ジョージの正体
「いや、いきなり告白はちょっと気が早すぎるだろ」
これだから自分に自信のあるやつは困る。世の中には告白したくてもできない奴が五万といるんだよ!
「でもいっしょにいられる時間は限られてるんだろ?だったらすぐにでも告白した方がいいと思うけどね!」
「た、たしかにそうかもしれないけど……」
「よし、じゃあこのセット俺がとったらシュウは好きな子に告白な!」
「何でだよ!」
ジョージはすでに7番までボールを落とし、残る8・9番を落としきるのも時間の問題だ!って、言ってるそばから8番落としちゃったし!
「さあ、シュウはどうやってリアに愛の言葉をささやくのかな〜?」
ああ、9番が落とされる〜!
「ジョージ!!シュウに何を吹き込んでるの!」
真由子さんがものすごい顔をしながら談話室に殴り込んできた!
真由子さんに気付いたジョージはとっさに動きを止めたが棒が手玉にわずかにかすった。これはファールなので僕は好きな所に手玉を置いてプレーを始められる。
僕は無事9番を落とし、なんとか告白は免れた。
「リアさんに愛の言葉をささやく?ジョージが2人の何を知ってるの!?」
真由子さん、あなた頭に血が登りすぎて日本語話してますよ〜。僕は全然気にしてないんで、落ち着いてください。
「そんなこと言うなよまゆまゆ。俺とシュウは初対面ってわけじゃないんだぜ?」
「あれ?ジョージが日本語喋ってる……?」
そして『まゆまゆ』?
「悪いなシュウ。実は俺日本人なんだ」
えええええ!?なんだよそれ?タイ人の遺伝子を感じる?思いっきり同族だったよ!何でそんなに肌黒いんだよ!
「なんで今まで英語で……」
「まあ……なんというか……気になる後輩の学力チェックだよ」
後輩……だと……?
「ジョージはアーグルトン生で、私の同期なの。つまりはシュウの先輩ね」
「えっと、ジョージ……さんも先輩だったんですね」
「他人行儀だなぁ。今まで通りジョージ♡って呼んでいいんだぞ?」
今までそんな風に呼んだ事は一度たりともないよ!
それにしてもジョージさんが真由子さんをまゆまゆと呼ぶ親しい間柄だったとは……。そうだ。ちょうどいい機会だし
「これからは先輩のこと真由子さんって呼んでもいいですか?先輩が2人だと紛らわしいですし……」
「そっか……ちょっと寂しいけど私はそれでかまわないよ。ねえ、シュウスケ」
「あ、真由子さんも良かったら僕の事シュウって呼んでもらえませんか?ジョージさんにもそう呼んでもらってるんですよ」
「……うんわかった、シュウね」
これで真由子さんとだけの特別な呼び方は終了。気持ちに区切りを付けるいい機会になった。それにしても『まゆまゆ』かぁ。いつかそう呼べる日が来たらと心のすみで願ってたのに……。
「ねえ、シュウはもう大学見学って行った?」
「どこの大学です?」
この辺りにはけっこう有名な大学がいくつかある。そういう所が観光スポットになっていて、リア様なんかはとっくに行っているはずだ。
「何言ってんだよシュウ。大学と言えばおまえの行くアーグルトンに決まってるだろうが」
ああ、そりゃそうか。自分の行く大学にすら行ったことない奴が他の大学見に行ってやる事なんてないわな。
「まだ行ったことありません」
「それじゃあ今度の見学会で私が案内して上げるよ」
「お、それなら俺も付き合うよ。車も出すぜ!」
2人ともどうぞよろしくお願いします。そして末永くお幸せに……。
「ジョージさんって本名もじょうじなんですか?」
ジョージさんの駆るアメリカの中古車にゆられながら質問してみる。
「おう。譲るっていう字に、児童の児だ。アメリカ人におぼえてもらいやすくてラッキーだったよ」
たぶんアメリカ人からしたらケンとかクミ並におぼえやすい名前なんだろうな。僕も大学に入ったらしっかりシュウを広めていこう。
「ついたぞ!ここが9月からおまえが通うことになる大学だ!」
新築されたばかりなのか見た目はそこそこ素敵なキャンパスだった。きれいなのはいいんだけど、思っていたよりもずいぶんと小さい。これでは通っていた高校をふた周りほど大きくした程度じゃないか?
「ずいぶんと……かわいらしい学校ですね」
「あ、今アメリカにしては小さい学校だって思った?」
正解です真由子さん。どうしてこんなに小さいんでしょう?
「ここは学校で1番小さいキャンパスだからね。中央キャンパスって言うんだよ」
なんだ、ここ以外にもあるんですね。早合点してしまいました。
「ここではカフェテリアを挟んで右側の区画で音楽の授業をやっていて、左側で経済の授業をやってるのよ。あそこに見える体育館みたいなのは音楽ホール。学内コンサートなんかも見れるからけっこう楽しい場所なんだ」
ということは、音楽と経済のふたつの部門のためにこれだけの土地を使ってるってこと!?どんだけ広いんだよアメリカ!
「後ろを見て」
真由子さんに促されるまま見てみると、僕たちの後ろには住宅街と大きなマンションが広がっていた。マンションと言っても英語で言う所の豪邸ではなく、日本で言う所の豪華なアパートの方である。
「街の中に大学が溶け込んでるんですね」
「アハハ違うよ」
なにがそんなにおかしいんだろう?
「シュウ、おまえが見てるのは全部大学の施設だよ」
え、マジで?
「そこのマンションみたいなのが大学の寮。ただし留学生は2年目からしか使えない」
「どうしてですか?」
「うーん……自分で言うのもなんだけど信用がないんだろうな。ここに入るなら2年目からだけど、寮費がどんと跳ね上がるから要注意な」
じゃあ在学中僕には縁のない所だな。
「その下の住宅街みたいな所は……」
「職員のオフィスだったり、会議室や売店なんかもあるわね。教科書は全部あそこで買うことになるのよ。教科書の他にも様々な学校のグッズがいてあったりするわね。あ、今は夏休みでクローズか。残念、学校が始まったらのぞいてみてね」
うーん……まさかこんなに広い所だったとは。って、さっき真由子さんここが1番小さいキャンパスって言わなかったか?
「他はここよりも大きいんですか?」
「うんそうね。じゃあ北キャンパスに行ってみようか。シュウの住むことになる寮もそこにあるよ」
「どうせなら歩いていこうぜ。その方が場所もおぼえやすいだろ」
ここよりも大きな北キャンパス、一体どんな所なんだ!?