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アーグルトン州立大学 バスツアー

スクールバスに乗り込むとかなり豪華な内装に驚いた。


「席がちゃんとふかふかなんですね」

「そうなのよねー。気持ちよくて何度乗り過ごして授業に遅刻しそうになった事か」

「だから俺が車で送ってやってるんだぜ」

「もう、そういう事を後輩の前で言わないでよ!」


真由子さんのこと、これまでしっかりものだと思ってたけどこういう面もあるんだな。きっと今まではメンターとして気を張りつめていたんだろう。


「シュウの専攻はシアターだったよね?」

「はい、そうです」

「だったらいずれメインになるのは南キャンパスね」

「じゃあこのまま南キャンパスまで行くか」


ん?寮が北キャンパスでメインの授業は南キャンパスなの?


「……そんな正反対のキャンパスでこれから大丈夫ですかね?」

「平気平気。最初の1〜2年は北キャンパスでの一般教養がメインになるから」

「ぱんきょうの中に数コマ専攻を入れてくと空気が掴みやすいかもな」


なるほど。それだとしばらく演劇の勉強はお預けかな。


「専攻科目が増えだしたら南キャンパスに移るか、アパートを借りれば良いのよ。私たちみたいにね」

「確か真由子さんはアートメジャーでしたよね」

「よくおぼえてたわね。ちなみにアートのクラスも南キャンパスがメインだから、そのうちきっとよく会うわよ」

「まゆまゆはシュウが3年になるまでずっとここにいるつもりか?」

「あ、そうだった。ごめん、さっきの訂正!」


そう言ってまゆま、真由子さんはぱちんと両手をあわせた。あー相変わらずかわいい生き物だな。あなたがいるなら時間をかけて南キャンパスに来るのも悪くないかもしれない。


「そういえばジョージさんは何を専攻してるんです?」

「俺?俺はスポーツ医学だよ」


おお、なんだかかっこよさげな学問だな。


「俺は子供のころ地元のスポーツ少年団でピッチャーをやってたんだよ」


でた!運動神経のかたまりのようなやつ!絶対ドッヂボールで大活躍してた人だ!


「だけど無理な投げ方がたたって肘を壊しちまってな」

「あ、それで同じような立場の子を助けるためにスポーツ医学を?」

「ちょっと違うな。もちろん俺みたいな奴を出さないのは大切な事だけど」

「じゃあどうして?」

「野球ができなくなって周囲にあたってた俺に、空手を教えてくれた師範がいたんだよ。とにかく厳しい人なんだけど、その人のおかげで俺は自暴自棄から立ち直ることができてさ」

「あ、ジョージさんのいうマーシャルアーツって空手だったんですね」

「ああ。それで高校で将来どうするかって話になった時、俺がなりたかったのが師範のような人でさ。それを師範に言ったらさ『おまえは広い世界を見てこい。そして世界中でおまえのように腐っているやつを助けるんだ』って言われてさ。それでまずはアメリカでスポーツ医学を勉強して、いずれは世界中のどんな子供にでも夢を与えられる人間になろうと思ったのさ」


うおお!なんだこの人、かっこいいな!


「それでこの夏は友達を頼って東南アジアの方へ旅してきてな。貧しい子たちにスポーツを教えて来たんだよ」


あー、どうりでそんなに日焼けしているわけだ。って、聞いてる真由子さんの目がとろんとしてる。まあこれは惚れる気持ちもわかるけど。


「そういうシュウはなんでシアターメジャーなんだ?」


ああ、やめてくれよ。ここで「ハリウッド映画に憧れて」なんていったらいい面の皮じゃないか。


「僕も世界を見ておきたくて」

「それなら大学では日本人とばかり話してないで、世界中に友達を作っておけよ。そうすればいざって時に遊びにいけるから」


僕としてはジョージさんがその外国人の一人だったんですけどね。しかし外国人の友達を頼ってその国に遊びにいく、か。ずいぶんと面白そうなことしてるんだなこの人。


その後は、スポーツ医学などを学べる西キャンパス、演劇や芸術科目が習える南キャンパス、そして様々なテクノロジーを学べる東キャンパスを巡りツアーは終了した。


ついでに南キャンパス近くの先輩たちの新居も見せてもらったが、ここがなかなか素敵な所だった。


「もし数年後、俺たちが出て行くときにおまえが行く所見つかってなかったらここに住めばいいよ」

「え、ホントですか?」

「ああ。俺の場合も、もともとここに住んでた日本人の先輩から住んでみないか誘われたんだ。ここの大家が先輩を信頼してくれて、同じ日本人なら使わせてもいいって話になったらしい」


なるほど、信用の少ない外国人である僕らにとって、そういった人のつながりはとても大切な物のようだ。もし数年後僕に行くあてがなかったらぜひここに住まわせてもらおう!


「まあ、俺がその信頼を壊しちゃうかもしれないから、あまりあてにされても困っちゃうけどな、ハハハ」


……この人こんなんでちゃんと大学卒業できるのかな?




語学研修所に帰ると寮母さんと話していたケイが僕を出迎えてくれた。


「お、シュウお帰り。大学見学ツアーはどうだった?」

「とにかく規模がでかかったよ。さすがアメリカって感じ」

「だよな。俺が前までいこうとしてた学校なんて空港完備だぜ。どうなってんだろうなこの国は」

「設備で言えば劇場がとにかくすごかったよ!規模といい機能といい、あれはプロが使う物となんら遜色無いね!あんなところでショウができると思うとわくわくするよ」

「収穫はたっぷりって感じだな」

「ああ、なんとしても奨学金を勝ち取りたいね」


7月末、もう少しでトーフルの結果発表がやってくる。あんなに頑張ったんだからどうか奨学金ゲットできますように!まあダメだったとしても8月のトーフルで絶対ゲットしてやるけどね!!

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