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トーフル結果発表

7月最終日、今日はトーフルの成績発表が授業の後に控えている。そのため大学進学を控えているグループは完全に上の空で授業を受けていた。もちろん僕も例外ではない。そんな僕の意識をつなぎ止めるようにパメラの張りのある声が舞台に響く。


「それでは卒業発表の演目はロミオとジュリエットってことでいいね!」

「はい!」


リア様ずいぶん元気いいなぁ。何かいい事でもあったのかな?成績発表後、僕もあんな風に笑っていたいものだ。


「今週末までに各自台本を読み込んでおいで!月曜日にはオーディションをするよ!どうしたら自分の魅力を最大限に発揮できるかしっかり考えてくる事!いいね!?」

「はい!」


そうだ、もし奨学金をゲットできたらリア様をデートに誘ってみようかな。もしケイの妄言通りリア様が僕に興味があるって言うなら来てくれるかもしれない。


「ヘイシュウ!ちゃんと聞いてるのかい!?」

「え?はい」


すいません、何も聞いてませんでした。


「まったく、ロミオになるのは劇中だけにしておくれよ」


ん、ロミオになる?どういうことだろう?英語独特の言い回しかな?それともただ単に僕にロミオ役をやって欲しいってことだろうか。


「オ〜、冗談の意味が通じないのはむなしいねぇ。シュウ、アンタに宿題だ!ロミオの意味をちゃんと調べておいで!」


役作りのためにしっかり勉強してこいってことかな?でもケイとニコラの仲を取り持った僕としてはロレンス修道士をやってみたいんだけど……。




放課後、講堂にトーフルを受講した留学生全員が集められ成績表が配られた。


勉強をやってもやっても伸びない時期があった。しかしそれも次へのステップを上がるために足下を固めていただけのこと!実際にトーフル直前にはステップをひとつ登ったと言う実感があった。だからどうか奨学金カモン!!


「シュウ、おめでとう!あんたの目標クリアだね!」


よっしゃあああ!幻聴じゃないよね?うん、たしかに手渡された紙にも基準点より遥かに上のスコアが記されている。講堂の後ろの方でホワイト教授が静かに拍手を贈ってくれている。教授!僕やりましたよ!今までありがとうございました!


僕に続いてケイが教室の前に呼び出される。


「ケイ……8月のトーフルまでまだ時間がある!絶対に諦めるんじゃないよ!」


パメラの激励を聞く限りやはりケイはだめだったか。どれ、少しは慰めてやろう。


「残念だったなケイ。まあ次があるさ」

「ったく、自分が奨学金ゲットできたからって気軽に言ってくれるよな……」

「それでスコアはどうだったんだ?ちょっと見せてくれよ」

「ああ……これだ」


げっ!?なんだこれ、僕とほぼ同じスコアだと?というかわずかにケイの方が上回っている!僕ががんばって砂の足場を固めてるうちに、ケイは鉄のはしごでも使ったというのか!?愛の力のなんと堅固なことよ。


二コラはさすが飛び級と言うべきか、満点を叩きだし余裕の合格を勝ち取った。


「おめでとう二コラ。満点なんてかっこいいね」

「ありがとうシュウ。これも皆がいてくれたおかげだよ」

「わずかでも君の力になれたならそれが僕の喜びさ」


日本語ではこんな歯の浮きそうなセリフ絶対言えないなぁ。演技の授業が日常生活にまで影響を及ぼしているのを感じる。


「よし、二コラの合格を祝してまた4人で遊びにいこう!」


と言い出したのはケイである。おまえたった今不合格言い渡されたばかりなのに何を言ってるんだ?


「ケイはこれから勉強しなきゃダメでしょ!」


そのとおり!良かったなケイ、ちゃんと叱ってくれる彼女で。


「お祝いしたらちゃんとやるから!むしろお祝いしないと勉強が手につかない!」

「そ、そういうことなら……仕方ない、かな?」


折れるの早っ!まあ中身は13歳の女の子なんだから仕方ないか。自分の合格を祝ってくれる彼氏の申し出を断りきれるはずもない。ここは僕が心を鬼にしなければ。


「ケイ、おまえここで落ちたら二コラとお別れだってわかってる?おまえの志望大学には語学研修所なんてないから、下手したら9月からもこの女子大に通うことになるんだぞ?」

「く、そうだった……。仕方ない、今回のボストン行きは諦めるか……」


待てよ?ケイにボストン行きを諦められたら僕もダブルデートができなくなるのか。う〜む、デートしつつもケイの成績を上げるいい方法がどこかにないものか。


「そうだ!私がケイに勉強教えてあげる!そうすればきっと合格できるよ!」


おお、それは確かにいいアイディアかも。しかしプライドの高いケイがそれを受諾するかどうか……


「なんて素敵な提案なんだ!次のトーフルまでよろしく頼むよ二コラ!」


プライドよりも一緒にいられる喜びが勝ったか。うん、ケイはそういう男だ。普段の見た目や振る舞いは僕と全然違うけど、根っこの所は同じ男なんだと実感する。


「それで?今回はボストンに遊びに行くの?行かないの?」


僕が訊くとケイも二コラも満面の笑みで「行く!」と答えた。

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