ジョージの恋愛相談室
7月もいよいよ最終週となり、ひょっとしたらこのまま最後までひとり部屋を満喫できるんじゃないかと思っていたら、新しいルームメイトがやってきた。そいつはあまり英語が喋れないアジア人で、ちょっと取っ付きにくそうな感じがする。
ああ、ジョージがルームメイトだったら良かったのになぁ。そういえば彼は今頃どうしているんだろう?トーフルの日の昼と夜に出会っただけで、授業ではまだ1度も一緒になった事がない。ひょっとして彼はここの生徒じゃなかったのかな?
せっかくの休日だし洗濯でもしながらプールの練習をしようと地下ヘ行くと、ちょうどジョージがそこにいた。クーラーの効いてる室内でコーラをぐびぐび飲みながらハリウッド映画を鑑賞している。
「やあジョージ!久しぶり!」
「おお、シュウじゃないか!元気だったか?」
そういってジョージと握手を交わす。ものすごくごつごつした手をしている。格闘技経験者だという僕の推測はそう的外れな物じゃないかもしれない。
洗濯機を動かして戻るとジョージがプールの準備をして出迎えてくれた。
「今日こそはやってくれるよな?」
「僕もおまえとできるのを楽しみにしてたよ」
ジョージの腕前はケイより少し劣る程度のものだった。だからといって僕が毎回勝てるわけでもないんだけど。ジョージのショットはパワーこそあれど、コントロールがめちゃくちゃだった。
「まったく、すごいパワーだな。何かスポーツやってるの?」
「ああ、マーシャルアーツをちょっとな」
マーシャルアーツ……格闘技って意味だったかな。やっぱりそういうことをやってる人には独特の雰囲気があるよね。
「ジョージはなんでマーシャルアーツをやってるの?」
「ハハハ、そんなの女にモテるためだよ」
おお、言い切りやがった。ものすごい自信だなぁ。
「いつの時代も女は強い男を求めてるものさ」
「やっぱり強くなくちゃダメだよなぁ……」
「ん?シュウはUSに好きな奴でもできたのか?」
「まあね。なあ、聞いてくれよジョージ……」
僕はこの学校に来て真由子さんに憧れ、恋し、告白する前に彼氏がいるとわかって諦めた事を簡潔に話した。ジョージとたいしたつながりがないからこそこんなに赤裸々に話せたのかもしれない。ジョージはただ黙ってその話を聞いていてくれた。年上の男の余裕を感じる。
「まあ、彼氏がいる女に告白しないのは正しいな。もし俺がその彼氏だったら告白した奴に俺のストレートをぶちかます所だ」
「まあ、そっちはもうきれいさっぱり諦める事にしたんだよ」
「なんだ?そんな簡単に諦められるような女だって言うのか!?」
「そんなわけないだろ!僕がどれだけ悩んでこの結論にいたったか……」
「す、すまんな。ついかっとなってしまった」
まったく、他人事なのにこんなに感情移入して。こんな奴だから初対面でも好印象を持てたのかもしれないな。
「話の腰を折って悪いな。その女性を諦めて、その先は?」
「……実は今、僕の事を好きかもしれない女の子がいるんだ」
「ほう、どんな子なんだ?」
僕はリア様についてもジョージに説明した。初めは子分を引き連れた女王様の様で怖かった事、でも実は自分の将来をしっかり考えてる子でとても立派だと言う事、水族館に行ったら僕にお土産をくれた事などなど……。話し始めたらきりがなかった。
「シュウ。おまえの話し振りを聞いている限り、おまえ、そのリアって子に恋してるぜ!」
……ああ、たぶんそうなんだろう。ここのところやる事が無くなると考えるのはリア様の事ばかりだ。同じ教室内にいればさりげなく目で追い、寮の自室ではもらったフォトフレームにばかり目がいってしまう。
それでも僕にはその事実を受け入れがたかった。
「この前まで僕には他に好きな人がいたんだよ?ところがその人に恋人がいるとわかった途端にこっちの子を好きになるなんて、そんなのダメだろ……」
ああ、こんなことまで話すつもりはなかったのに。
「たしかリアって子はおまえが真由子って女性を好きな事を知っていたんだったな」
「うん。それどころか僕の恋路を応援してくれてたんだよ。」
たまに見せるそんな健気な所も魅力的で……って何考えてるんだ僕は!?
「話を聞く限り俺は全く問題ないと思うぞ。要はタイミングの問題だ」
「タイミング?」
「そうだ。失恋したらそれを引きずってしばらく恋愛できないなんてよくある話だよな。1ヶ月?1年?それとも10年?立ち直るにはそれぞれのタイミングってもんがある。でもそいつらもいずれは素敵な女性を見つけて立ち直っていくんだ!シュウ、おまえはその女性を見つけるタイミングがたまたま早かっただけなんだよ!何も気に病む必要なんか無い!」
そうか、そんな考え方もあるのか……。ジョージの話を聞いていたらここの所感じていた罪悪感が不思議と消えていった。
いや、今までは罪悪感とすら認識できずにいたような気がする。リア様を見るたびにわけのわからないモヤモヤとした感情に苛まれていたから……。
ジョージと話す事によってそのモヤモヤの正体が『新しい恋をする事に対して抱えていた罪の意識』だとわかった。それどころかジョージはその罪の意識を僕の中から取っ払ってくれたのである!
「ジョージ……君のおかげで僕は新しい恋に積極的になれそうだよ!」
「それはよかった。じゃあさっそく告白だな!」
……はぁ?