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日本につれて帰ってしまいたい

 4人で道を歩いていたら道路に赤い線が描いてあった。それも数メートルどころではなくずっと先まで、ストリートが折れ曲がっても続いている。


「この線なんだろうね?ボストンに来るとたまに見るけど」


 僕が尋ねるとリア様がこれまた自信満々に説明してくれた。


「これはボストンフリーダムトレイルと言って、この線を辿って歩いていくと様々な観光地を楽しむことができるという物です」

「へー、それは便利だね。リアさんはもうやってみたの?」

「当然です。……ただし途中で他の子たちがバテてしまい最後まで行けませんでしたが」


 リア様何気に体育会系だもんな。靴さえちゃんとしてればどこまででも歩いていけるんだろう。少し歩くと知っている所に出た。


「ここを左に曲がってちょっと歩けばこの前皆で一緒に行った水族館。右に曲がると、リアにとっては悪い思い出かもしれないけど、ボストンコモンに出るよ」


 ニコラがボストンの地理を教えてくれる。これまでけっこう広い範囲へでかけたような気になっていたが、こうして聞くと案外狭い範囲にとどまっているんだな。それだけ観光すべき場所が密集してるってことかもしれないけど。


「悪い思い出だなんて。私あれから何度もボストンコモンに来てますよ」

「へえ、意外だな。中院さんはこういうとこ興味ないと思ってた」


うん、僕もケイと同意見。まあ、第一印象が悪すぎたよね。


「日本でこれほど素敵な公園となるとなかなかありませんからね。都心となるとそれこそ皇居くらいしかありませんもの。こんな贅沢な場所に訪れない理由がありません」


 なるほど、お金持ちは逆にこういう所を好むのかもしれないな。僕のばあちゃんちに行けば自然なんてそれこそ360°腐るほどあるのに。


「じゃあこれからボストンコモンの中を抜けて目的地に行こう!」


 ニコラが嬉しそうに歩き出した。そのあとを追ってリア様も楽しそうに景色を眺めている。なんだか素敵な光景なんだけど……


「なあ、ケイ」

「どうした?」

「何でおまえスーツなのに汗ひとつかいてないの?」


 今は8月の真っ昼間。いくら青森と同じ緯度だからって、暑くないわけがない。僕もさっきまでスーツを着ていたが、耐えられなくなりとっくに脱いで肩にかけている。


「そんなもん気合いで止めるんだよ。役者ならこういう事できるって聞いてるけど?」


 そんなことができるのは子供のころからしっかり訓練してる奴だけだよ!

高校演劇を学んだ程度で身に付くスキルじゃない。


「おまえはどうやってそのスキル身につけたんだよ?」

「まあ、紳士たるものこれくらいはね」


 ザコ紳士からノーマル紳士へとステップアップするためには、ものすごく高い壁を越えなければならないようだ。




「あー!リス!!」


 公園内の木にたくさんのリスを発見したニコラが猛ダッシュでリスに近づいた。

その気配に驚いたリスたちは一斉に人間の手の届かない所へと逃げていく。


「あ〜あ、逃げちゃった……」


 こんな所を見るとニコラもまだまだ子供なんだなって安心する。ケイが落ち込んでるニコラを励まし、樹上にリスが何匹いるかいっしょに数えだした。


「微笑ましい光景ですね」

「だねー」


 僕としてはこの光景を微笑ましいと思っているリア様を含めて微笑ましいわけだけども。


「リアさんはこれからどこに行くかわかった?」

「ええ、もう見当はついてます」

「すごいな!さすがいろいろ観光してるだけの事はある。ちなみに答えは?」

「たぶんチェリマだと思うんですが……ついてのお楽しみですよ」


 ちぇりま?なんだか英語っぽくない響きだな。飲料メーカーの名前だっけ?




 ボストンコモンを抜けるとなんだかきれいな通りに出た。


「ここはニューベリーストリートです。とてもオシャレなお店や建物が並んでるんですよ」


 ニコラに先んじてリア様が説明してくれる。


「きっとリアはこういう所好きなんじゃないかと思ってコースに入れておいたんだ〜」


 おお、ニコラはそんなことまで考えてくれていたのか。なんかリア様、今の言葉聞いて感動してるし。


「ああ、ニコラ。私の友人があんなに冷たくあたっていたのに……」

「そんなの昔の事でしょ。気にしないでよ」


 そういって太陽のように笑うニコラを、感極まったリア様が抱きしめた!


「ああ、ニコラ。なんていい子なのかしら。日本につれて帰ってしまいたい」

「じゃあいつか遊びにいったらよろしくね」


 ……あれ?リア様別に同性が好きってわけじゃないよね?マサチューセッツはたしかに同性婚が認められてるけど、それを狙って来たわけじゃないよね!?これで高橋さんやニコラが好きだとか言われたら洒落にならない。


 なぜだか急速に仲良くなった2人は手をつないで歩き出した。


「おいシュウ、どうなってんだよこれ」


 不穏に思ったケイが僕に耳打ちしてくる。


「そんなのこっちが聞きたいくらいだよ。そもそもリア様が僕に気があるとかいい出したのおまえじゃなかった?」

「たしかにそう思ったんだけど、この光景を見てると自信無くす」


 おいおい、頼むよ。おまえの言葉に後押しされて積極的になれたのにこのままでは自信が枯れ果てちゃいそうだよ。

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