をしようと、このスーツを着ている時は思えるんだ。


しかしリア様は彼女自身がすでにブランドのような物だから、じゃらじゃらとブランドで着飾るのはその魅力を損なうだけじゃないかい?


なんてね。心の中で思ってるだけなんだけどね。こんなことを本人の前で言う勇気、僕にはない。



「どうです?このワンピース似合うでしょうか?」


試着室から出てきたリア様が僕に問う。もちろんとても似合っている。似合っているけど……


「似合ってるけど、僕はジムにいるときのああいう格好が好きだな」


……ぎゃあああ。本音がぼろっと出てしまった!白いワンピースなんて着てるから、白い毛並のロンを思い出して素直になりすぎたようだ。


「あのジャージの事ですか?」


リア様がいぶかしげに尋ねてくる。そうです。そのジャージの事です。ああいう着飾らない格好の方があなたの魅力が引き立つと思うんです。それにリア様のジャージ姿は努力の象徴のようにも感じれて、とても美しいのです。


英語で会話していたらきっとこんなこともすらすら言えただろう。しかし一旦恥ずかしいと思ってしまうと、日本語では何も言えなくなってしまった。


「あのジャージならすぐそこのお店で買った物ですよ。よかったら見に行ってみますか?」


なんとあのジャージもブランド物だったのか。これじゃあ努力してる姿が一番美しく見えるなんて言葉も少しむなしく響きそうだ。


さっそくそのお店に移動するとリア様が様々なスポーツウェアを選び試着室に入っていった。僕はその間やる事もないので店の外をぶらぶらする。


ガラスの天井から降りてくるキラキラとした明かりがオシャレな空間を包み込んでいる。そのなかにアウトレットモールで見かけるようなかわいらしい露天があった。少し興味がわいて近づいてみると露天商が僕に声をかけてきた。


「ヘイブラザー!買っていかない?安くするよ!」


むっ、洗練された空間に似合わない兄ちゃんだな。しかし売ってる小物はどれもおしゃれだったりかわいかったり、女の子ウケしそうな物がいっぱいおいてあった。


「さっきのカワイイ子、ブラザーのガールフレンドだろ?なにかプレゼントしたらどうだい?」


ガールフレンド?そんな風に見えた?ぐへへ。買ってあげてもいいかもしれないけど、なにせ僕にはお金がない。よし、ここはひとつ芝居を打つか!


「アイ キャント スピーク イングリッシュ ウェル」

「なんだいブラザー、外国人か。どこからきたの?」

「ジャパン」

「おージャパンね!俺はジャパン大好きだよ〜!アイ ラブ スシ」


おお、さすがは露天商。外国からの観光客相手の商売はお手の物ってか。さて、なにか欲しいモノが売ってるかな?あ!これいいかも。


「ハウマッチ?」

「ん?その置物は12ドルだな」


くそ、買えないじゃねえか!


「ディスカウント プリーズ」

「せっかく日本から来てくれてるんだしな……。よし10ドルに負けてやろう」


くっ、それでも持ち金が足りないんだ!


「アイ ゴー バック ジャパン、トゥデイ」

「今日日本に帰っちまうのか……それなら9ドルでどうだ?」


もう一声!


「アイ ハブ 8 ドル オンリー」

「あ〜8ドルしか持ってないのか……。それじゃあこっちのガラスの星条旗はどうだい?本来なら15ドルするものだけど8ドルに負けてあげるよ!いいアメリカ土産になるぞ〜」


まったく、アメリカ人はどんだけ自国の旗が好きなんだよ。


「オ〜、 タイム トゥ ゴー バック ジャパン。 グッバイ」

「もう帰る時間だって?えーい、せっかくのアメリカ旅行だ!さっきの置物、8ドルでいいよ!」

「ほんとに?どうもありがとう!神のご加護があなたにありますように!」

「あれ?ブラザー英語喋れるの?」

「ちょ、チョットダケね」


露天で買った小物をポケットに忍ばせると同時にリア様がやって来た。


「あら、加納くんも何か買いましたの?」

「うん、まあね。このお兄さんがだいぶ負けてくれたから」

「へー、何を買ったんです?」

「えっと……ガ、ガラスの星条旗だよ。アメリカらしくていいなと思って」

「そうでしたか。ここはホントに素敵な所ですよね。必ず誰かの欲しいモノが売ってます」


うん、僕もすてきだと思いますよ。欲しいモノを変えるだけのお金があればね。僕じゃこんな小物を買うのも精一杯です。

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