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チェリーマート

 化粧品のお店を出てからも前に女子2人、後ろに男子2人の並びがなかなか崩れない。ケイが果敢に女同士の会話に割り込もうとするが、買ったばかりの化粧品の話題にはさすがのスーパー紳士も対応しきれないようだ。


 しかし漏れ聞こえる会話を聞いてると所々に『シュウ』という単語が出てくる。


「ひょっとして僕の事話してる?」

「え?話してませんわよ」

「話してないよねー」


 なんだこの予定調和?


 もう1度耳をすましてみると、今度は「シュウ」の部分をことさら大きく話すようになった。


「ねえ、それやめてくれない?ものすごく気になるんだけど」

「あら、自意識過剰ですわね」

「シュウ、この買物袋よく見て」


 ん?買物袋?shu uemura……?


「アノお店の名前がシュウウエムラなんだよ。ハハハ」


 ニコラが何とも面白そうに笑う。なるほど、そういうことだったのか。そういえばビッチのミラもシュウウエムラがどうのと前に言っていたっけ。化粧品ブランドの事だったんだね。




「さあ皆さん、もう少しでつきますわよ」


リア様がニコラに成り代わりすっかり進行役を務めている。


「ああ、リアにはもうバレちゃってるのか〜。あのサクランボの看板が今日の最終目的地だよ」


 ん〜と、チェリーマート?あ、それを略してチェリマか。女子はなんでも略したがるよな。カフェテリアのこともカフェテリとか言ってるし。


「それでそのチェリーマートには何が売ってるの?サクランボ?」

「サクランボがおいてあるかどうかは知らないけど、きっとシュウが喜ぶ物だよ」




 半地下のお店に入るとそこには日本で見慣れた商品がたくさんおいてあった!


「ここは……」

「日本人向けのお店だよ。皆が喜んでくれると嬉しいんだけど……」

「喜ぶなんて言葉じゃすまないよ!ああニコラ、君はなんていい子なんだ!」


 どれもこれも懐かしい!お菓子にインスタント食品、週刊少年ジャンプまでおいてあるじゃないか!


「こんなに喜んでもらえるなんて思ってもいなかったよ。よかった〜」


 おお、ビデオやDVDのレンタルまでしている!ガキ使にドラえもんに……わからないタイトルもあるけど、ひょっとしてこれ日本で今放送されてる番組じゃないか!?


「心置きなく買物してね」


 もちろんそうさせてもらいます!しかし使える金額は極わずか。今日のデートのために何度もご飯を抜いて来たとはいえ、湯水のごとく使えるわけじゃない。


 その点ケイはと言うと目についたものを片っ端からかごにつっこんでいく!


「ケイ、おまえってそんな風に買物する奴だったっけ?」

「せっかくニコラが連れて来てくれたんだから買わなきゃ失礼だろ」


 だからっておまえ、そのメイク落としはいつ使う予定なんだよ?


 狭い店内を一周すると、リア様が日本から持ってこられたのであろう最新の雑誌に釘付けになっていた。


「やっぱりリアさんも懐かしい?」

「いえ、私日本ではなかなかこういうお店に入る機会がなかったもので」

「え?ここって日本で言えばコンビニのようなものでしょ?」

「はい。ですからコンビニに行く機会がなかなかなかったんです。ですから目につく物がどれも面白くって!」


 なんてこった。どうやったら日本でコンビニを使わず生活できると言うんだろう。僕(庶民)とはとことん生活スタイルが違うんだろうなぁ。


「加納くんはコンビニはよく利用されていたんですか?」

「うん。高校帰り毎日のように寄ってたよ」

「どんな物を買っていたんですか?」

「例えばそこにある飲み物とか……」

「コーラならアメリカでも買えるじゃありませんか」

「そうだね。あとはおにぎりやサンドイッチ……」

「おにぎり!?」


 リア様がおにぎりに食い付いた。


「おにぎりがそんなに珍しい?」

「はい。高校の頃男の子たちが食べているのを見ておいしそうだなーって思ってたんです」

「ここにもいくつかあるみたいだから買っていったら?」

「え?でもそれではせっかくの晩ご飯が食べられなくなってしまいますし」

「1個くらい平気だよ。食べられなければ……その、僕が食べてあげるし」

「そ、それでは1個だけ……」


 そういうとリア様はうれしそうにツナマヨのおにぎりを自らのかごに入れた。


「ほかには、他にはどんなものを買っていたんです!?」


 おお、リア様の目が輝いている。あれ?リア様はもうチェリマに来た事あるんじゃないの?


「前来た時はとてもおにぎりが欲しいだなんて言える雰囲気じゃなくて……」


 なるほど。女の子同士でコンビニに来ておにぎりもないか。


「日本のコンビニで買ってた物か〜。あ、この季節ならアイスをよく買ってたよ。部活帰り、ほてった体にアイスがひんやりおいしくてさ〜」


 あ、リア様がつばを飲み込んでる。


「ひょっとしてこれがアイスのコーナーですか?」

「おお、懐かしい物がいっぱいだ!」

「どれもおいしそうですね……。加納くんのオススメはどれです?」


 おすすめか……あ、雪見だいふく発見!


「なんですかそれ?」


 ホントに食べた事がないんだろうな。なんとも不思議そうな顔をしている。


「雪見だいふくって言って、アイスクリームが柔らかいお餅でくるまれてるんだよ」

「それはおいしそうですね〜」

「2個入ってるからリアさんもいっしょに食べてみない?」

「よろしいんですか!?」


 なにをそんなに驚いてるんだろう。僕だって人におごる事ぐらいあるってーのっ!


 アイスクリームは最後にかごに入れる事にして、僕たちは買物を思う存分楽しんだ。大好きな鮭フレークやいくら、イカの塩辛なんて物も売っていたが、値段も高いし、なにより米も飯を炊く環境もない。僕はご飯のともを泣く泣く棚に戻した。


 ご飯と言えば土鍋もこのお店においてあった。もしかしたらジョージさんもここで買ったのかもしれないな。


 結局僕は食材を数点、ジャンプ、そして雪見だいふくとペットボトルのお茶を買った。学校のカフェテリアには様々なドリンクのディスペンサーがおいてありとても嬉しいのだが緑茶がないのが少し寂しかった所だ。


 リア様は女性向けの雑誌と細々(こまごま)したメイク道具、そしてツナマヨおにぎりを。


 ケイはかご一杯のお菓子や食品を買っていた。


「今日の食事会が終わった後のデザートだよ」


と本人は少し恥ずかしそうに言い訳をしていたけど、そのかごの中に僕が日本から持って来たのと同じカレールーを見つけた時は思いっきり吹き出してしまった。

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