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アーグルトン州立大学 北キャンパス 学生寮4階

「ここがシュウの寮ね。ビルの小屋から少し遠いなぁ……」

「遠いと何か問題が?」

「問題ってわけじゃないけど、あの小屋の隣りにランドリーがあるから、ちょっと歩かなくちゃいけないのよね」


なるほど、洗濯物の多い女性としてはランドリーが近い方が何かと便利なんだろう。


「さあ、入って。夏に続いて次セメも私がメンターやるから何でも訊いていいんだよ!」




寮の中でまず目にしたのはテラテラした白い壁に、薄い緑色の床と急な階段だった。これを毎日4階まで上り下りするのは少し骨が折れそうだ。


「この寮はまずこの階段を境に、男子エリアと女子エリアに別れてるのね。おいそれと女子エリアに入ったら通報されかねないから気をつけて」

「……すいません」


すいませんって、ジョージさんあんたいったい何したんだ?


「1階と2階、3階と4階はそれぞれひとつの区画になってて、中にも階段があるの」

「中にも階段?」

「まあ見せた方が早いぞまゆまゆ」


そういってジョージさんは4階の男子フロアのドアを大きく開け放った。



中に入ると小さいリビングとキッチンがあった。


「この区画の共同キッチンとリビングね。冷蔵庫は使ってもいいんだけど入ってくる人によっては勝手に食べられる事もあるから注意して」

「そんなことがあるんですか!?」

「あるぞー。嫌だったら小型の冷蔵庫を部屋に置いた方がいいかもな」


僕にそんな余裕はありません。神様仏様、どうか素敵な人たちと同じ寮にしてください。


「ここがシュウの部屋ね」


そういって真由子さんが導いてくれた部屋には気持ちのいい光がいっぱい差し込んでいた!


「まっぶしい……」

「南向きのいい部屋じゃないか。景色も最高だぞ!」


ジョージさんにつられて窓から景色を見ると、そこには広大なキャンパスと

その背後に広がる広大な森があった。


「へー!この学校にも森があるんですね」

「ここにはあんまり動物いないけどね」

「あんまり奥に行くと出て来れなくなるから気をつけろよ」


ハハ、まさか。冗談だよね?……え、なんで2人ともそんな深刻な表情で森を見つめてるの?な、何か別な話題はないかなーっと。


「あ、ベッドがふたつあるってことはふたり部屋なんですねここ」


部屋には左右対称にベッドと勉強机、そしてクローゼットが置かれていた。


「どんな人がルームメイトになるんだろう」

「私の初めてのルームメイトがミラだったのよ」

「え?ミラってあのビッ……」

「お、シュウはミラ知ってるのか!そうだよ、あのビッチだ!」


人がせっかく言いよどんだのにそんなはっきり言わなくても!


「ミラは9月からどこで生活するんだ?」

「あの子はこれからもこの寮に住むみたいだよ」

「ああ、また新入生が食べられるのかぁ」

「食べられるとか言わないの!ごめんねシュウ、気にしなくていいからね〜」


ええ、気にしていません。全部想像の範囲内です。




「あれ?ジョージと真由子か?おまえらも新入生の案内?」


そう話しかけてきたのはヒップホップが大好きそうな黒人さんだった。ぶかぶかの帽子と金のアクセサリーがよく似合っている。その後ろにはやけにひょろっとした黒人さんが付き従っている。


「こいつはマオ。スーダン出身だ。9月からここの語学研修生でこの部屋に住むことになる」


おお、コイツが僕のルームメイトか!


「こんにちはマオ。僕はシュウ。9月からよろしくね」

「ハロー……シュ?」

「シュウ。靴といっしょ」

「おお〜シュー!ハロー、モウだよ」


あれ?モウ?僕が聞き間違えたかな?


その後何度か「マオ?」「モウ?」と訊いてみたが、どうやら彼には同じ言葉に聞こえるらしい。ためしに「マウ?」って訊いたらそれでもいいと言っていたので僕は彼をマウと呼ぶ事にした。


マウとのファーストコンタクトもそこそこに、僕たちは中階段を使って3階部分に降りた。


「ここには共用の風呂がある。といっても湯を貯めて使う奴なんかまずいないがな」

「みんなシャワーで済ませちゃうし掃除しないから、とてもお湯を張る気になれないの」

「こんなにきれいなのは最初だけだからな、覚悟しとけよ」


語学研修所のシャワー室には清掃業者が入ってるからここもそうなのだと思い込んでいた。でもまあちゃんと風呂掃除さえすれば湯船につかり放題な訳だ。いいこときいたぞ!




「寮の説明はざっとこんな感じだな。質問あるか?」


細かく訊きたい事はいろいろあるけども、訊いておかなくちゃ行けない事がひとつある!


「ごみの処理はどうすればいいですか?」

「ごみ?……ずいぶん家庭的な事を訊くんだな」


人間が生きていく限りどうしてもゴミが出るからね。語学研修所では袋を所定の物置に入れておけば翌日には無くなっているが、ここもそうとは限らない。


「ここではゴミを自分で回収コンテナまで捨てに行くの。ちょっと見に行ってみる?」

「はい」


僕の家庭的な面を見せたら話題が掃除や洗濯、料理などの家事全般に向いた。ジョージさんは見た目通りそういう事が苦手なようですっかり無口になっている。


「それでね、新居のために2人で新しい炊飯器を買ってみたの。これがとってもおいしく炊けてね」

「それはうらやましいなぁ。僕は炊飯器がなかったから土鍋で炊いたんですよ」

「土鍋なんてどこにあったの?」

「寮の倉庫に置いてありましたよ」

「ああ、それたぶん俺の土鍋だわ」

「ええ!?ジョージさん料理しないんじゃないんですか?」

「ああ、全くしないんだけどな。ボストンの日本人向けストアーでアレを見つけてどうしても欲しくなっちまったんだよ」

「それで新品のまま倉庫においていったんですか?」

「いや、たしか1回だけ……」

「あ、みんなで闇鍋やったよね!その土鍋か〜」


闇鍋だと?あの土鍋使うときちゃんと洗ったっけ。結局僕はあのご飯食べられなかったけど、ケイたち大丈夫だったかな?

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