リア様、初めてのコンビニおにぎり
「さて、アイスが溶けないうちに食べたいけど、どこか良い場所あるかな?」
僕はリア様に尋ねてみる。リア様ならきっといい場所を知っているだろうから。
「それならすぐ近くにボストン公共図書館があります」
「え、さすがに図書館で食べるのはまずくない?」
すかさずケイがつっこむ。
「図書館の中じゃありません。エントランスの前にベンチ状の長い階段があるんです。以前地元の人たちがそこで軽食をとっているのを見て少しうらやましかったんです」
そういうわけで僕たちは図書館前の階段で食事をする事にした。
入り口前の階段は僕が想像していた物よりよっぽど長く、これなら食事をしても人に迷惑をかける事はないだろう。目の前には素敵な公園が広がっているし軽食をとるにはうってつけの場所に思えた。
「それではさっそくアイスから食べようか、溶けないうちに」
僕はビニール袋から雪見だいふくを取り出した。
「確かに見た目はだいふくですね」
「リアさんはこのようじを使って」
「パッケージの中に同梱されているんですね!画期的!でも加納くんはどうするんです?」
「だいふくのいいところは手づかみでも食べれる所だよね」
そういって僕は雪見だいふくを口に含んだ。
ああ、この味だよ。ちょうどいい甘さが口の中にじわ〜っと広がっていく。カフェテリアのアイスクリームも悪くはないんだけど、僕には少し甘すぎる。
「すごい!ほんとにおもちなんですね。なのに中はアイスクリーム。面白いですわ!」
リア様も気に入ってくれたようでなにより。やはり日本のお菓子やアイスクリームは最強だ。
僕たちの横ではケイとニコラがアイスクリームをおいしそうに食べている。イタリア人の口にも合えば良いんだけど喜んでもらえるだろうか?
「なんだかチープな味わいだね」
ガーン。たしかにイタリアのジェラートと比べたら安っぽい味かもしれないけど。これはこれでおいしいだろう?
「さっぱりしていて間食にはいいかもしれないね」
うーん、ちゃんとフォローしてくれているが、どうも歯切れが悪い。やはり人間食べ慣れた物が1番と言う事だろうか。
ケイたちがさっぱりしたアイスを食べている間に僕たちはおにぎりを食べることになった。
「これは……どうやって開けるんです?」
やはり初めての人にはわかりにくいか。僕も小さい頃無理矢理開けようとして、ビニールに海苔の大半を持っていかれたことがあったっけ。
僕が開け方を教えてあげるとリア様はキレイに海苔を巻き付ける事に成功した。
「なんて画期的なんでしょう。これでいつでもぱりっとした海苔を楽しめるんですね」
日本人のおにぎりにかける情熱がこんな素晴らしい物を生んだんだろう。う〜ん、それにしてもうまそうだ。僕もいくつか買っておくべきだったかな?
「よかったら半分食べていただけませんか?」
そんなに物欲しそうな眼をしていただろうか。僕が同意を示すと、リア様が手ずからおにぎりを半分に割ってくれた。ぱりっと言う音がなんとも耳に心地いい。
どうぞと手渡されるが、リア様の手に触れる事を一瞬躊躇してしまった。タクシーから降りる際につなぎあった手の熱さがまだ頭に焼き付いていたのだ。だがその逡巡がまずかった。
互いの手が触れ合った瞬間におにぎりは重力に身を任せそのまま階段へとダイブしてしまった。それもツナマヨの面を下にして。
「ご、ごめん……」
「いえ、こちらこそすいません……」
残ったおにぎりを気まずそうに食べるリア様。ああ、初めてのコンビニおにぎりの思い出は誰しも悲しい運命をたどる物なのか!?
みんなで軽食を済ますと、これでニコラのプランは終了となった。
「案外早く終わっちゃったね。どうする?もう帰る?」
申し訳なさそうにニコラが尋ねる。
「それならみんなでプルデンシャルセンターに行きませんか?」
ボストン通のリア様が即座に新たなプランを提案してくれた。
「それってどこにあるの?」
「どこもなにも、そこに立っているビルの中です」
リア様が指差したのは10メートルほど先にある建物だった。
「あそこはどんな施設なの?」
すっかりリア様と打ちとけた様子のニコラが尋ねる。
「有名な服飾ブランドやレストランが入っている大型のショッピングモールですわ。ボストンに来たからにはここで買物しない手はありません!」
熱のはいりようから察するにここはリア様のお気に入りのようだ。しかしどうしよう。僕の財布にはもう8ドル(およそ800円)しか入っていない!




